引きこもりと日常



最近、兄がよく笑うようになった。


「ふぁ…おはよう…」

「はよう。学校遅刻するよ?」

「え!?嘘もうそんな時間!?い、急がなきゃー!」


ドタバタと洗面所へ行き、はぶらしを銜えて自分の部屋へと行くため階段を駆け上る。
少し待てば鞄と制服を着用し、また洗面所へ行ったらはぶらしを置いて、うがいして、そして台所へときて弁当と朝飯の食パンを口に銜えて「いってひまふー!」と慌てながらに出て行った。

聞こえてないだろうけど「行ってらっしゃい」と言葉を投げつけた。


…最近、兄がよく笑うようになった。
別に笑わなかったわけじゃない。面白いことがあればすぐ笑っていた。くだらない会話とか、お笑い番組とか、漫画で。もちろんそれは私もだ。

落ちこぼれ兄妹。それがあだ名だった。

だった、と過去形なのは、
もう兄はダメツナと呼ばれなくなり、私は学校に行かなくなったからだ。


「おい、オメーは学校。行かねーのか?」


ふと思いついたように、なぜか住み込みで居座るようになったスーツ姿の赤ん坊が聞いてくる。
家庭教師が子供で、しかも住み込みだなんて聞いたことが無い。私はそんなのを簡単に受け入れてしまう母さんが少し心配だ。


「行かないよ」


律儀にそう返せば、子供は「なんでだ?」と聞いてくる。
きみには全く関係ないことじゃないか。そう言ってもいい。

でも、どうせこの子供はデリカシーなんてもの持ってないだろうから無理矢理にでも聞きだしてくるだろう。もしくは調べる。まぁ調べて人間の心情まで出てくるわけじゃないから別にいいんだけど。ってゆーか世間はもう少しこの変な子供に辛く当たるべきだ。


「行きたくないから。それ以外に理由なんてある?」

「雲雀に咬み殺されるぞ」

「もうされたよ。入院するっていう名目があるなら学校行かなくていいから、それでもいいよ。痛いのは嫌いだけど。」

「…なんでそんなに学校行きたくねーんだ?友達いねーのか?」

「いるよ。そこそこに。きっとね。」

「きっと?」

「きっと友達に分類される人間ならいるよ。そこそこに。」

「そうか」


「じゃあ、友達もいるのになんで学校行きたくねーんだ?」そう聞いてきた子供。
エンドレスループ。繰り返される物語。終わらない話。続く。そういった言葉が脳内に思い浮かぶ。

どうでもいいじゃん。んなの。ただ嫌いだから行きたくない。それだけなんだから。

「学校が嫌いだから」と答えれば、「なんで嫌いなんだ」と聞かれる。
いい加減面倒くさい。煩い。うざい。黙れよ。子供嫌いなんだよね。とくにうざいの。だからあの牛柄タイツ着てる子供とか大嫌い。なんで他人がうちに居候してるのかもわかんない。まじ意味不。理解できない。むしろ理解したくない。


家がなんとか落ち着く場所だったのに、なぁ。
溜息をついて、リビングを出て行く。自室に戻ろう。引きこもってよう。

明確な拒絶。私はあのわけのわからない気持ち悪い子供を、拒絶する。つまりはそうゆうこと。わけのわからない居候の子供と意味不な家庭教師の子供を私は拒絶する。うざい。黙れ。できれば死ね。関わってくるなよ糞。死んで。ああ死ななくてもいい。私の視界に入ってくるな。私に話しかけてくるな。私の前で息をするな。というか私に近づくな。


死ねばいいのに。そんなことを呟きながら私は自室に鍵をかけて、ノートパソコンを起動させた。ネト充ですが何か。私の恋人はパソコンですが何か。オタクですが何か。

今日もまた、時間も忘れてパソコンに熱中しますが、何か。

パソコンの画面に映る私の嫁を見ながら、最近よく笑うようになって、楽しげに学校へ通う双子の兄を思い出した。

…がすぐ忘れた。
どうでもいいや。私には嫁がいる。というか大体全体的にどうでもいい。もう死にたい。でも痛いのは嫌だ。できれば誰か殺してくれないかな。ああでも1回でいいから人殺してみたいな。まぁ、そんな勇気、ないんだけど。


ああ、なんかもう、面倒だな。いろいろと。




引きこもりと平日
(パソコン、楽しいなぁ)
(ニートになりたい)
(引きこもってたい)
(不登校万歳)

prev / next