この間の赤い空は、確かに危険の証だった。
「あの、"ジョットさん"」
「なんだ月奈。不用意に口を開かない方がいいぞ」
「すいません。…あ、それでですね…空、また赤いんですよ」
「………どういった、風に…?」
「そうですねぇ……この間のがどす黒い、血のカラーなら…今のは、鮮やかなトマトカラーですね。」
黒くない、どっからどうみても完璧な赤色。
絵の具のような赤。真っ赤。純粋な赤。
だからこそ、たちが悪い。
「……敵、引いてますね」
「ああ…沈静はさせたからな。ボスを殺れば、終わる戦いだったんだ。」
「そうですか」
「ああ」
…、ならこんな胸騒ぎというか…真っ赤な空なんて見えないはずなんだけどなぁ。
そういえば、あの日もこんな曇天だったことを思い出した。
「……………あ。」
「っ!」
「あ、ちょ、"ジョットさん"!」
空の色が変わった、という前に"ジョットさん"が血相を変えたうえで私を置いて走っていく。引きこもりな私についていけるわけがないが、それでも頑張って走った。
外に、出なくちゃ。
きっともう間に合わないんだろうな、とか思いながら。赤色から色を一瞬だけ色を変えて、今はもういつもの曇天に戻っている空を見た。
▽△
今度は、空の変わりに地面が真っ赤だった。
「エレナっ…エレナっっ!」
1人涙を流しながら真っ赤な女性に叫び、呼びかける"スペードさん"。ああ、やっぱり間に合っていなかったか。
そんなことを冷静に考えながらも"ジョットさん"を見る。彼も、そのことには気づいていたようだが、今にも泣き出しそうな表情だった。
ぽつり。ぽつり。
空も一緒に、泣き出したようだ。
「エレナ…っなんであなたがっ!」
「…でぃ、もん…?」
「えれなっ!」
どうやら感動の最後の挨拶をやるらしい。
とても王道なシーンが目の前で繰り広げられている。
確かに感動的だし、実際眼にするなんて思ってなかったけど…王道すぎるよね。会話も。なにもかも全部。
否定するわけじゃないといえば嘘になるけど、私からすればそんな感想しかでないわけで。
「…あの、"ジョットさん"。こんな中言うのも忍びないんですけど…」
「…どうした?」
「あの紅茶に入れてあの人を殺した毒、渡しておきます」
もう一滴くらいしか残ってないですけどね。
そう言って渡せば、彼はまた凄く驚いた表情。ああ、これは見せてなかったからなぁ。これだけは、肌身離さず持ってたし。まぁ見せても見せなくても結果は同じだったけど。
恐る恐る受け取る彼を見て、そして空を見て、最後に真っ赤な2人を見る。
兄を殺したがった理由が、わかった気がしたような。しなかったような。
「…なぜ今これを俺に?」
「空気読めってですよね。すいませんね。でももう時間らしいので」
「?」
「この時代で生きる時間のタイムリミットは、ここまでだったようで。」
彼が理解する前に走る。
ああちくしょう、ちゃんと彼等に教えておくべきだった。
座り込んでいる"スペードさん"の近くにスライディングすれば、急に走り出す痛み。
叫んでいる"ジョットさん"と、唖然とした表情で私を見ている"スペードさん"に、思わず笑いがこぼれた。
引きこもりと期間
(なんて間抜け面なんだ)
(思わず笑みがこぼれちまったぜ)