「どうも、音無です。長曾我部君にプリント届けに来ました」


チャイムを鳴らして、そう言葉をかければ途端に開けられる扉。
扉の向こうに居た人は私を見て、驚いたと言わんばかりに目を見開いた後家の中に「元親のお友達が来たわよー!」と叫んでいた。相変わらず豪快なお人だと思う。でも、誰だかを言わなかった辺りこの人も人が悪い。

ニコニコ笑いながら、こいこいと言わんばかりに手招きをして家の中へと誘う。
プリント渡して帰る、などという希望はどうやらやはり叶えられそうにないらしい。


「ひっさしぶりねー憐ちゃん、大きくなっちゃって!」

「ははーどうもー、お母さんこそ相変わらずのようでして…」

「まぁ、あんな子抱えてちゃァねぇ。もう小さい頃の可愛さ本当どこに行ったのか…それに比べて憐ちゃんの変わらなさといったら!」

「…よく言われます」

「でしょうねぇ…あ、でもお母さん譲りで胸は大きくなったでしょ?」

「嬉しくないことに華麗に受け継ぎました」

「全国の貧乳様を敵にまわす発言もお母さんそっくりね」

「持ってみますか、重いですよ」

「知ってる」


にこり、と笑った彼女は昔よりは老けていた。
けれどその笑顔は、昔とは、やはり何も変わっていなかった。



コン、と軽く、少しだけ届くな、という思いも込めてノックする。
まぁもちろん先程元親のお母さんが家の中へ言葉を放っていたし、そんな都合良く眠っていることなんて現実じゃないから、ゆっくりと開かれる扉を見ながら逃げ出したい気持ちを一生懸命抑えていた。

ギィ、と開く扉の向こうから出てくるのは、おでこに冷えピタを貼った、けれど案外元気そうな彼の姿で。


「あー悪かった、な…………」

「………やっh」


バタン。
…閉められた。完全に閉められた。そして言葉さえも遮られた。おい返せ私の勇気を。

一応、もう一度優雅に、優雅に(ここ大事)扉を二回ほど叩く。
開かない。
コンコンコン。お次は三回ほど。
開かない。
コンコンコンコン。なんだか執着が激しい女みたくなってきたぞな四回ほど叩く音。
開かない。
コンコンコンコンコン。少し力が強くなって音が大きくなったことに彼は気づいただろうか。気づいてなかったらやつの耳は節穴である。
ドアノブの方に手をかける。鍵をかけられるタイプじゃないから大丈夫だろう、そう。相手が向こう側で抑えていない限りはこのドアノブを捻れば開くのだ。抑えていない限り、は。

ガッ。
回るどころか普通に動かないドアノブ。
二回三回と回るかどうか試してみるが、回る様子は皆無。


…いいだろう。


悪い顔でフッ、と笑った憐は、そのまま目を獲物を見つけた獣のように輝かせ、ドアノブに両手を。そして足をバァンと壁にぶつける。
実力行使。
その言葉はまさに、今の憐に当てはまる言葉であった。

とりあえず、制服姿な女子がやる格好ではないことだけを記載しておこうと思う。


「ふふふ長曾我部君おかしいなぁどうして開かないのかなぁこの扉ふふふふふ」


ギリギリギリギリギリと、向こうもかなり必死なのだろう。熱でいつもよりは弱まっているはずの力をきっと総動員して絶対に私をこの部屋に入れさせないために死ぬ気で、本気で扉を抑えている。カタカタと揺れる扉とドアノブがそれを証明してくれている。

せっかくこの私が、直々に、勇気を振り絞ってやってきてやったというのに!なんたるこの仕打ち!

イラァッどころかイッラァァァァッぐらいのレベルでイラつき始めている私には、もう帰ると言う選択は生憎ながら存在していなかった。
この扉を、こじ開ける。
それしか頭の中になかった私は一応周りを確認して、扉を確認した。
…木製だけれど、そんなヤワではない。なるほど。これならば、こいつなら直せそうだ。
ニヤァ、と上がる口角と共にフッと扉を開ける力を抜く。向こうにいるであろうやつは、やっと諦めたか。そういった気持ちを込めてホッと、つい安堵の溜息をついてしまったのだろう。扉を一枚挟んでいながら聞こえたその音に、

プッチン。


「あ・け・ろ、ゴルァァア!!!」


バァァァアアアアアンンンンッ!!!!!!!!


「う、わ、ぁあぁ!?」


大きな音を上げて倒れていく、木製の扉を見る。どうやら扉自体は壊れなかったらしい。ただ、扉として機能するようにとつけられていた金具達はものの見事に外れたり使い物にならなくなったりしていた。計算通り。さすが私だ。
フッと勝利に浸るように笑みをこぼし、未だに驚きから唖然としてドアノブを持ちながら廊下に倒れている元親を見ながら足を下の位置へと戻す。

しばらく待って、やっと全てを理解したであろう彼は、熱で赤くなっているのに顔を青くし(けれど頬は赤い不思議)扉の上から起き上がった。


「お、おまっ…なんてことしてくれんだよ!?つ、つか回し蹴りとか…!」

「私の必殺技はどうだ凄い威力だろう。靴も履いてないからお陰様で現在進行形で足クソ痛いけどな!」

「お前の足以前に俺の部屋の扉ァァァ!」

「それくらいアンタなら治せるっしょ?」

「思い出せお前が俺の家へとやってきた意味を。俺、今、病人。」

「大丈夫扉ないくらいで人間死なない」

「扉あるかないかで部屋の中の温度差全然違ぇんだからな!?」


ぐだぐだと煩い男だ。女々しいにも程があるぞ。変わったのは外見だけってか。どうせなら昔の外見のままならまだ可愛げがあったというのに!!

と、まぁ自分が理不尽なことを言っているのは百も承知なので一応応急処置くらいはしておいてやろうと思う。まぁやるのは私ではないけれど。
ポケットから携帯を取り出し、ある人に通話をつなげれば万事解決。「工具もって二秒で長曾我部ん家こいやゴルァ」だけ言って切ってしまえばやつは私に逆らえないのだフハハハハ!鳴り響く電話は無視するに限る。


「おら、これでいいだろ。扉壁にでも立てかけてさっさと部屋入れ病人が」

「な、なんだこの理不尽の塊…!つかお前誰に電話して、」

「久しぶりの長曾我部家で迷うことを計算に入れて20分はかかると思うからその間に用事済ませるよー」

「聞けよ!!」


そんな擦り切れるような叫びを完全にスルーして、勝手に部屋の中へと入る。
後ろで咳き込んでる馬鹿は、相変わらず馬鹿だった。





勇気一丁、届けに参りました
(喉痛めてるんだったらそんな大声出さなきゃいいのに)
((出させたの誰だ…!))

prev next