引きこもりと奇襲



兄がマフィアということは、人を殺し殺されるのだろうか。

この、現状みたいに。


「怪我人は早く引け!救護班は全力で手当てに当たれ!!」

「T世(プリーモ)!いいからテメーは早く下がれ!テメーが死んだらそれで終わりだ!!」


ドタバタを怒声や悲鳴が聞こえる中、私は奥に引っ込んでいた。ここで待っていろといわれたから、そうしているだけ。足手纏いになるのがわかっていて出て行く程私はオタクではない。そうゆう状況で出て行く奴こそが、フラグを立てるのだ。

まぁ、ここが危なくなったら出て行くことにするが。


「…これが、血と火薬の匂い…確かに、いいもんじゃあなかったな」


いや、はじめからいいもんだなんて思ってもいなかったけど。
紅茶を淹れながらそんなことを考える。なぜ今紅茶を淹れているかというと、平常心を取り戻すためと、暇だからだ。

紅茶を淹れ終え、秘密の隠し味一つ。

それからドアをぶち破る音をBGMにしながら紅茶を渡せば、彼は笑んでみせた。


『ほう…お前が潜入者か』


何を言っているかなんて全くわからない。
とりあえず頷いて、紅茶を受け取るのを待つ。

彼は紅茶を一気に飲み込み…そして、吐いた。


『っ!?』

「うわっきたなっ」


思わず呟きながら距離をとれば、彼は咳き込みながらも怒声らしきものを発する。

煩いなぁ。
そんなことを考えながら、床に倒れ付した彼に近寄った。


「残念なことに、私はあなたの味方ではありません。むしろ敵の1人です。先程の紅茶には秘密の隠し味を淹れさせて頂きました…なんだと思います?まぁ、その状況下に置かれてる人間ならすぐにでもわかりそうですが」


彼に向けて言葉を発するが、彼は全くというほどこちらの言葉を理解してくれない。
私が彼の言葉を理解できないように、彼も私の言葉を理解できないのだ。

ふぅ。溜息を一つつき、彼に秘密の隠し味を見せた。


「これですね、隠し味。無味無臭で毒としてはかなり有能らしいですよ。少量で酷い毒素に犯されるそうです。これを多量摂取した兄は無事か気になるところですよね。まぁ、私的には今大変役立ってるのでありがたいですが。」


少しだけ、わざとらしく残されていた毒を隠し味として紅茶に入れた。ただそれだけの行為。それだけで、彼はこんなにも辛そうだ。

兄は職業柄少し毒の耐性をつけたようだが…彼はつけなかったのだろうか、と考えてやめた。そうだ。時代が違うから、こんな毒、この時代にないんだった。いくら耐性をつけても、無駄というもの。


息絶えてしまった彼だったものに目を向けて、そして逸らす。

まだ紅茶は残っている。
彼を隠して、次ここにきた人達にも同じことをすべきか否か…いや、もう手遅れか。


「あなた方も飲みますか?紅茶。」


部屋の入り口で武器を構えている彼等に、紅茶を向けてみた。

向けられる拳銃に、死亡フラグも見えた。




引きこもりと奇襲
(とあるメイドが日本語で喋っているのを聞いたの)
(ここの人、幹部意外に日本語わかる人いないのしってたの)
(彼女は私のことを知っていたはずなのに、)
(なんでそんな無防備に会話してたのかしらね?)

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