いろいろ息巻くだけ息巻いて憶測を並ばせ続けたけれど、今思えば無駄な時間を過ごしたとしか言い様がない。
まぁ、確実に自分なりの現実逃避だったんだろう。それは理解できている。

けれども、あんなことに時間を使う暇があったのなら今この状況を予測するくらいのことしててもいいと思うよ私は。


「やぁ、憐!久しぶりじゃないか!相変わらず小さいな!」

「久しぶりですね家康君どうやら好青年っぷりに磨きがかかったようでその笑顔に騙された人達が可哀想ですよあとお前も男子にしちゃチビだよな」

「随分と口が達者になったなぁ…だが、素が出てるぞ?」


嫌味ったらしくもなんともない爽やかな笑顔でガッツリと毒を吐き出してくるのは、徳川家康君。
三成君同様小学校時代の宿敵であり、そして今現在喧嘩を売ってきた相手である。


「出てるんじゃねぇよ出してるんだよ、てっきり三成君と仲違いしてるみたいだから高校別にしたと思ったら…」

「ははは!仲違いなどしていないさ。でもそうだな、憐は知らないからなぁ三成のことを…」

「あっはは知りたくもないけどな」

「はははは無知が」


悪気もなにもないその笑顔のまま毒を吐く彼に、昔のがまだ可愛げがあったことに気づかされた。
時の流れとは怖いものだ。昔は殴り合いや蹴り合いが主で、こんな口喧嘩などしなかったというのに。

ふふふふははははと、双方笑っているが冷たい空気があたりに立ち込める。
笑顔なのに、怖い。
周りが怯えているのなどいざ知らず、久々に会った宿敵に敵意しかこみ上げてきていない二人はどうやって相手を潰すかしか考えていなかったのかもしれない。


「それにしてもそちらから会いに来るとは珍しいですこと?」

「わしがお前になんか進んで合いに来るはずないだろう?自惚れもいいところだな」

「あらら、でも貴方のクラスってここじゃないでしょう?」

「ああ、確かにわしのクラスはここじゃない。だからと言ってわしはここがお前のクラスだとも知らないんだがな?」

「ん?つまり誰かに用事でもお有りで?そうならばそうと早く言ってくれればよかったですのに、まぁまぁ律儀に私のお相手なんてしてくださって。暇人でいいですねぇ」

「ははは、わしとしたことが思わず暇そうにしていた小動物の相手をしてしまっていた。忙しい身としては無駄な時間を過ごしすぎたな、ふぅ」


やれやれ、と言わんばかりに両手をあげてみせるやつに対し私も嫌味ったらしい作り物の笑顔で羨ましがる。

にこにこ にこにこ

笑顔で空いた間によって、喧騒が収まる雰囲気になりつつある。
…かのように見えるが、むしろ逆なことなのは本人たち以外知るよしはなかっただろう。
この場に石田三成や大谷吉継がいたのならまた話は別だが、いたらいたでこんな間など生まれる暇なく戦争が巻き起こるので別としよう。


二人の背後で、戦闘合図の鐘が鳴る音が聞こえたのは、果たして何人いただろうか。


「おい家康!なにしてんだよ!」


カーンと鳴った鐘の音を合図に、戦闘態勢を取り、今まさに殴り合いをおっぱじめようとしていた二人の間に声をかけた勇者がいた。
これが石田三成であらば止まることはなかっただろう。否、声をかけた主が彼でなければ徳川家康も音無憐も止まろうとは思わなかったであろう。

お前はここで殺す、と言わんばかりの勢いで振り上げられている拳と、それを避けようと上体を低くした態勢で足払いをかけようとしていた態勢のまま止まる二人に彼は思わず身じろいだ。


「おぉ、元親!すまない、待たせたままだったな」

「い、いや、んなことはいいんだがよ…」


ちらり、と声をかけた彼…こと、長曾我部元親の視線が向けられた先は、もう戦闘態勢から抜け出し普通に立っていた音無憐がいた。
その視線に気づきながらも普通に制服を但し、先程の毒を吐く用のわざとらしい笑顔から一変して至って社交的な微笑みを作る。


「ごめんね長曾我部君、またせてたみたいで」

「いや…だからそれはいいんだが…」

「謝るのならば土下座が礼儀じゃないのか?」

「あはは、家康君てば面白い冗談だね。お前が這いつくばってろよカス。」


親指を下に向けるのも忘れずに。

さて、あのクソ狸のせいで私の印象とやらは丸替わりであろう。それでも、今まで通り猫かぶりは続けていく所存であはあるが。
いや、大体いつもの私が猫かぶっているわけじゃない。だから別に素を隠していたわけじゃない。
ただあいつ…否、あの二人を相手にするときは大人しいキャラではいけないのだ。
殺す気でかかれ。
それが私が小学校で身につけたやつらへの対応の仕方であった。
3年は会ってなかったのに、なんということだ。
小学校のときと関係が何も変わっていないじゃないか。

まぁ、それがいいんだけどという言葉は、思いついたけれどすぐにゴミ箱へ没シュートしておいてやった。





地べたに這い蹲るは貴様だ
(…なぁ家康、お前って…音無と知り合いか?)
(ん?何を言ってるんだ元親、わしがあんなやつと知り合いなわけがないだろう!)
(……お前、なんかこえーんだけど)
(気のせいだろう!)

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