暗い、暗い空間。虫や動物の鳴き声と川や風の流れる音はせど、凄く静かな時間帯。まぁ俺様からすれば一番の活動時間なんだけどさ。今なんの任務もないんだよね。強いて言うなら天女様である旭ちゃんを守ること、かな?
ガサリッ、わざとそんな音を立てて普通なら誰もいない場所へと出る。

そこにはやはりというべきか、驚いてこちらを向いている旭ちゃんがいた。


「旭ちゃん、こんなところで1人でいたら危ないよー?天女様なんだからさ、他国の忍とかが狙ってるかもしれないし。大体野生動物もいっぱいいるからね?」

「…佐助さん、私、天女なんかじゃないですよ」

「でも空から降ってきてるわけだし、やっぱ天女でしょ」

「まぁそうゆう意味では天女ですけど…」


…アハー、随分ナイーブじゃなーい?俺様暗いのとか苦手なんだけどなぁ。慰めるとかできない人間なの。まず俺様自身慰めてほしい人間じゃなくて放っておいて欲しい人間だからねぇ。

眉をハの字にまげながら切なげに笑う彼女は凄く可愛いと思った。


「…佐助さん。私、もう十分です。」

「…なにが?」

「凄く、楽しかった。私なんかがいっぱいちやほやされて、私の周りにいっぱい人がいて。凄く凄く楽しかった。でも、もういいんです。」


吹っ切れたような、それでも寂しそうな表情で俺様に告げる彼女。何を勘違いしてるんだか、と思いながらも手裏剣に手をかける。あーあ、この子可愛かったのになぁ。


「この一ヶ月間、本当に楽しかった。いろいろな人と出会えて、いろいろな人と喋れて。畑いじりも殴り愛も悪戯も日向ぼっこも釣りも船もお花見も、危ないことだっていっぱいあったけど、凄く楽しかった。もうずっとここに居たいと思うくらいに。」

「…旭ちゃん?」

「佐助さん、いいえ。名前さん。」


久しぶりに呼ばれた元の名前に、少し戸惑う。今までの子でもいたけど、ちゃんと呼んでくれた子は少なかったからだ。


「もういいんです。楽しませてくれてありがとう。でもそろそろ目覚めなきゃ、私はここにいてはいけない。夢物語にずっといていい人間なんていないんです。」

「…旭ちゃん、ここは夢物語なんかじゃないよ」

「そうですね、でも私からすれば夢物語なんです。そうとでも思わないと、私は帰れない。楽しい楽しい夢を見させてくれてありがとうございます。勇気をくれてありがとう。これで、私は負けないで進める。」

「俺様達は何もあげてないよ。でも、何か貰えた気になれたならいいんじゃない?」


まぁそれもすぐに忘れてしまうのだけれど。口にはださずに内心で呟く。彼女はここという現実を捨てまえという現実へ戻ることにしたらしい。俺様にはわかんないなぁ、嫌な現実に戻る理由が。ってゆーかまぁ、転生者でもないトリップ者がここにずっといることなんてできないんだけどね。

手裏剣を構えて、彼女へ目を向ける。
彼女は、笑っていた。


「すこーしチクッとするからねー?」

「そういうときって必ずブスッといきますよね」

「残念、ザクッとでした♪」


それじゃあ、さよなら。平成人さん。
ざっくりと斬られた体は重力に従って地面に倒れ――消えた。


「…あーぁ、心も綺麗な子ってあんまりいないのに。残念だったなぁ。」


でも結構あの子も残酷なこと言うね、ここが夢物語だなんて。ああ別に生きてるのに作り物扱いされたことに怒ってるとかそんなんじゃないよ?ただ、


「ここはちゃんとしたキミの現実の一つって、どうして思ってくれないのかなぁ。」


まぁ思われても困るんだけどさ、キミが否定したからキミという存在があったことなんてもうここからは消えてなくなってるんだし。肯定されて残られても困るだけなんだけど、キミはもうここにこれないんだよ?


「…あ、旦那呼んでる。やーっと正気に戻ったって感じ?…うわああ減給だけはやめてええええ!」


シュッとその場から消え去る影。
最後に小さく振り向いたけれど、そこにはもう何かがあった形跡なんて一つもなかった。



繰り返される物語
(あー)
(次は誰がくるのかな?)
(…逆ハー狙いじゃないといいなぁ)


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