引きこもりと部隊



あいつはあの時と全く変わってねぇ。…外見、は。


「………昔よりも、酷く…冷たい目、だったなぁ…」


昔も余所余所しかったが、まだ遠慮というような言葉がなかったはずだ。
信用も信頼もしていないが遠慮はない。

唯我独尊。自己中心的。
日本語ではこんな言葉が昔のあいつに当てはまっただろう。


だが、今はどうだ。

昔よりも明らかにわかる壁。興味のない瞳。全てがつまらなそうな、そんな気。

狂うとかそんなんじゃねえ。
そんな、生ぬるいもんじゃなかった。


「…なぁ、あいつをどうとる。マーモン」

「そうだね…今の状態ならボスを怒らせることはまずなさそうだ。」


背後から来ていた気配に問いかければ、少し考えながらもボスを怒らせないという答えを出したマーモン。

そのマーモンに続いてベルも口を開いて喋り始める。


「…なーぁスクアーロ?俺あんま話聞いてねーんだけどさ…あいつ、誰か殺った?」

「…どうしてそう思う」

「ししっ、王子の感ー」


ししっと独特な笑い方をしながらも、明らかに確信している目(…いや、前髪で見えねぇからなんて表現すればいいのか本当はわからなかったが…)

報告では、ボスが殺したあの日から3年行方不明だったのが帰ってきたっつーのと、
この前小僧が毒を盛られたとき犯人候補として殺したときは過去へ行っていたっつーこと。

詳しい内容は記されていなかった。
必要ないから書かなかったのか、知らなかったのはしらねえ。


だが、誰よりも殺し・殺されてきた俺等にゃわかる。
あれは、人を殺した者の目だ。…珍しいタイプだがな。


「人を殺しておいて自己嫌悪にも陥ることも狂うこともないなんて、凄い人ですねー」

「どんな殺し方したのか知らないけど…少なくとも"沢田綱吉"よりは使えそうだね」

「しし、でもあいつ超自己チューだぜ?俺は絶対やだね、あいつみてーなのと任務に行くのなんか」

「いやむしろ堕王子と任務行く方がいやだと――あイタッ」

「堕王子じゃねーっつのクソガエル」


喧嘩を始める2人はもうマーモンに任せ、あいつ――沢田月奈が去っていった…いや、入っていったボスの部屋の扉を見る。

今中でどんな常態になっているか想像もできねぇが―――――


「…、……なんだぁ…跳ね馬や小僧が言ってたのより、全然いい人材じゃねぇかぁ」


生意気な後輩になること間違いなしだが、育ててみてえなぁ。

小さな小さな呟きは、2人の糞生意気な後輩の喧嘩によって掻き消された。




引きこもりと部隊
(生まれた環境が悪かった)
(一回人殺してあれだけの変化で済めるなら)
(あいつはこっちの人材だ)

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