引きこもりと三人



最近、"ツナヨシ君"の家にお邪魔することになった。


「…おはようございます」

「あら、おはよう月奈ちゃん!よく眠れた?」

「はい。どうも"ナナさん"」

「ふふっお母さんでいいのよ?」


朝から爽やかに微笑む"ナナさん"は明らかに私の母であった彼女だった。見た目は。
中身は私のことを知らないことを抜けば同じだけど、私のことを知らない時点でその人は私の母ではなかった。

子供家庭教師こと"リボーンさん"が"ナナさん"へ交渉してくれて私はこの家へ住むことになっていた。こればかりは"リボーンさん"に感謝するしかないだろう。例え別世界で私のことを殺していたとしても、感謝くらいできる。


「おい月奈、オメー並盛中学校に通え」

「え」

「学生が学校に通うのは当たり前のことだ。準備はこっちでしといてやったからな」


なにそれ迷惑、と小さく呟けばこっちに来たなら今まで通りの生活できると思うなよと嫌な笑みで言われた。やっぱりこれ可愛くない。

いやだなぁ、引きこもりたいなぁ。
最近全く引きこもれてなくて正直疲れてるのにこっちで学校に通えとか私に死ねと言ってるようなもんだと思う。
でももう決定事項なんだろうな、と確信しているとバタバタと足音が聞こえてきた。


「っおいリボーン!起きるときはトラップはずせって言ってるだろ!?」

「だって面倒だったんだもん」

「もんとか言うなー!っと…あ、お、おはよう…月奈、ちゃん?」

「…おはようございます"ツナヨシ君"」


たどたどしく挨拶をしてきた彼に軽く返せば、少しほっとした表情。
それから少し間を空けて椅子に座る"ツナヨシ君"に目もくれず、朝食を平らげると"リボーンさん"に呼ばれてしまった。なんでも学校に必要な用具をくれるとかなんとか。正直ただの迷惑だ。


「おいツナ、オメー一緒に行ってやれよ。どこまでが一緒なのかわからねーからな」

「俺!?いや、別にいいけど…獄寺君になんて言えばいいかなー」

「あいつのことだから別世界のツナの妹っつったらすぐ尻尾振って尊敬しだすから安心しとけ」

「獄寺君は犬じゃないよリボーン!」


…誰にも気づかれないくらい、小さく溜息を吐いた。



▽△



「テメェ…誰だ」


今にも襲い掛かってきそうな、犬のような唸り声が聞こえてくる彼――こちらの"ゴクデラさん"だ。
予想通りと言うべきかなんなのか、"ツナヨシ君"と一緒に家から出れば真っ先に彼が喰らいついてきた。無視してもいいのだが嫌われるのも面倒だ。一応素直に答えておくことにしておいた。


「はじめまして、別世界からやってきた"ツナヨシ君"の双子の妹の沢田月奈です。あくまで別世界でこの世界の話じゃないので、そこのところよろしくお願いします」


そう言って頭を下げる。自分で言っておきながらどこの漫画だと思う。ラノベでもアニメでも可だ。
マジキチと言われても仕方ないような内容。でも、あの世界は赤ん坊が二足歩行で歩いてたり、ゲームの用な力を用途したりしていたからこっちも案外そうなのかもしれない。夢のような話が現実に起こるのかもしれない。

ぶっちゃけた話をすると、私を全体的に巻き込まないでほしい。


「…、………10代目の、妹…?」

「はい。別世界ですけど」

「…あぁ、でも確かに」


似てるのな。

その言葉に思わず"ヤマモトさん"の方を向けば、彼は普通に笑顔だった。


「…、……似て、ますか?」

「?おう!雰囲気っつーかなんつーか…ツナの双子ってことにビビっとくるぜ?」

「そうですか…、そうですか…似て、ますか。はじめて言われた気がします」

「そうなのか?」

「まぁ」


初めて"ヤマモトさん"に会ったとき、扉の向こうから似てないという声が聞こえた。
自分でも似てるとは正直思わない。二卵性だから別に似て無くてもおかしくないからいいのだが。雰囲気も性格も正直似てるとは思わないし、一体どこを見て似てると思ったのか…直感、とか言ったら殴る。

というか、最初に会ったとき彼は似てないといったのに、なぜ彼は似てるというのだろうか。皮肉、なのか。


「それよりも皆さん、遅刻しま」

「申し訳ありませんでした!」

「っ!?」


急に"ゴクデラさん"が大声で謝り土下座した。急すぎるぞ展開。
どういった状況か理解できずに"ツナヨシ君"に視線を送るが"ゴクデラさん"に驚いていて全く気づいてくれない。おい気づけアホ、そして状況を説明してくれ。

私の無言の訴えに彼が気づくことはなく、だが原因の張本人が大声で説明してくれた。


「別世界とは言え10代目の妹様に無礼を振るうなどっ…自分としたことがっ!」

「え、いや…別に謝ることでもないと思うんですけど。正直似てないから気づく人も少ないですし」

「いいえ!こんなにも似てらっしゃるのに気づけなかった自分が恥ずかしいッス!ここはっ…ジャッポーネの伝統、切腹でもするしか…!」

「…ねぇ"ツナヨシ君"、これどうすればいいの?」

「俺に振るのー!?」


だって、こんな展開予想してないし。というかむしろこんな展開遭遇してないし。

初めて"ゴクデラさん"に会ったとき、扉の向こうからいけすかないという声が聞こえた。
それなりに生意気な性格をしているから強ち間違ってないしぶっちゃけどうでもいい。その向けられた言葉同様彼は私を“10代目の家族として敬意を払うべき人物”として扱わなかった。扱われてもうざいだけだけど。

似てないと言った彼が似ているといい、敬意を払わなかった彼が敬意を払った。

これほどの皮肉は、かつて、あっただろうか。


「獄寺君やめてー!」

「止めないでください10代目!10代目の右腕としてあるまじき失態…死んでも死にきれないんす!」

「おいやめろって獄寺!しかもそれ花火だろ?切腹は刀だぜ?!」

「うるせえ野球馬鹿!これは花火じゃねぇって何回言ったらわかんだ!ついでに果てろ!」

「こ、ここでやるのやめてええええ!」


騒ぐ3人を他所に、半分置いてけぼり状態な私は隅っこに避けてることにした。巻き込まれてはたまらない。

そういえば、最近じゃ見なくなったけど…この3人は昔はこうだったよなぁ。私と会ってからは、こんな姿…見なくなったけど。


「………あめーわ、この飴」


鞄から取り出して口に入れたばかりの飴を、思わず噛み砕いた。




引きこもりと三人
(甘い甘い甘すぎる)
(こんな甘い夢は、砂糖と一緒に吐き出してしまいましょうよ)

prev / next