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淡く反転したこの世界で


ベン、と弦を鳴らす音がする。
その音と共に部屋に突如現れる者が1人。


「…どうした」

「毛利元就公がお見えです」

「通せ」

「御意」


言葉と共に部屋から消え去る。
部屋の中にいた2人の男のうちの1人が、またベン、と弦を鳴らした。


「…凄絶に時代に抗う、か……上等」


にやりと、口が弧をかいた、気がした。



▽△



「…で、ここはどこだと思う?」

「森じゃないかなぁ」

「なぜわらわは森にいるのじゃ?教えよ!」

「…凄絶だな」

「…ただ瞬きをしただけで一瞬で森……頭痛がっ…」

「頑張って明智殿、全員同じだから。さすがのオイラも驚きを隠せないから」

「なぁ彩芭、なぜわらわ達は元親の部屋から森にいるのじゃ?これが瞬間移動というやつなのか?教えよ!」

「ガラシャ、僕がなんでも知ってると思ったら大間違いだよ。瞬きしただけで景色が変わるだなんて事態遭遇したことないよ!」

「はは、今遭遇してるじゃないか」

「…げほん。とにかく、俺少し周りの様子見てきます。ここから絶対に、絶対に移動せんでくださいね。」

「上等」


主の返事を聞きつつ、飛んで木の上に上る。それから木と木を交互に移動したりしてとりあえずここ一体を確認してみることにした。あ、迷わないように糸張っとかないとか。結構な範囲見てくるからちゃんと糸張っとこう。


木を飛び移りつつ糸を張っていけば、聞きなれた音が耳へと入ってきた。ついでに臭いもかすかに。行きたくないなぁ、なんて思いながらも確認のためそちらへ向かった。


「…やっぱり、か。」


まだ随分遠いが、それでもわかる。戦だ。泥と血と硝煙と怒声と奇声と叫び声。また煩いもんだ。そう思いながらどこが戦っているのか確認してみる。
旗は赤と青か…、というかなぜ戦場が凍ってたり燃えてたりするんでしょうか?属性かな?あれ、属性ってこんなに効力強かったか…?

…あれ、なんか、もしかしてもしかしてる感じ?


「…どうっしよー…心折れてきたかもしんねぇ」

「そりゃ残念、ついでに体も折っとく?」

「だが断る。ところでお兄さんは誰だい?」

「あら残念。答える義理はないよ」


まぁそれもそうですよね、ってかいや名前とか聞くまでもないんだけど。覚えてるし。かなり昔だけど覚えてるし。結構記憶ってもつもんだなとか思ったけど俺が異常だっただけだと気づいたのはつい最近である。


「はぁ、まぁいいんだけど。じゃあまぁ戦いの邪魔しないうちに早く帰りますかね」

「あはー、帰れると思ってんだ?」

「思ってる思ってるー。だって俺様何もしてないしー?大体もう1人を盾にでも使えばいくらでも逃げられるしー?」

「は?もう1人って…!」

「お気づきになられた?きみを狙ってるわけじゃないみたいだけどね、もしかしたらきみのご主人様を狙ってるんじゃない?いいの倒しに行かなくて?」

「………ちっ」

「あははぁ、ばいばーい♪」


舌打ちをして消えた橙色もとい『猿飛佐助』。
軽く見送ってから私もその場から離れ先程皆といた場所へと向かった。



▽△



「………と、いうわけでなんかおかしかったですよ」

「…『武田信玄』、『真田幸村』、『猿飛佐助』、『上杉謙信』、『直江兼続』…。」

「本当に俺等の知っている者と別人だったのか?」

「はい。姿形心性格、全てにおいて違いました。確かに少し似通ってるところはあれどやはり別人だと思います」

「そうか………」

「…つまり、どうゆう意味なのじゃ?」

「簡単に纏めますと…断言はできませんが、私達の居たところとは違う、別世界かと思われます。まぁただの憶測ですが。」

「べつ…」

「貴重な体験だね」


…毛利公、相変わらずっすね……。
もうちょっとシリアスになってほしかったりするんだけどなー


「…とりあえず何事も整理するのに時間が必要だし、町にでも行かないかい?見つけたんだろう?そこで甘味でも食べよう」

「…それも、そうですね…」

「彩芭、案内しろ」

「お任せあれってねーw」


へらりと笑って歩き出せば、皆ついてくる。
戦は完全無視ちゃってさっさと町…村?まぁどっかの甘味屋はーいろっと。




淡く反転したこの世界で
(現実逃避を繰り返しながらも)
(受け入れる準備をしよう)


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