最近、兄は笑わなくなった。
何も見えない聞こえない、世界が闇に包まれたようだった。
…なぁんて、厨二病じみたこと言ってみたけど実際は目隠しされて手足が縛られているだけで聴覚は普通に健全だ。ただ、誰も喋らないから何も聞こえないだけで。
少しだけ、願望を言うなら…こんな騒動に巻き込まれずに、引きこもって、引きこもりなりに大きくなって、ブログの友達とオフ会とかして会いたかった。一定の友達とそれなりに仲良くして、反対側で何がおこっても自分が無事ならそれでよかった。漫画やアニメの世界にトリップしたかった。あああの漫画の最終回見たかったなぁ、それにアニメ化したアニメ見たかったのピックアップしたけど結局全部見れてないんだよなぁ、あーあ。もう本当、うんざりだなぁ。
生きて巻き込まれて誘拐されて死んで軟禁されてて現実見て死んで時間飛んで生きて死んで過去を見て生を奪って死んで生きて知り合いを売って夢を見て知り合いが死んで生きてそして今死ぬ。
文章にするとたったこれだけの出来事。
これだけ見ても全く自体が理解できないけど、これが私の今までの人生。
未練がない、わけがない。
今私になんでも願いを叶える力があったら全員を殺すか、時間を巻き戻すかするというぐらいには未練と理不尽に怒りを覚えてる。
けれど、まぁ
どうせそんなのが叶うのは―――夢物語だけの話なわけで。
ザッと音を立てて、誰かが近くに立ったのがわかった。
目隠しで誰かは確認できないけど、確実なる確証がある。
そうそう、ひとつ思い忘れてた。
綱吉、お前は結局全くわかってないみたいだけどさ、私が殺される理由は最初から最後まで、お前に巻き込まれてるだけなんだよ。そしてお前が否定しつづけた月奈が主な私で、お前が欲していた月奈が…小さな私でしかないんだ。
私はお前に殺意は持てど人格までは否定しなかったというのに、なんともまぁ、酷い片割れだったなぁ。
だから、この思いをうちに秘めて、ずっとどうでもよかったお前に、お前達に最大の本音を言ってあげようじゃないか。
「―――― 」
最後に吐いた言葉は、炎と共に焼かれていった。
引きこもりと大空
(暖かくて、でも暑くて、溶けそうで、焼けそうで)
(確かかの有名なジャンヌ・ダルクは生きたまま焼かれたんだよなぁ)
(ああ―――兄の笑ってる、顔が見えた)