「…ということなんで音楽の授業出てくれませんか私の携帯が人質だ」

「だが断る」


予想内すぎるほどの笑顔でくだされた決断はあまりにも残酷だった。


「酷い…私の携帯の安否はどうでもいいのね!」

「むしろ携帯よりも私の安否を優先してほしかったんだけれど」

「え、だって携帯のが大事じゃね?」

「まぁ、そうだけど…ってよっぽど非道だなおい」

「今同意してたの忘れないでね神門さん」


すぐさまそう切り返すと覚えてたかと爆笑された。
さすがに1分もたってない間に言われたことぐらい覚えている。そこまで私の記憶力は弱くない。

正直携帯さえ人質に取られていなかったら私だってこの自体に関与しないのだが、残念なことに携帯はあのお姉さんの手の内である。
結局名前さえもわからないまま神門さんの捜索に駆り出された私は、とりあえず無難な屋上からせめてみたのだ。案の定いた。


「あー…私の携帯のためにどうかひとつ。二秒でいいよ。」

「音楽室という空間が私を拒絶するから無理ね」

「どこの厨二病だ」


ふぅ、と内心でため息をはく。私は一体入学してから何回ため息を吐いただろうか。数えたくもない。

私は携帯さえ絡んでいなければ、神門さんが何をしようがどうでもいいと思っている。
神門さんに限らず、私にさえ被害がこなければ誰が何をしても興味がない自信がある(いや、まぁぶっちゃけ場合にもよるけれど)。
でも今この状況的に、私は神門さんが音楽が嫌いな理由は聞かないといけないだろう。
ただ嫌いなだけなら、まだいい。でも重苦しい理由だったら?クソ面倒くさいことこの上ないので心から遠慮したい。友達思いじゃないって?面倒なんだよ、そういうのは。

面倒くせーなーと思いながらも、とりあえず理由を問うてみることにした。
じゃないと私の携帯が帰ってこない。


「なんでそこまで音楽嫌いかなー」

「嫌いだからに決まってんでしょ?」

「ごもっとも。でも、音楽室を拒否するほど嫌いとか立派すぎてむしろはんぱないじゃん?」

「…正確には、音楽室が私を拒否してる、だけどね」


スッと目を細められる。
これ以上、踏み込んでくるな。
その真意はありありと見えるけれど、引くわけにもいかない。
私には携帯がかかっているのだ。
ロックはかけてあるけれど、危ないものがいろいろ入ってるのだ。

お前は友達よりも携帯かとツッコミがそろそろ入っても良さそうである。


「どっちでも一緒やん」

「意味合いがどっと変わりまーす」

「それはすいませんでした」

「わかればよろしい。じゃあ、もういいかな?」

「んー、うん、そうだなぁ。ね、なんで音楽室に拒否られてるの?」

「…拒否られてるからさ」

「そっかそれはお可哀想に」

「同情的な意味でして?」

「いいえ全く」

「ほどよくいい棒読み具合でした」

「それほどでも」

「褒めてない」


ほどよくいいとは褒め言葉ではないのだろうか。
まぁそんなことはどうでもいい。
これはがんなに理由を教えてくれるとは思えない。というか同情て、同情をかけられるようなことをしたのか神門さんは。

さて、そろそろ引くとしよう。これ以上の接近は無駄としか思えない。
任務失敗の報告さえ告げればあの女子生徒だって携帯を返してくれるはずだ。まぁ最初から一応これでいけば携帯は無事帰ってくるのは理解していたんだけれど、一応当たって砕けてみました。無駄な時間だった。


「んじゃま、携帯返してもらってくるよー」

「いってらっしゃい」

「あーHRは?」

「出ずに帰る」

「了解」


じゃあねん、とひらっと手を振って屋上を出る。

彼女は、手を振ってはくれなかった。





それはまるで海のように
(押しては、引いていくってか)
(…あー、めんどくさっ)

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