引きこもりと物語



最近、引きこもれなくなった。


「ねぇ、"ツナヨシ"」

「どうしたの?月奈」


あどけなく笑うその表情は初めて"ツナヨシ"に会ったときと何も変わらない笑顔だった。強いてあの頃と違いを上げるなら立場と時間くらいだろう。

今の"ツナヨシ"は私の世界と同じ、ボンゴレ10代目のボスとなり高校2年生という職業だ。
もちろん、私も同じくボンゴレの一員であり、高校2年生なのだが。


「私がこの世界に来てから3年、たったね」

「…そうだね。最初ベッドの中で月奈を見つけたときは驚いたよ。俺女の子の友達なんていなかったからさ…知り合いも親戚も覚えがなかったし、本当誰かわからなくて」

「………」

「…、………ねぇ、やっぱりまだ、帰りたい?」


少し寂しそうに笑う"ツナヨシ"。帰りたいか、と聞かれると案外どっちでもいい感じだ。確かに居心地としてはこちらの方がいいかもしれない。けれど、私は嫌われて面倒に突っかかられるという行為がなくなっただけで、好意的な意味で絡み付いてくる彼等は結局は面倒なものの対象でしかないのだ。
確かに、彼等と遊んでいると楽しい。けれどそれだけ。引きこもれなくて胃が痛かったのなんてしょっちゅうだし、好意ばかりでは甘ったるくてしょうがない。重いのだ。思いだけに。寒い。

そう考えると、あっちの方がしょうに合ってるのかもしれない。


「…どっちでもいいかなぁ、というのが答え」

「はは…相変わらず変わらないね」

「帰りたくない、って言えばよかったかい?」

「いや…本心で言ってくれれば、それでいいよ」


毎回彼はこの質問をした後、泣きそうな顔で笑う。
彼は笑顔で全てを隠せるようになってしまっていた。しかも誰も気づかない。私以外、気づかない。可哀想、とは思うがそれ以上の感情は生まれなかった。


ここで過ごした3年間は、案外短かった。

彼とはじめて知り合って、彼の友達と仲良くなって
すぐに事件が起きて、首謀者を捕まえに行くのに連れてかれて
そして、そのときの彼は私を見て、綺麗な光だと呟いた。

その事件が解決した後皆で遊びに行って、知らぬ人が降ってきて
暗殺部隊とボンゴレ10代目の座をかけて戦って
そしてその暗殺部隊のボスである彼は、死に掛けた状態で私を見て、小さく笑った。

どたばた続きのまま、次は"リボーンさん"が消えてしまって
次々と皆と一緒に未来に飛ばされて、そこにいない人達のことも知って、終わったと思ったら終わりじゃなくて
本当の終わりのとき、彼女は私を見て頑張ってと、彼は私を見てありがとうと。


…こうして思うと、私は随分と巻き込まれてるなぁ。

綺麗な光も、意味深な笑みも、頑張っても、ありがとうも、全く意味なんてわからない。わかろうともしてない。疑問に思った、それだけ。


「…ねぇ、"ツナヨシ"。きみは、私に在ってほしいかい?」

「………在ってほしい、って言えば…居てくれるのなら、在ってほしいかな。」


模範解答。以下同文。
彼は前回も今回も全く同じ回答をしました。私と五分五分です。


「へぇ、相変わらずですね」

「月奈こそね」

「でも、"ツナヨシ君"。識ってるでしょう?」


夢は覚めなくてはならないことを。物語は終わらないといけないことを。出したものはちゃんと片付けなくてはいけないことを。異物を放置しておけば侵食してしまうことを。いらないものは、すてなくてはいけないことを。

上記のことを言わなくても彼はちゃんと理解していたようで。


「…月奈ちゃんは、異物なんかじゃないよ」

「私が異物なんて誰が言ったよ。…異物は、あんたらでしょうが」


夢を観ていたのは私。物語を演じていたのは彼等。玩具は彼等。異物は彼等。

捨てられるべきモノは、最初から、彼等だ。


「…いつから?」

「気づいたときから」

「…そう」


じゃあ、もう、起きなきゃね。

今度こそ彼は、ないていた。




引きこもりと物語
(ぴしぴし、ぱりん)
(音を立てて、粉々に、もう二度と遊べないようにと夢は玩具は異物は、捨てられてしまうのでした)

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