最近、マフィアな兄にはホストの友達まで出来てたようだ。
「お前が沢田月奈か?」
「…えぇ、まぁ。そうですけど。」
長身、金髪、高そうな服、イケメン。
前みたく部屋に篭ってパソコンをしていたら、急に訪ねてこらっしゃったお人の特徴である。
「紹介が遅れたな、俺はディーノ。ツナの兄貴分やってんだ。」
「はぁ。綱吉なら"コザト君達"と遊んでくるらしいですよ。」
私の知らない"コザト君"。別に知ろうとも思わないけどね。
兄に用事だろうか、と思いそうは言ってみたもののどうやら違うらしい。勝手に私の部屋に腰掛けやがりましたよ奥さん。やぁねぇ、近頃の若者はこれだから…。
1人芝居は痛いことがわかった。
「なぁ月奈、お前はツナの何をどこまで知ってんだ?」
「あれをこっちまで知ってますね」
「まじめに聞いてんだっつの」
そんなこと言われても、と思う。どこまでって何をだし。兄妹なんだからある程度のことは知ってるよ。誕生日とか年齢とか、嫌いな食べ物とか好きなゲームとか…ああでも3年前で止まっている私の知ることなんて、たかが知れてるか。
まぁ3年前でさえ、兄が何をやっているかを知らなかったんだ。
それを考えれば実はそんなに私は兄のことを知らなかったんだろうなぁ。
「どこまでってのは、どこからですか」
「どこからって…」
「誕生日ですか、好きな食べ物ですか、嫌いな人ですか、血液型ですか、年齢ですか、好きなゲームですか、お気に入りの服ですか、得意科目ですか、嫌いなジャンルですか、それとも」
マフィアのボスだというところですか。
冷めた視線で聞けば、急に真剣になる"ディーノさん"。
ああこれだったのか、と思いながらも、私は特にこれといった感情はでてこなかった。
「…それはさすがに知ってたか」
「候補だということを黒い服の人達に聞いたので。」
「黒い服…ヴァリアーか。じゃあツナが今どんな位置にいるのかは知ってんだな?」
「いいえ知りません」
「は?」
怪訝そうな顔をしてこちらを見る"ディーノさん"。
いや、だって、知らないよ。兄がどんな位置に立っているかなんて。マフィアのボスってしか知らない。でっていうね。ああ、狙われてるから危ないとかそうゆうことかな?そして家族の私も危ない、と。
…いや、でも、だからなに?
「だからなにって…狙われてるんだぞ?お前も。」
「そうみたいですね」
「そうみたいですねって…殺されるかもしんねーんだぞ!?」
「ああ、なんだ。そんなことですか。大丈夫ですよ、2度程死んでますから」
「じゃなくて、拷問とか…その、女子だから…暴行とか…」
「…確かに痛いのは、嫌ですけど。でもだからといって私にどうしろっていうんですか?」
無知で無力な私に何をしろというのだろうか。修行して身を守れる程度になれとか?そんな面倒なことはしたくない。
大体兄が死ななければそれでいいんだったら私や母さんは関係ないんじゃないだろうか?あ、そうか人質という手もあるんだったな。
「人質になること等心配しているのだったら、いいですよ別に」
「は?いいって…なにがだ?」
「…もし私が人質とかになったら、さっさと見捨てていいてすよって言ってるんですよ」
「はぁっ!?」
ガタンッ、と音を立てて立ち上がった"ディーノさん"。煩い。言葉には出さずに内心で呟く。なんでこうも綱吉の周りには煩い人しかいないのか不思議だ。
「おっおま、そんなことツナにできるわけねーだろ!」
「なら貴方がそうさせてあげてください。身内になんてできるわけないんですから。」
「んな、無理に決まってんだろ!俺だってそんな見捨てるなんてこと…」
「そうですか、とんだあまちゃんなんですね。」
「…なに?」
お、食いついた。
こんな軽い挑発に食いついていいのか。
少しだけ心配になった。
「マフィアのボスってそんなにあまちゃんだったんですね」
「…ファミリーを大事にすんのは当たり前のことだ」
「私は貴方のファミリーじゃないです。なので貴方は私を見捨てられる。そうでしょう?」
「ツナの兄貴分ってことはつまりお前の兄貴分でもあんだよ、月奈」
「そうですか。別に妹分だなんて思わなくていいですよ。邪魔ならどうぞ捨ててやってください。できれば一思いにお願いします。」
痛いの嫌いなんで、そこまで言う前に"ディーノさん"に押し倒される。
急だったから頭打った。痛い。
ぶつけた頭を撫でようと手を上げたら、額に拳銃を突き付けられる。
「…撃たないんですか?」
「…撃ってほしいのか?」
「不必要なものは捨てればいいんじゃないですかね」
「なら、死んでも文句はねーってことだ」
「文句は別に、ただ今私が死んだら綱吉が泣くだけですので」
兄貴分として慕っていた人と、家族。
きっとどっちも大事だと兄なら言うから、ずっと泣いてるに違いない。
兄は、やさしいから。
(私と、ちがってね。)
「…早く撃ったらどうですか、あまちゃん」
「…んなに死にたいのかよ、落ちこぼれ」
「何を言ってるんですか、誰が死にたいといいましたよ。邪魔なら捨てればと言っんです。つまり殺したいのか殺したくないのか決めるのは貴方であり私ではない。」
「同じことだろ」
あーやめたやめた。と言って拳銃を仕舞い、私の上から退く"ディーノさん"。
とんだあまちゃんだね全く。邪魔になるとわかってるのに捨てないんだ。尊敬しちゃうわ。
…ただ使い時まで、取っておくだけかもね。
部屋からずかずかと去っていく"ディーノさん"を見て、少しばかりムカついた。
引きこもりと兄分
(勝手に来て勝手に喋って)
(勝手に怒って勝手に帰る)
(…なんかもう、死ねばいいのになぁ)