引きこもりと跳馬



なんて皮肉なんだろうか、さっさと帰ろうと思ったのになぜか次の仕事も言い渡されてしまった。


「…しかも今度は私のことが大嫌いな兄貴分とか、マジない」


あの兄貴分さんも可哀想に。嫌いな人が態々書類を届けてくるなんてね。
まぁ悪いのはあの子供家庭教師であって私じゃないわけだから謝ったりしないけど、

炎の灯った手紙を見せて、中に入れてもらい、案内してもらえばそれでお終い。


「お前…生きてたのか」


ボスの部屋らしき部屋に入れば、まず投げかけられた言葉がそれだった。
表情からするに嫌味とかじゃなく、嫌悪でもなく、ただ純粋な驚愕。

あなたは見ない間にホスト度が上がりましたね、なんて。

面倒だから言わないけど。


「はい。今のところは大丈夫です」

「そうか…ヴァリアーに行って生きて帰ってこれただけでも喜ぶべきだよな。前は会った瞬間に…っ!」


しまった、といわんばかりに顔を歪める自称兄貴分さん。
私がそんなものを気にしているとでも思っているのだろうか。いやかなり根に持ってるけどね。くたばればいいのにとか思いっきり思ってるけどね。

というか、彼はまだあまちゃんなの?
それとも可哀想な私に対しての同情?
…どっちでも、いいか。辛辣でも嫌悪100%でも面倒くさいし。


「気にしてないので大丈夫ですよ。じゃあ、ボンゴレ10代目・沢田綱吉の使いで来ました。これ頼まれていた書類です。」

「あ、あぁ…すまないな。ありがとう」


書類を手渡しで渡せば、すぐに書類に目を移す。

もう帰っていいだろうかと思いソワソワしていると、書類から目を離さず声をかけられてしまった。なんてこったいまだ帰れないのか。


「そういやお前、ツナに毒盛った犯人としてリボーンに撃たれたんだってな」

「えぇ、まぁ」

「んで、それをきっかけに過去に行ってきた…」

「はい」


…何を聞きたいんだろうか、意図が全くわからない。
まぁ私は読心術など使えないし彼が何を考えているかわかるほど彼のことを知っているわけでもないのだが。

書類から私に目を移した彼と、目が合う。


「…なぁ、お前は初代に会って…ジョットに会って、何を学んだ?」

「何を、ですか…"ジョットさん"は関係ありませんが、紅茶と珈琲の淹れ方は人並みになりましたよ」

「………それだけ、か?」

「学んだのはこのくらいですよ。仕事からの脱走の仕方は教わる前に私が戻ってきてしまったので」

「…そ、そうか…」


いやあれは惜しいことをした、少し気になっていたのに全く。今度会ったら教えて貰おうそうしよう。
…ん?さすがに"ジョットさん"死んでるよね?…無理かぁ。

さて、まぁ、雑談はこのくらいにして。


「ああ、帰るのか?今部下に下まで見送りを頼むから待ってろ」

「はい、よろしくお願いします」


…断れればかっこいいのだが、生憎こんな大きな家の中で迷うのはもっての他だ。それこそかっこわるい。

部下さんが部屋に来るのを待った後、自称兄貴分の彼に別れを告げて私は帰りましたとさ。




引きこもりと跳馬
(………おい、リボーン)
(『過去に戻る』『現実を見る』『未来へ行く』ってのわ…)
(…案外、いいことじゃねーかもしれねぇぞ)

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