人違いだったら、よかったのに。

入学して、まだ数週間。
でもそれだけの時間でも十分すぎるのか、もうクラスではグループが出来上がっていた。
ちなみに、私は、たぶん神門さんとセットでひとつのグループだと捉えられている。

神門さんは社交的な人だ。私と一緒にいることが多いけれど、結構誰とでも仲良くしている。
それに比べると私は社交的ではないだろう。いや、しようと思えばできるけどする気がない。強がりと取られたって構わない。世界は広くなくて、深くなくていいのだから。
このクラス内で関わる人なんて、神門さんぐらいなものだ。
真田君や、あの時のバンダナ君とはあれ以来そんなに関わっていない。合えば挨拶するくらいで、仲がいいとは言えない、知り合いレベル。

三成君と吉継君は除外する。
元喧嘩仲間なので廊下ですれ違えば誰にもバレないように睨み合い足を踏み合い転ばせ合う。なにしてんだお前らって感じである。それを見ながら吉継君はいつも笑っている。


さて、話を戻そう。
人違いだったらよかったのに。それは一体誰のことをさすかって、もちろん彼。長曾我部元親のことだ。

彼はたった数週間で、たくさんの人の中にいた。
クラスでは人気者だし、他のクラスからも人気者。野郎共とか言って引き連れてる姿をたまに見かける。
そんな、私の後ろに隠れてたり女子と仲良くお絵かきや楽器などをしていた頃の姿とあまりにも真逆すぎてちょっと涙が出そうである。
あの可愛さは一体どこに行ったの元親。別にその姿もいいとは思うけれど、幼き頃友達だったまま止まっている私としては中々に慣れづらい現実である。


「音無さん、給食だよ」

「…あれ、もうそんな時間」

「授業中も読んでたでしょ…先生に気づかれなくてよかったね」

「あー…だってあの先生授業脱線して全然違う無意味な話ししだすから…暇で、ね」

「まぁ確かに…面白くもないからね。本当に豆知識みたいなのをいろいろ出されても正直微妙だよねー」

「うん…。あ、給食貰いに行かないと」

「あ。早く行こうか」


私のクラスの給食のやり方は、端から並んで準々にもらっていくという方法。
初めにお盆を受け取って、それから端のご飯やパン、主食類を当番の人にもらいつつ汁、おかず、あればデザート、最後の最後に箸をもらうという順番だ。
まさか高校生にもなって給食だなんて、とは思うものの正直ここの給食はレベルが今までとは桁違いである。
本当に美味しい。
おかげで給食の時間は巻き起こる戦争である。題しておかわり戦争。そのまんま、おかわりを求めてじゃんけん大会が巻き起こるのだ。

まぁ、私は今のところ一度も混ざったことないんだけれどね。


「次の時間なんだっけー?」

「えと、体育だったような気がする」

「…どうせなら給食前に持ってきて…いやだめだ私の取り分が減る」

「どうせ残り物貰えるでしょうに」

「音無…お前はわかっていない…体育のあったあとの給食の残りが、どれほど悲惨なものなのかを…!!」

「残さず食べて貰えるということは給食作ってる人にも喜ばしいことである」

「まぁ、その通りなんだけどね。あ。ちょっと私達の分のお盆も取ってくれないー?」

「あ?」


さらっとした流れで私たちの前に並んでいた彼をパシリに使った神門さん。
神門さんが言うまで全くもって気にしていなかったけれど、言葉に釣られて相手をみれば…パシった相手は長曾我部元親こと、クラスの人気者であった。

長曾我部元親と目があって、数秒。
双方硬直しているのは果たしてなぜなのだろうか。いや、目を逸らすに逸らせないせいなんだけれどさ。

たぶん硬直していたのは数分にも満たないぐらいだったんだろうけれど、私達が見つめ合ってる(…なんかやだなこのいい方)意味もわからない神門さんが彼を急かしてくれたお陰でやっと目を逸らせた。
覚えて、いるんだろうか。
いやまさか。そんなわけがない。私が彼を覚えているのはある意味必然的だけれど(主に珍しい名前と目立つ容姿という意味で)彼が私を覚えているわけがない。
どこにでもいそうな見た目と名前だし。まぁ、そりゃ昔はちょっと逸脱していた感はあるけど落ち着いた今の私は本当に無個性の塊だ。いや、制服なせいもあるけれどさ。

渡されたお盆を受け取り礼を言う。

しばらく彼とは、目を合わせられそうもない。





深まる疑心とお盆の浅さ
(上っ面の疑心で十分だよ。だって結果が全てだから、さ)
(なにそれ?)
(さっきの小説に書いてあった)
(…音無さんってばなんの小説読んでるの一体…?)

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