一歩だけ、踏み出してみようと思った。
「ねぇ、綱吉」
「? どうしたの月奈?」
「あのさ、"ジョットさん"って誰だか知ってる?」
「―――え?」
ぱさり。
兄が手に持っていたレポートか何かの紙が床に落ちる。
それを拾って兄に渡せば、正気に戻った兄が驚いたように紙をひったくって私に視線を向けた。
「っ…なんで、いや…どこで、それを…?」
「…この間、死んだときに。少しね。」
「っ!」
ぐしゃり、と紙を握りつぶす様を見てあ、と少しだけ思った。声はあげなかったけど。
そんなにも兄は私に無知でいてほしいのか、と言いよどんでいる兄を見ながら考える。
そんなに教えたくないことなのか。そんなに知って欲しくないことなのか。
でも、踏み出すと決めたんだから、少しぐらい頑張ってみたいなぁ。なんて…ガラにもないことを考えた。
「――いいじゃねぇかツナ、ここまで殺されておいて教えてやんねーのも可哀想だろ」
急に聞こえてきた声の方向を向けば、子供家庭教師があの黒光りする拳銃を持って…まぁかなりかっこつけて立っていた。
一瞬、オトナに見えたのは…気のせいだと思う。
兄に視線を戻せば、酷く青ざめて、紙をまたぐしゃりと握る。
尋常じゃない程の動揺に、正直、面倒くさくなってきた。
「リ、ボーン…でもっでも月奈はっ!」
「…この間、俺が殺したときにオメーはジョットに会ったんだろ?」
兄の言葉を無視して私に問いかけてくる、子供。
なんでそんなに兄は動揺しているのか、なんでそんなにきみは私を睨んでくるのか。
理解なんてできるわけがなかった。
「そうなるね、うん。お前のせいで私は死んで、そして"アラウディさん"に出会い、それから"ジョットさん"に拾ってもらった。それから敵襲がきて、"スペードさん"を庇ったときに私はまた死んで、そして戻ってきた。」
つまりお前が私を殺しさえしなければ、兄はこんなに動揺する必要などなかったというわけだ。
口には出さないが、ちゃんと内心だけで子供に責任を押し付ければ彼は黙り込む。
漫画でだけでいい能力をこの子供は所持しているのだ。読心術を、持っているというのだ。
「――それで、結論から教えてもらうけど…"ジョット"という存在を君等は教えてくれるのか・くれないのか。ハッキリして欲しいんだけど。」
あんまりお前と一緒にいたくないんだよ。
私を殺した人間と一緒にいれるほどできた人間でもなければ割り切れる大人でもないんだ。
今すぐにでも殴って蹴って、私を殺した拳銃で同じ用に殺したいほどに…私は、お前が嫌いになったのだから。
「…上等じゃねーか、全部教えてやるよ」
「リボーン!」
「ツナ、テメーもいい加減にしやがれ。こいつはテメーの兄妹だろ。こいつは、ボンゴレ10代目の血の繋がった家族だろっ!」
「っっ…!」
「…一番危ねー位置にいんのが誰か、よく考えやがれ」
いくぞ。
そう私に問いかけて、勝手に私の部屋へと入っていく。
本当、自己中だなぁ。
崩れ落ちている兄に視線を向けずに、さっさと自室へと私も入った。
引きこもりと一歩
(無知は罪、無力も罪。)
(即ち私は大罪者)
(…よく言ったもんだこと)