長曾我部君に強制連行されながら約束の場所に行けば、律儀にも立ったまま待っててくれた真田君と猿飛君。
なんだろう、この、何かしでかした覚えもないのに放課後先生に呼び出しをくらったときのような感覚は。しかも後で来い、とかじゃなくて先生が直々に呼び出し連れて行くほうの感覚。
つまり何が言いたいかって、今すぐ逃げたい。


「音無殿、それに長曾我部殿まで!?」

「あー…ごめんね待たせて」

「よォ真田、俺も混ぜてもらうぜ」

「…どーいうことなの?」


予定にない第三者の乱入に困惑する二人に心から同意をこめて頷く。むしろ心だけで頷く。
戸惑うよね、面倒だよね。それ私も君たちに思ったことだからちゃんと気づいてくれるとありがたいな。無理だろうけどね。
しかもガッツリ混ぜてもらうなんて言いやがったこいつは、近くにある椅子として使われる石にどっかりと腰掛けた。一歩も動かない気だなこいつ。気づけお前はお呼びじゃない空気に。

一番事情もなにもわかっていない猿飛君は微妙な顔をしながらどうすればいいか悩んでいるし、真田君はいろいろと脳内の整理がついているのかいないのか、長曾我部君の言葉に生返事を返すだけ。

…帰っちゃダメかな。
面倒くさい、本当に面倒くさいよこれ。


「…俺のことは気にしねぇでいいからよ。ほら、話があったんだろ?真田」

「ハッ、そうでござった!」

「結局なんの話なわけ?俺様なんの話も聞いてないんだけど…」


どうやら猿飛君は一番の部外者らしい。
おいちょっとまてよ真田、お前事情を説明するために早く教室出たんじゃないのか。ただ連れてきただけかお前。彼を連れてきてどうしたかったんだお前は。

けれどそんな猿飛君を哀れには思うが、こちらも構っていられる余裕はないので無視することにする。
さて、何をどうでっち上げて彼らを納得させるべきか。どうすれば彼らはもう私に関わってこないか。その答えはきっと出てこないだろうけれど、出すしかない。面倒事を長引かせるのは正直に趣味じゃない。


「…とりあえず、なにから話そうか」


話すことなど、ないのだけれど。


「…音無殿は、神門殿とご友人であった。」

「はい」

「ですが某が見るに、あの日…音楽の授業の後から、仲が悪くなったものと見る」

「それで?」

「音楽の時間に、一体、何がありましたのか教えてはもらえませぬか。さすれば、某も仲直りの手立てを一緒に」

「真田君、」

「はっ」

「あのね、きみは迷惑って言葉知ってるかい?」


にこり、と作った笑顔で真田君の質問に直球な感情を伝えてみた。

予想外だったのかもしれない。真田君はたじろぎ、猿飛君は目を細めた。生憎ながら長曾我部君は先程からずっと目を閉じたままなのでわからないけれど。
でも、ここまでに彼がお人好しだというのは理解した。前から人のいい人だと思ってはいたけれど、ここまで来るのはもはや病気に近いものがあるだろう。怖いほど、正直気持ち悪いほどに純粋だ。人の役に立つために生まれてきたみたいな男だ。まぁ、全員ではなく限定はされるだろうけれど。
私がなぜその対象に入っているのかはわからない。一応知り合いといえば知り合いだし、もしかしたら彼の中では友達の部類にわけられているせいだと思える。けれど生憎私はきみをただのクラスメイトとしか見た覚えはない。確かに出会いは壮絶だったけれど、友達と呼ぶにはまだまだ遠い位置にいると思っている。
真田君、なにもきみだけの話じゃない。猿飛君も長曾我部君も、だ。

言葉にして伝えるなんて、そんな無粋なことはするつもりはないけれど空気で察せるほどには私は隠していない。
案外鋭い彼のことだ。気づいているんじゃないかな?
にこりとした作り笑いをやめないまま、真田君の次の言葉を待つ。
私は拒絶を渡したわけだけれど、どうやって出てくるのかな?
冷たい空気になったことを肌で感じながらも、それに気づかないふりをする。私も、できた人間じゃァないんだよ。


「…迷惑、でござるか」


沈黙を壊すように、ポツリと、自分で確認のために落とされた言葉。
なにを考えているのか、なんてわからない。
今の今まで同じように生きてきて、それでいて、一回も拒絶を渡されたことなんてない、わけはないと思う。
もしかしたら、今まであった人は彼の行為を好意として受け取って、一回も拒絶されたことなんてないのかもしれないけれど。

けれど、そんなことどうだっていいのも確かなわけで。
だって、私には、そんなこと、ぶっちゃけ関係ないわけで。


「正直、人と人の問題に部外者は入らないほうがいいよ?本人たちがどうかしようとしてるわけでもないんだし、放っておきなよ。余計な善意は迷惑にしかならない」

「ちょっと聞いてりゃ、言い過ぎじゃないのかなー?」

「いやいや、だってその通りでしょ?本人たちはこれでいいって言ってるんだし、部外者が入ってこないでくれます?私と神門さんが喧嘩したから何?それで、きみに迷惑でもかけた?かけてないよね?だって神門さんは神門さんで新たに友達と遊んでるし、私は私で小説読めるし。プラスしかないじゃない。」


邪魔した覚えはないんだから関わってくるな。
迷惑かけた覚えはないんだから放っておけ。

部外者は、黙ってろ。

真正面からそんな言葉を伝える勇気は、残念なことに持ち合わせていないけれど、言葉裏に潜めて届けてあげる。
そんな届け物はいらないと、そう言うかもしれないけれど、生憎返品返金は受け付けておりませんので。

なぁんて、脳内で少々遊びを繰り広げていれば、考えがまとまったのかやっと真田君が顔を上げる。
その顔は、なにか決意したのか眉を凛とさせ、私を射抜くように強い瞳でこちらを見ていた。

――――なんて、ことはなく。
わからないけれど、穏やかな、けれども元気が有り余っているような、そんな笑顔を向けられた。

…なに、こいつ。ドM?


「そうでござったか!某の行為は、迷惑でありましたか!」

「……あー、うん。ぶっちゃけるとそんな感じ」

「それは失礼致した。ですが、安心しました音無殿!」

「…なにが?」


聞かないほうが、いいとは思ってる。
けれど流れに身を任せ、その安心した言葉の先を足してみる。


「――神門殿も、全く同じことを申しておられました故に」


彼は、よく似合うニパッとした笑顔を顔全体に広げてみせてくれた。


…いや、お前、神門さんのところにも行ってたのかよ。
そのツッコミを、もう言葉に出す元気さえも私にはなかった。





砂糖に砂糖を足しても、砂糖にしかならないように
(同じ返答=大丈夫、って、ことなの…?)
(…どうでもいいけど、なんか、すっごい疲れた…)

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