最近、兄と出歩くことにした。
「別に出歩かなくてもよくない?」
「いいのいいの。雲雀さんとか山本とか獄寺君とかお兄さんとか骸とかに教えたいし。」
皆手伝ってくれたんだよ。特に雲雀さん。
笑顔で教えてくれる兄は、私の知る兄と少しだけ違っていた。でも、笑顔はやっぱり何も変わっていなかった。
ちなみに兄よ、"ヒバリさん"が特に手伝ってくれたのはきっと私が並中生だったからだよ。
本当にあの人もよく一つの世界にここまで執着できるよね。
すたすたと、早くもなく遅くもないスピードで歩く。
あんまり急いだりすると私の底しかない体力はすぐに尽きてしまう。
ここ最近外に出てなかったから余計に筋肉も落ちたしね。
とある道の角を曲がれば、そこには見慣れていた2人組が目に映った。
「あ」
「獄寺君、山本!」
「おっツナ!」
「10代目!…って、ん?」
元気よく振り向いた2人の内1人、"ゴクデラ君"がこちらに気づく。
"ゴクデラ君"は少し驚いた表情をしていた。
「…10代目、見つかった…んですか?」
「うん。昨日ね。」
「…どこにいたんだ?」
「未来」
私が口を出せば、未来という単語を聞いてまたも驚く2人。
いや、あんたらも行ったんでしょ?そんなに驚く必要ないんじゃない?少し思う。けど、口には出さない。
そのまま"ゴクデラ君"がまた口を開こうとした――が。
「沢田月奈」
「…げ。」
「うわっ雲雀さん!?」
「3年に渡る無断欠席及び住居不在及び群れてるので即刻咬み殺すよ。覚悟はいい?」
「いえ無理です」
「じゃあ、」
死にな。
その言葉を聞いたときにはもう目の前にトンファーが迫っていた。のかもしれない。
私の肉眼では追えないスピードで"ヒバリさん"はトンファーを振り下ろしてきて、そんな中微動だにできない私を庇うが如く兄がトンファーを受け止めたからだ。
…え。兄凄くね?
「ちょ、ちょっと雲雀さん!急になにしてるんですか!」
「邪魔するならまずはきみから咬み殺すよ沢田綱吉」
「おい雲雀!10代目の前にまずはこの俺だ!」
「ちょ、落ち着けって2人共!」
ドタバタと、揉めあう人々。よく揉めあうだけの気力があるなぁ。なんて少し関心しつつも長くなることはわかっていたので近くにあった縁石に腰掛けた。
ふぅ。溜息を一つ吐いた。
「おやおや、幸せが逃げてしまいますよ?」
「いいですよ別に。引きこもっていられれば幸せなので。」
「ほう。だからここに戻ってくることもせず、未来に留まっていることもせず。どこかの空間に引きこもっていたんですか?」
「いえいえ。普通に帰ってきましたよ。私は。」
たぶんね。
一度目はまっくらなせかいにこんにちはして、二度目はまっしろなせかいにこんにちはした。
ブラックアウト・ホワイトアウト
生きて死んで生きてまた死んで、死んだと思ったら未来で、生きたと思ったら過去じゃなくて。
おかしいね。
「そういえば、未来ではありがとうございました」
「いえいえどーも。私はあなたと初対面なんで何をしてもいないのですがね。」
「おやこれは失礼、僕は六道骸といいます」
「へぇそうですか。"ロクドウさん"ですか。記憶にありませんねそんな人。」
「まぁ実際に会ったことは初めてですからね」
「へぇ、そうですか。」
そこまでで、会話が途切れる。
なぜか。
それは、"ロクドウさん"に気づいたであろう"ヒバリさん"がこちらに向かってきたからで、
「六道骸…きみに並盛の敷地内を歩くことを許可した覚えはないよ」
「クフフ…なぜきみに許可してもらわなくてはいけないのか判りかねますね、人権という言葉を知っていますか?」
「うわー!骸なんで出てきたよ!雲雀さんがこれ以上暴れたらどうする気だし!!」
「安心してください10代目!俺が必ず2人共果たしますんで!!」
「なぁどっちが勝つか賭けねーか?」
「はひ!皆さん何喧嘩してるんですか!?」
「…ボス、また?」
知らなかった人と"ヒバリさん"の喧嘩が始まったりとか、
なんか知らない女の子が増えたりとか、
言い争いが始まったりとか、
止めようと頑張ったりとか。
煩いなぁ。けど、賑やかだなぁ。
はぁ。
また一つ、溜息を吐いた。
引きこもりと散歩
(…帰ろう。)
(ほっておいても、大丈夫そうだし)