ガッツリと彼を避け初めて早3日。
視線は度々感じるものの、何もアクションを起こしてくる気はなさそうな彼に安堵しつつ、私は今家族でお出かけ中です。


「で?いつ元親君連れてくるの?」

「何を仰っておられるのか私には理解及びませんね」

「なにあんたまだ喋ってないの?」

「そんなキッカケどころか最近避けてますが何か」

「なんでんなことすんだ?友達だろ?」

「ああ我が兄上よ、そなたのようにわたくしはお心が広くないのですのよ。そしてそなたよりもわたくしには隠すべき過去が多すぎた…そう、多すぎたんだ…!」

「いやそんな多くないだろ。主に一つじゃねーか」

「そこつっこまないで欲しかったなー」


父さんのツッコミを華麗にスルーしきれず、兄さんはよくわかっていないようで頭の上に疑問符を浮かべている。
私がこんなにも毎日逃走に奮起しているというのに我が家は相変わらず平和なようだ。

へっとグレたかのように笑って、視線を少し別なところに向けてみる。が――
―――二秒で首を戻し、そして華麗なる測度で座る席を母の右隣から左隣に変えた。


「…急にこないでよ。こっち狭いんだけど」

「ごめんだけど席移動お願いそっちあげるからマジお願い」

「なんだー?なんか向こうにい…あ、ちかちゃん」

「「なに!?」」


兄さんの言葉に過激に反応してバッと、兄さんの視線の先に視線を巡らせる父さんと母さん。
そんな二人にあまり目立つようなことをするなと声をかけつつ、私も横目でちらり。

どうやら、いつも通り「野郎共」と行動しているらしい。


「はぁー…こうやって見ると、本当…たくましくなったよねぇ…」

「俺よりガタイよくなって…!」

「あんたのそれはガタイがいいんじゃなくて贅肉でしょうが」

「どうしてあんな不良みたいなことに…バイクで走り回ってそうだな。やばいかっこいい…」

「…兄さんがホモに」

「断じて違う」


冗談で言ったつもりの呟きに速攻に反応してくる兄さんは人の言葉を聞いていないようで聞いていると思う。
ふむ、と思いながらジュースを飲んでいれば母さんがまた話し始めた。


「それにしても…大きくなっちゃって」

「母さんか」

「我が子同然でしょ、昔で記憶が止まってるんだからね。あの頃は本当、守る子だったのに…いつのまにあんな大きくなったんでしょ」

「そりゃ10年近く会ってなけりゃ、そうもなるでしょ」

「…あんたは、10年たってどうしてそんなにも大きさがかわらないのか…お母さん悲しい」

「私だってそれは悲しいんだからやめてほしいんだけれども」


気づくんじゃなかった、と思いながらため息をつく。
空になったコップを持ってドリンクバーのコーナーに行けば先程よりも近くなった彼らの声が鮮明に聞こえてきた。

確かに、10年もあれば人なんて変わるもんだ。
むしろ1年もあれば変わるものなのに、10年。
変わらないほうがおかしいってもんだと思う。


「…随分と真逆なもんだ」


ハッと嘲笑うようにもうひとつ、ため息を落とす。
オレンジのボタンを押してジュースをコップに入れながら、明日からの学校を考え、憂鬱だとばかりにまたため息。
これじゃ、幸せが逃げちゃうね。
別にいいけどさ。


そのままジュースの入ったコップを持って家族の待つ席に戻る。
嫌なことは考えないのが、一番いい。

ずっと見ていた視線など気づかずに、ジュースを飲んだ。





空のコップにジュースを注ぐ
(真逆とは、どれに対してなのか)
(…なんて、別に、答えなんてでなくていい)

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