彼は泣いていた。
ただただ泣いていた。

だけど僕はそんな壊れた彼を見ているしかなかった


異常な程の忠誠を誓った彼がいて、そんな彼の親友がいて、今壊れている彼の親友がいて、はじめて彼は存在できるのだ。
その中にもしかしたら、彼を壊す原因となったあの男もいたのかもしれない。
まぁ、そんなの僕にわかりっこないのだけれど


彼は今一つの死体の前で泣いている
他にもたくさん死体はあるのに、なぜかその一つの死体の前で泣いているのだ



ねぇ願いが叶ったのになんで泣いているの?

嬉しくないの、楽しくないの?

失ったものも多かったけど、結局君は目的を果たせたじゃないか

なのに、なんで悲しいの?なんで壊れたの?



今の僕では理解できない
敬愛すべき上司も理解してくれる親友も全てを奪う元凶も、もうなにもいないのに。



「なんできみはないているの?」

「ねぇなんできみはわらってくれないの?」



声をかけてみても無反応。
当たり前だ、彼はもう壊れてしまったのだから。


失ってから気づいたもの

気づくのが遅すぎたもの


まぁ、彼がまさか自分で“生きる糧”を殺そうとしていることなんて、全くもって気づいてやいなかったんだろうけど。
そしてたとえ気づいたと、気づいていたとしても彼に“自分”は無いから何も気にせず同じ末路を辿っていたことだろうけど。




次その瞳に映るものはなんなのか

彼はこれから生きていけるのか

生きる糧を見つけられるのか

見つけたところで彼は生き返るのだろうか


「ぼくには、わからないなぁ…」


小さく見える彼の頭を撫でで、僕は彼を切り捨てました。

彼は呆気なく死んでしまいました



…そういやぼくはいったいだれだって?
さぁ…、だれだったろうねぇ?

死体の頭を撫でる。瞳はもうただのガラス玉になってしまったけど、やはり綺麗だった。瞳だけじゃない、頭も耳も足も腕も口も全てが綺麗だった。当たり前だ、だって彼は僕が唯一ほしがった―――


っと、どうやらここまでのようだ。

彼を抱いて、迎えのもとへ行く




出発する前に戦場を見れば、そこは今だ戦争が続いていた。

怨念と、怨念達による、悲しくて、可哀想な、戦争が


1人の男がこちらを見ていたような気もするが、どうでもいい。




たとえその男がこの壊れた彼の元親友であり彼を壊す原因となった男の手により死亡しそして今しがた僕の行った行為を間近で見てそのことに怒りを感じていたとしても、


「もう彼は 僕のものさ」


小さく小さく、彼につぶやいた。




――銀色は、泣いていたかもしれない。


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