生憎、恐れをなしたのか関わらないが吉と踏んだのかは知らないけれど誰も私に関わってくることはなかった。
むしろ避けられている気さえする。


「音無さーん、次の音楽私サボるねー」

「神門さん音楽の単位やばいんじゃないそろそろ?」

「平気、ちゃんと計算してるからね」

「嘘だろ」

「ばれたか」


そりゃ片っ端から音楽の授業をサボってりゃ計算なんてしてるように見えないって。バレバレだって。

音楽担当の先生泣いてたから、ということだけ告げて見送る。
一応注意はたしておくけれども、止める気は毛頭ない。別に一人で教室行けないわけでもないし(みんなについていくから)、一人が寂しいとかそんなこともない(大体一人のが小説も読めるし楽だし)。
大体が神門さんと過ごす私にしては、確かに珍しいだろう一人行動なんて。
私と神門さんからすれば案外そこまで珍しくもないのだが、それでもやはり周りがみれば珍しい光景になるのだろう。

そんなどうでもいいことに思考を回しながらも、音楽の教科書と筆記用具、その他必要品を持って音楽室へと行くクラスメイトのあとを追うように歩く。
音楽室についたら、寝よう。
どうせなら同じくサボればよかったかなと思いつつ、癖がついては嫌だから漏れ出る欠伸を噛み殺しつつ歩いた。



▽△



「貴様が音無憐だな」

「はい…そうですけれど」


音楽室で安眠につく予定が、なにやら美人な女子生徒様に恐ろしい勢いで捕まえられて、只今廊下でお話中であります。
はて、私は一体なにかやらかしてしまったんだろうか?この美人な女子生徒は生憎記憶には全くヒットしない。私が忘れていなければ、初対面ということに間違いはないはずである。
そんな初対面な女子様のお気に召すことをしてしまったのだろうか?
確かに、ここ最近の私の行動は目に余るものがあると思う。大人しいモードからすれば、だけれども。
三成君とすれ違うたびに睨み合い足を踏み合い、家康君と出会うたびに皮肉と嫌味の報酬が始まる。
吉継君と出逢えば乗り物に乗る乗らないで争いになりつつ、三成君が必ず突進して入ってくるから結局喧嘩になる。
あとはまぁ保健委員の仕事サボって先生に追い掛け回されたりそれに対して三成君を囮にしたりかと思えばされたりなどなど…、

ってこれでは喧嘩ばかりじゃないかと思いがちだけれど、本当にそうなのだから仕方ない。本当に仕方ない。
もっと大人しい生活をする予定だったのに…どうしてこうなった…。

もはや思考が論点とずれていることに全く気付かずに暴走していると、音無憐を引き連れた女子生徒がげほん、とわざとらしく咳をした。
それによって戻ってくる意識に、危ない危ないと思いつつも女子生徒の言葉を待つ。


「確か…貴様は神門希と仲が良かったな?」

「神門さん…ですか。ええ、まぁ、はい。それなりに。」

「じゃあ神門希が毎時音楽の時間だけ出ていないのは知っているな」

「まぁ…あ、音楽担当さんですか?」

「違う。謙信様が嘆いているのだ!」

「…謙信様?」

「ああ、音楽担当の先生だ。まさか名前を覚えていなかったなどと言うんじゃないだろうな…?」

「(その通りですなんて言えるわけがないこれ)あ、いえ、存じておりますよ謙信先生ですね。美人ですよね。羨ましい限りですはい。」

「謙信様のあの美しさがわかるのか!?」


恐ろしい顔から一変、花が咲いたような、刺を綺麗に取った薔薇のように顔を輝かせながら反応してきたではないか。

あ、これは素晴らしく恐ろしいほどに面倒くさい雰囲気だ。
そう悟った時には遅く、それから約数十分以上も女子生徒から語り継がれる謙信先生の美貌や志、それからなぜ知ってると言いたくなるがスリーサイズまで知ってしまった。
女子生徒の名前を知るよりも前にこんなに謙信先生のことを知ってしまった。
スリーサイズとか誰得なんだ。あ、この人得か。

それから尚も語り継がれそうな雰囲気に昔はお得意だったAKYを発揮し、本来の目的を聞くために女子生徒を正気に戻させたのはきっとこれみんなやることだろう。


「…で、えと、神門さんを連れてくればいいんですか…?」

「そうだ。謙信様の悲しみは神門希から来ている。授業に出させろ」

「はぁ…と、言ってもさすがにサボり場までは聞いてないんですけど…」

「メールとか電話とかあるだろう」

「………あ」

「どうした」

「いや…私、そういえばメアド交換…してない」

「………は」


入学から1ヶ月は有に立っているのに、まだ電話番号どころかメアドさえも交換していなかった事実にたった今気がついた。
二人して携帯はいじっていたというのに、どうして気づかなかったし。
私が一人で驚愕していると、お姉さんの呆れしか感じられないため息が頭上から聞こえてきた。

…お役にたてなくて、なんかもう、申し訳ありません…。





忘れられた情報交換
(大体法則的に考えれば友達とメアドを交換するのは一番最初にやる出来事だろう!)
(いやぁ…別に交換しなくても困らなかったし…大体学校で会えば用事なんて伝えられるし…)

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