最近、兄は危険なことに関るようになったっぽい。
「…どこ、ここ」
冷たい場所。
薄ら寒くて、床も固くて、むき出しの鉄の棒があって、
まるで、というか牢屋だと思われる場所。
なぜ自分はこんなところにいるのか、なんてわからなかった。
「…確か、いつも通り自室に篭ってて、それから…それ、から…?」
いつも通りPCやってた。いつも通り夜中だった。いつも通り電気を消してやってた。いつも通りいつも通りいつも通り、
…いつも通り?
「…あ、そういえば、窓…」
こつん、と音がしたと思って音のした方向…つまり窓を見たら、部屋の中に誰かが立ってた。
鍵は閉めておいたはずなのに。寒いから。
誰、とかどうやって入ったんだろう、とか思いながら記憶が薄れていった…とこまで覚えてる。
まぁ、ここまで覚いだせたなら後は簡単で、え?これって気をつけようなかったじゃん。とか思いながらも、寒いなぁと思い近くにあった布団…というかただのタオルケットみたいなのを手繰り寄せる。
そんなことをしてたら、誰かが来たのがわかった。
カツカツカツ、と足音がする。硬い床に靴が当たる音だ。
牢越しに向こう側を見つめれば、真っ黒い格好をした知らない人が現れた
「…おはようございます?」
「やっと目覚めやがったかぁ」
あ、挨拶したのにスルーされた。つか声濁声すぎんだろ。風邪気味?そんなときは早めのパ○ロンだよ銀髪ロングさん。
小さな明かりを頼りに相手を観察してみた。黒い服・銀髪・ロング・左手に剣。わかったのはこれくらい。あぁ、あと濁声ってことと私を攫った誘拐犯その1ってことくらい。まぁこれだけわかればいい方だよね。
タオルケットを被った状態で悪いけど、パジャマだけじゃ寒いよここ。せめて毛布ちょうだい。もしくはコタツ。みかんもあれば尚良し。
確実に牢屋に入れられてる人が思うことじゃないよな、と思いながらも銀髪さんを見る。なんだろう、兄絡みなのは予想できてるんだけどな。てかあいつ何しちゃってくれてんの。他人に、というか私に迷惑かけんなってあれほど言っておいたのにさ。
脳内で愚痴ってれば、目の前のずっと何かしていた銀髪さんがこちらを向いた。
「…で、なんで私はここにいるんでしょうか。そしてお兄さんは誰でしょうか。」
「俺が誰かなんてどうでもいいだろぉ、テメーは人質だ。黙って入ってろ」
とっても横暴だ。まぁ誘拐犯なんだから横暴に決まってるか。てかなんの人質なわけ?本当綱吉お前私が無事帰れたら一発ぶん殴る。決定した。今私が決めた。
内心で決定していると、また知らない人達が入ってきたのがわかった。
「しししっ、やっと起きたって?」
「随分遅いね…まぁ女だからってのもあるのかもしれないけど」
「う"ぉおい!なんできてんだぁ!」
「だって暇だし。あのガキの妹っしょ?ししし、切り刻んで送りつけてやっていい?」
「ベル、やめときな。勝手に殺すとボスが怒るよ」
「いや、まず人権を考えようよ。というか本人の目の前で暢気に話す内容じゃない」
「え?なに?お前今の状況で人権あるとか思っちゃってんの?うわーばかじゃん」
「むむむ。まだ立場を理解していないようだね。スクアーロ、ちゃんと説明したかい?」
「人質ってことだけはなぁ。あとはお前等がきたせいで言ってねーよ」
「人のせいにすんじゃねーよスクアーロ」
「僕はベルに連れてこられただけだから関係ないよ」
…あれ、これ確実にスルーじゃね?なんか思ったりしてる月奈さんです。
てかなんとなくわかったんだけど、銀髪が"スクアーロさん"で金髪が"ベルさん"で子供が誰かさんじゃないこれ?鮫と鈴と子供ってどんな組み合わせだよ。そしてボスって誰だよ。ボスだなんて…まるでヤクザのようだ。
…んん?もしかしてこいつらヤクザだったり?剣持ってるし、切り刻むとか言いながらナイフだしたし、あれ、でもヤクザだとしたらなんで子供いるのさ。しかもあんな小さい子が普通に喋ってるの考えると…なんか家にいる子供家庭教師と被るんだけど。なに?いまどきの子供って皆ああなの?気持ち悪いんだけど。
確実に1人現実逃避しててもいろいろ理解できなさそうなので、こちらから喋ってみることにした。
「ねぇ」
「あぁ?なんだ、今取り込み中だ」
「喧嘩は他所でやってくれないかな。できれば質問し終わった後くらいに。」
「何お前、切り刻まれたいわけ?」
「どうしてそうなった。まぁどうでもいいけど、質問に答えてくれませんか」
「いくら払う?」
「ちょっとあなたのお子さんこの年でお金にがめついなんて一体どうゆう教育してるんですの?」
「こいつは俺のガキじゃねぇ!つか話し方変わってんぞぉ!!」
「ちょっと遊んだだけですよ。気にしないでください。」
「う"ぉおおい!」
「ししっなにこいつおもしろー」
「どーも。で、話戻すけど質問していいですかいいですよねありがとうございます。じでは質問内容なんですけど…」
「おいおいおいおいおい自問自答になってんじゃねぇかぁ!」
「ナイスツッコミありやとやしたーっ」
「てめぇ…!」
「やめなよスクアーロ、話が進みやしない。」
子供がつっこむ。確かに話は全くといっていいほど進んでない。というかこの銀髪さんノリいいなぁ…人と話すのが楽しいとか久しぶりかもしれない。
「…で、きみは一体何が知りたいんだい?」
話題を戻すように子供が言う。
どうしよう、この中でこの子一番精神的に大人かもしれない。
そんなことを思いながらも一応聞きたかった質問をあげてみる。
「何で私が誘拐されたのか、君達は誰なのか、というか君達な何なのか。…とりあえずこの三つだろうか?」
「…きみ誘拐された理由を知らないのかい?」
「とりあえず黒づくめの人に子供にされてしまった記憶はないよ」
「そりゃ黒づくめ違いだろぉ」
「うわネタが通じた。明らかに外人なのに。」
「また話が脱線しそうだからきみもう喋らないでくれるかい?」
…子供に駄目だしくらっちまったい。というか私が喋らなかったら誰が質問するんだ。ここは鮫君も黙らせるべきだ。えっこひいきっ!えっこひいきっ!
…なんかむなしくなってきた。
長くなるし、やめよう。喋らないでおこう。
子供に視線を戻す。さぁ、質問の答えをくれ。理由もわからないまま…いやなんとなく予想はついてるけど…ずっと牢獄暮らしなんて、嫌だ。
「…はぁ、その様子じゃ本当に知らないようだね。あいつは何考えてるんだか…」
「マーモン、あいつって?」
「気にしなくていいよ。…まぁ、とりあえず教えてあげるよ。何も知らない無知な子供にね」
「子供に子供と言われる絶望感に耐えられないんだけど」
「つっこみは後で受けるから今はだまっててくれるかな」
「ごめんなさい」
ねぇ、この子供怖いんだけど…。
いいからちゃんと従っとけぇ。あとで金取られるぞ。
まじで?
聞こえてるからね2人共。
そんな会話をしつつ、子供は鈴の腕から降りる。
ぽてぽてと可愛らしい足取りで牢屋の目の前にきて、子供は言った。
「きみの兄―沢田綱吉は、マフィアボンゴレファミリー10代目候補だよ。
…まぁ、もどきだから僕等のボスに殺されて仕舞いさ。」
予想の斜め上をかっ飛ばす勢いの答えが帰ってきて、少したじろいだ。
引きこもりの誘拐
(…マフィアってあれだよね、殺し屋だっけ?)
(そうだぁ)
(…なんで平々凡々な一般人でヘタレ弱虫な綱吉がボス?有り得ねぇ…)
(平々凡々な一般人?…家族にあいつ言ってないわけ?)
(積もる話はまた後でにしよう。…ベル、スクアーロ。ボスがお呼びだ。)