引きこもりと狂気



最近、月奈が…俺の妹が、大変なことに巻き込まれてることくらい…とっくに、知ってた。


「………月奈、なんで…その人と………」


自分が今、信じられない。といった表情でいるのは知っていた。それだけ目の前の出来事が信じがたかったから。むしろ、信じたくない光景だったから。
そんな俺の表情が面白かったのかなんなのか、彼――デイモン・スペードはくすりと笑みを漏らす。月奈は、相変わらず口元に小さく弧をかいてるだけだった。

おい、まてよ、月奈、そこはおかしいだろ?

言葉にできないまま口の開け閉めを繰り返す。言葉がでない。
月奈の情報が確かなら俺を殺そうとしたのは今月奈の隣にいる人間だ。彼が犯人、と言われて別に疑問など持たなかった。彼は月奈がいない3年の間に結構お世話になったからだ。
てっきり成仏したものだと思っていたのに今ここに普通に存在しているだなんて、誰が認めたいか。

しかも、なぜ犯人だと告発した月奈と一緒に笑いながら談笑していたのかも、全くもって理解できない…理解、したくなかった。


「月奈…っなんで!そいつと!」

「ん〜そいつなんて酷いですねぇ…沢田綱吉、ボンゴレ10代目?」

「月奈の、月奈の言ったことを信じるなら…犯人はお前なんだっ!お前なら月奈が犯人を骸と言ったのだって辻褄がっ」

「会う、とでも?もしも私がきみのことを狙っているのを知っていた彼女が私に罪をかぶせようとしていた可能性も捨てきれないのに?」

「そんな、こと…月奈がするわけ、」

「引きこもって静かに暮らせていたのに、きみのせいでこうも散々と殺され続ける…きみを殺せば、終わるかも。という考えがあったのかもしれませんよ?…ねぇ、月奈?」


くすり、と笑いながら月奈に問いかけるデイモン・スペード。
凄く楽しそうな顔だ、と思いながら月奈に目をやるが、彼女はもういつもの無表情に戻っていた。


「―――そうだねぇ、うん。思わなかったわけじゃ、ないかな」


それはあまりに簡単に、ぽつりと、義務的に、けれどほんのり感情的に、まるで普通のことだといいたげに、その言葉がこぼれた。

え、と思わず月奈を凝視すれば、彼女は「だってさ、」と続ける。


「いやになってくるじゃん。何かした覚えもないのに嫌われて疑いかけられて殺されてさ、もう全員死ねとか言いたくなってくるじゃん。私善人でも偽善者でもないんだよね。どちらかというとそうゆうのに反吐が出るっていう、まぁ中学生によくある状態。だからさ、私が悪いんだとか自己嫌悪に入れるほど自己犠牲派じゃないし、彼等が嫌ってくるならこちらから心を開いてあげようってほどお人よしでもない。お前が嫌うなら私も嫌うしお前が死ねと思うなら私も死ねと返そう。こっちは何もしてないのに勝手に嫌ってくるのはまだいい。けれど確証もないのに疑ってきてあまつさえ殺してくるなんてもう死ねとしか思えないじゃん。死ね死ね死ね死ね死ねくたばれ。綱吉に対してはそんな感情なかったんだけどさ、私がこうなる原因の主な理由ってやっぱり綱吉なんだよね。だから何度か思ったよ。死ねって。ただまぁ思っただけで何もする気なんておきないけど。だってたとえ殺せたとして、その後は?結局私また死ぬじゃん。ああでもあれかな、綱吉が死んだらボンゴレの血をなくさないためにとかそういった意味で生かされるのかな?ははっマジありえんてぃー殺されるのも嫌だけどそんな立場に収まるとかもっと嫌だね。というかもうそう考えると私逃げ道なんてないんだっつーの。死ねない上に殺せない。なんてこったい。だからつってこのままでいてもいなくても綱吉の双子の妹という時点で私はマフィアに関わるしか道はない。というかもう既に関わってる。だから、まーなんだ?そのさ、本当…全員くたばれ、とだけ言わせてもらおうか」


へらり、と笑いながらなんでもない、ただただ感情的に本音を述べた彼女に言葉はでなかった。
だからといって裏切られたなんて、思わなかった。思えなかった。

だって、そうだろ?思えるはずがないんだ。
狂気染みた、的確な安心感が胸の内で鳴いていたんだ。


「――――どうやら、私の想像以上に…キミは人間ではなかったらしい」


化け物を見るかのような視線で、畏怖の念を込めた皮肉を言われても―――気にはならなかった。




引きこもりと狂気
(あんなに感情的に本音を吐いてくれたのは)
(本当…子供の頃以来だなぁ)

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