あのあと無言で荷物を運び合い、そしてまた礼を言えば戸惑いながらも「いいってことよ」と男前に言ってくれた。

きっとこれで大丈夫。
私は君を覚えてないし、君も私を覚えてない。
ただのクラスメイト同士。
それが私たちの、肩書きだ。


「…わかっては、いるし、望んでもいたけれど…いたけれど…!」

「やっと話したと思ったらへこんでるし…まぁ予想内だけどさ」

「忘れてて欲しいけど本当に忘れられてると思うと腹が立つ!くそ!なんで私だけ覚えてるんだ!」

「あ、そこなのね」

「兄さん!うまい具合に私を殴れ!そしてあいつの記憶を消してくれ!」

「そんな芸当できるか!」

「私だけが覚えてて悩んでるだなんて、そんな馬鹿なことがあっていいはずあるか!逆ならまだしも!」

「お前…本当に酷いよな……」


ジト目で見てくる兄さんは完全スルーしてこれからのことについて考える。
一応、やつは忘れている…もしくは私と同じ状況だけれどアクションを起こす気はないと見る。
私もやつがアクションさえ起こしてこない限りなにかする気はないので、ここは大丈夫だろう。
彼が実は覚えているというのを前提とした長曾我部視点から見て、私が忘れているんだと理解していたとしたら。
きっとクラスメイトとして、関わりを作ってくるに違いない。
本当に覚えていないのを前提とした長曾我部ならば、特に問題もなく新しい関係が築けるだろう。

さて、ここでもう一度整理し直してみよう。
私はなぜやつを避けているのか、なぜやつに忘れていて欲しいと望んでいたのか。
それは、私の黒歴史とも呼ばれる時代を共に、一番近くで過ごした仲だからだ。
その過去を、バラされても困るし、その過去の私を求められても困るからだ。
あのときの私は、幼かった。
だからこそ今の私はあの頃の私を一個別の人と見て、受け入れ毛嫌っている。
矛盾している、と思うだろうけれどそんなものだ。
もしかしたら受け入れられてはいないのかもしれない。
けれど、自分が受け入れている気になっているんだからそれでいい。

話しが逸れた。

まぁ、要するに私はあの頃の私の全てを知っているやつにコンプレックスがある。
けれど今こう考えてみると、それはあっちも同じだと予測する。
あのどっからどう見ても女の子で非力でひ弱で泣き虫で弱虫だった彼から一転して、力も信頼も仲間も全てを持っている彼と成ったのだ。
あいつにとっても、あの時代の自分は、黒歴史。な、はず。


「…それを前提に考えれば、あっちからアクションなんて起こしてくるわけない、よね…」

「なにが?」

「いいから、好きに推理させときなさい。どうせ無駄なんだから」

「…?ういー」


残念なことにこの時の私は周りの声など聞こえていなかった。
周りの話しよりも、自分のことに精一杯だった。

確かに、それは、何も間違ってはいなかったけれど。




駆け抜けろ推理力
(憶測に憶測を重ねて憶測を導き出す!)
(それ結局憶測しかなくね?)
(シャラーっプ!黙りなさい!)
(いいからほっときなさいって)

prev next