引きこもりと遭遇



最近兄が、よく家に友達を連れてくるようになった。


「ただいまーっ!」

「おじゃましまーっす!」

「お邪魔します、10代目!」


いつもの兄の声と、元気そうな少年の声と、礼儀正しそうな少年の声。

10代目って、なんだろう。
会話からすると兄か、もしくはこの家に住む誰かのことだと思う。

でもうちの家って普通の一般家庭…ではないかもしれないけど(スーツ着用の歩く子供家庭教師がいたりバズーガや爆弾持ってたりする牛餓鬼がいたり中国人の子供がいたりなぜか料理が全部毒物に変わる女性がいたり謎の無重力事件を起こす子供がいたり、これは普通の家庭じゃまず有り得ないだろう)兄も母も私も父も、普通の子のはずだ。
ヤクザとかそんなんじゃないと思う。いや、父さんに限ってはあまりよくわからないんだけどさ。


兄の友達がきたということは、母さんがジュースやお菓子を用意しているのだろう。食べたいから少し貰おうと思う。ついでに兄の部屋に持っていってあげよう。

ここに少しだけ、きっと、兄の友達を見てみたいとほんのりでも思ってしまった自分がいた。

兄の部屋の扉がしまった音を確認しつつ、部屋から出る。
そして1階のリビングへ行けば、案の定おぼんにせっせとジュースやお菓子を載せてる母さんが目に入った。


「母さん、それ綱吉のところに持ってくの?」

「あら月奈ちゃん!そうよ、月奈ちゃんも食べる?」

「うん。頂戴。代わりにそれ持ってくから」

「あら、ありがとう」


笑顔でお礼を言ってくる母さん。マザコンに聞こえるかもしれないけど母さんって美人だよね。あと包容力高い。天然って言った方がいいのかもしれない。
前から結構酷かったけど最近あの変な子供や兄の友達とか増えたのが拍車かかって余計天然に磨きがかかったと思う。一種の逃亡手段なのかな、って思ったけど普通に素なんだから驚きだよね。

じゃあ、こっち月奈ちゃんの分ね。
と言われて渡されるおぼんを片手で持ち、兄達のをもう片方の手で持つ。

母さんは大丈夫?とか心配してきたけどそこまでひ弱にはなってないはずだからきっと大丈夫だよ。たぶん。転びさえしなければ。


階段だけ慎重に上ろう。そう心の中で誓って、兄の部屋まで歩いた。



▽△



「綱吉、開けて」


両手が塞がっているので、足でノックしながら声をかける。行儀悪いとか言うな。

中から綱吉の声が聞こえてから、数秒待てば開く扉。まさか扉の前にいてぶつかるとかそんなドジは踏まない。大体にして扉は部屋の方に開くからそんな心配はまずない。


「月奈、」

「これ。母さんが皆にって。」

「え?あぁ、ありがとう!」


おぼんを渡せば、慌てて受け取る兄。そんな慌てると零すぞ、と思いながらも何も言わない。

さて、お菓子も渡したし部屋に戻るかと思ったところで兄の友達である2人がこっちをガン見しているのに気づいた。


「ツナー、誰?」

「10代目を軽々しく呼び捨てしやがって…!果たす!」

「うわああ獄寺君やめて!こ、こいつ月奈ってゆって、俺の…妹だっけ?」

「一応妹の月奈です。まぁ双子なんであまり上下気にしなくていいんだけど。」


なんだろう、あのトイレットペーパーみたいな筒。てゆーか未成年の喫煙だ。別にいいんだけどさ。私の部屋じゃないし。

一応軽く頭を下げておけば、黒髪の少年が笑顔で「俺山本武、よろしくなー!」と言ってくる。へぇ。そう。知らないや。
まぁ一応よろしく、と返しておき、騒いでる銀髪少年と兄を横目でちらり。兄もよくこんな濃い連中とお友達になれたな。尊敬するよ。

「じゃ、まぁどーぞお楽しみください」と言って踵を返す。部屋に戻ろう。


背後で兄がありがとうって言ってるのに振り向かず、開いた片手を振って扉を閉めればはい終わり。


「…そういえば、10代目って綱吉のことだったのか」


1つ解決した謎を脳内にしまい、自室へと戻る。
あー、ジュースの氷少し解けちゃった。




引きこもりと遭遇
(…あんまツナに似てないのな)
(あぁ、うん。二卵性なんだ。)
(…なんか凄く、いけすかねぇ。)

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