「白蘭、あなた…何を伝えようとしてたんですか」
少し低いトーンで紡がれる言葉。こちらを見る瞳は、いつになく真剣なもの。
「うーん、何を伝えようとしてたって聞かれても…真実、としかいいようがないんだけどなぁ」
真実。
その言葉通りの意味だ。
僕は、初めて未来で月奈チャンに会ったときのことをちゃんと覚えてる。
先程会った月奈チャンよりもう少し顔つきが大人びていて、遠慮がなくて、少しばかり挑戦的で、
『きみが、ボンゴレ10代目の綱吉クンの双子の妹?似てないね』
『二卵性だから仕方ないかと』
『ふーん、まぁ知ってたけど。で、月奈チャン。きみはこの状況からどうやって回避するの?』
彼女の護衛と言う人間は全て殺した。
彼女の周りは全て護衛の血で血の海だった。
それで彼女は吐きはせど、恐怖もせど、僕に向けるのは忌みの視線ではなかった。
『うーん…そうだねぇ、死んでみる、とか?無知無力な私にはどうすることもできないよ、こんなとき新たなる秘められた力が開放してもいいんだけど…自宅警備員にそんな力は残念ながらないようだ。残念すぎる。』
『へぇ、じゃあ月奈チャンは死んでもいいわけ?』
『できれば死にたくないに決まってるじゃん、痛いし。遺体って言うくらいだから死ぬのって凄く痛いんだよ知ってた?あ、ちなみに今のは死体の遺体と痛みの痛いをかけてるんだよね。どう?』
『凄く寒いかな♪』
『そうか…やはり寒いか…いや実際自分でもこの寒さは忘れられてないからな…客観的意見を交えれば少しは変わると思ったのだが…クッ』
『…月奈チャンって、変わってるってよく言われない?』
『取り繕わなくなったあたりから大幅の人間にその質問されるようになったんだよね』
『死にそうってときにこんな会話してたら当たり前じゃないかな?』
…うん、あれを忘れるというほうがおかしいのかもね。
それから一回殺してみたけど結局また生き返ってのうのうと暮らしてたし。
二回殺してもよかったんだけど、もしかしたらある意味同じ能力の持ち主かと思って気まぐれに連れてきた。あの時は。
その後、月奈チャンのこと嫌ってたらしい隊員が月奈チャンのこと殺しちゃってね。
タイミングがいいのかなんなのか、変な方の月奈チャンの部屋に昔の月奈チャンがいたんだよね。
「白蘭、私は別な世界で貴方と月奈さんのやり取りを見ています。見て、きました。」
「、」
「あなたは何度それで、月奈さんを壊してきたんですか」
壊してきた、というのは少し違う。
彼女が何にも執着を示さなくなった姿が『あれ』であり、彼女が一つに執着しすぎた姿が『あれ』であり、彼女が全てを知った姿が『あれ』であり、彼女が何も知りえなかった姿が『あれ』であるのだ。
僕が壊したのではなく、僕が言った言葉によりできた姿。
それが、『あれ』や『あれ』や『あれ』だっただけ。
でも、僕が見たかったのは『あれ』じゃないんだ。
僕が欲しかったのは、『あの』時の月奈チャンに今の月奈チャンを足したような、とても使える子が欲しかった。
「白蘭…あなたは、月奈さんにだけは関わらないでください」
「それは、ボス命令かい?ユニチャン?」
「…そうです、ね。そうです。これ以上月奈さんで遊ばないでください。」
「じゃあ、例えそれがアルコバレーノの呪いを解く鍵になったとしてもかい?」
「っ?!」
「…落ちこぼれの大空にそんなことができるわけがない、って思った?」
「…そこは、関係ありません…でも、アルコバレーノの呪いの話は終わったはずです白蘭。」
少しの動揺と、目に見えてわかる感情。
大空、といっても彼女はまだ子供だ。大人だろうと死にたい人間なんて一部を除いているわけがない。
まぁ、他人の死にも自分の死にも慣れきってしまった例外が一名いるのは、確かなことだけど。
「…ふふ、そんな怒らないでよユニチャン。アルコバレーノの呪いの件は冗談、彼女は…もっと、別の…」
「?別の、ですか…?」
「………いや、うん。正直僕にもわからないや。ごめんねーユニチャン、会わない限り喋らないからさっ♪じゃ、このへんで。」
「あ、白蘭!」
ユニチャンの言葉に従わず、笑顔で手を振って部屋を出る。
…落ちこぼれの大空、ね。
「…本当、もしかするともしかするかもしれないなぁ」
まぁ、そんなこと起こるわけがないだろうけどね。
彼女はあくまで落ちこぼれ。本人だって引きこもりと言ってはいるけどそれを望んでるんだからさ、
『なぁ白蘭さんや、知ってたかい?』
『兄弟ってのは、正反対で一致してくれないんだ』
『なんともまぁ、皮肉なことだよねぇ』
あのときの彼女は、心の底から笑顔だったなぁ。
なんて、どうでもいいことを思い出した。
引きこもりと人形
(使い勝手のいい人形が欲しかった)
(ただ、それだけだよ)
(…今回のも、僕の望む人形とは違うみたいだけどね)