引きこもりと帰還



最近、兄は泣いてばかりだ。


「月奈、大丈夫だった!?怪我とかない!?」

「別に特になんとも。あ、これ書類」

「よ、よかった…あ、ありがとう」


安心故の涙なのか、視界を潤ませていた兄。
マフィアのボスがそんなに泣き虫でいいのかと思わないでもない。

頼まれた書類を兄に渡し、その場を後にして家に帰ろうとすれば目の前に聳え立っていたのは私のことを超快く思っていない"ヤマモトさん"と"ゴクデラさん"。
知らん振りして通り過ぎようとしたら腕を捕まれた。畜生、やっぱり私に用事か。

ああもう、早く引きこもらせてくれよ。お願いだからさ。


「なんでしょーか」

「テメー、10代目に何もしてねーだろうな」

「なんで私が綱吉に何かしなくちゃなんないんですか」

「毒仕込んだ容疑者候補が何言ってんだ」

「それはあなた方が勝手に決め付けたことです。私は否定した。聞かなかったのはあなた方。私、無実。」

「…まぁそれは否定できねーけどよ、でも犯人がいまだ見つかってねーのも確かなのな。で、やっぱり有力なのはお前なわけなんだわ」

「それで私だと完全に断定したら、私はボンゴレという組織を軽蔑します。トップに立つ綱吉に失望します。ボンゴレという人間だけで嫌悪を抱きます。マフィアに偏見を持ちます。それでいいなら、どうぞ」

「別に犯人になんと思われても問題なんかあるわけねーだろ」

「言うと思いました、まぁ私を犯人と決め付け何かしら対処したとして…それは真犯人の彼を好都合にさせるだけですけどね。犯人(私)を捕まえて安心しきっているボンゴレに鉄槌を。まさか理解してますよね?その可能性も」

「っ………」


顔を歪めて腕の力を緩める彼に対して、私は視線を逸らさない。
あらゆる可能性を踏まえて私を犯人に仕立て上げ、実はその裏真犯人を見つけるための罠だったというならまだ許そう。けど、ただ私への嫌悪だけの感情で私を犯人に仕立て上げるというなら、それは、立派な犯罪だ。忠誠ではない、たかが私情での犯罪だ。

まぁ、マフィアに犯罪という言葉など意味のないものだろうけどね。


「………話はそれだけですか、もう帰っていいですか」

「………もう一つだけ聞く、お前は…犯人を、知ってんのか」


先程、私が彼と言ったのをちゃんと聞いていたのか…それとも聞き逃してのこの質問なのかは、知らない。知れるわけがない。

どちらでもいいけど、私がその犯人を言えば…きみ達は私を疑わなくなるのかね?


「…無理だろうな」

「あ?」

「なんでもないです、犯人は"スペードさん"ですよ。"デイモン・スペードさん"。ボンゴレ初代霧の守護者、でしたっけ?その彼ですよ」

「………、……は?嘘だろ?」

「嘘じゃないですよ、彼、自首してたし。まぁ私に対してだけですけどね。毒を盛った理由までは知らないけど…間違いなく、彼が犯人だ」

「…、……いや、でも…それは………」


有り得ないだろ、と目が物語っているように思えた。
本来ならば寝ぼけてる?と私も一蹴りしていただろうが当事者故にそんなことは言えない。

昔の人が今だ生きて、しかも同じ組織の10代目を殺そうとしているだなんて、

現実に出てくれば、理解できる問題じゃあない。


「……、…じゃあ私はこれで。さようなら」

「あ、あぁ…」

「引き止めて悪かった、な………じゃ、じゃあな」

「はい、さようなら」


妙にしどろもどろな2人に疑問を抱くも、別にいいかと思いその場から立ち去る。

空白の時間にあった出来事など、私は知るはずも無いのだから、あの反応の意味などわかるはずもなかった。




引きこもりと帰還
(………軽々と"スペードさん"を売ってよかったのかって?)
(だって、私犯人じゃないし。また死ぬのは勘弁だし。拷問とかも真っ平ごめんだもん)

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