同じ保健委員の子になぜか判子だけ渡されてひとりで行くことになってしまった音無です。

なんということだ。まさかのひとりだなんて。
今朝の迷子騒動で自分の方向音痴度を再認識したばかりなのにこれはないと思う。

ぽてぽてとひとり寂しく目的地がある教室に向かっていたはずなのに、人気のない廊下を歩く。
普段使われていないのか、それともただ単にまだ進級明けなだけなのか。薄暗く、しばらく人が寄り付かなかった独特の感じがする。
なんだろうこれ、遭難フラグなんだろうか?
え?まさかの学校内で遭難?山奥でもあるまいし?…泣けるから、それ。
お願いだ誰か、誰かひとりぐらい人がいてくれええ!涙目で祈りかけるも祈りが通じる気配がない。
あれ、これもしかしてサボった疑いかけられて評価下がるかな…?私だけならまだしも判子だけ置いていった子まで下がるのは…いや、元はといえばやつのせいだからいいか別に。むしろ下がれ。

呪いのような言葉を紡ぎながら、歩く。
本当にここはどこだろう。なんで上級生の教室に行く予定だったのに美術室とか特別教室ばかりが続くんだろう。そろそろ本格的に泣きそうだ。せめて職員室カムバック。


「うひー…ここどこ本当…せめて誰かいろよばーかばーか」

「そこでなにをしている」

「うわっ!」


半泣き状態だったけど、急に首根っこ掴まれたかと思えば、そのまま後ろに引っ張られ涙も引っ込んだ。
どうやら私の運はまだ尽きていなかったらしい。
こんな掴まれ方をするなんてどこの輩だと思いつつも、やっと人に出会えたと思い少し喜びにうち惹かれながら、私は振り向いた。

…一番最初に目に飛び込んできたのは、銀髪色の前衛的な前髪。


「…げっ」

「貴様…げとはなんだ。残滅してやろうか。」

「げとも言いたくなるに決まってんでしょ…なんでお前がここにいるよ三成君」

「どっかのクラスの馬鹿がこなくて委員会が進まないどころか始まらない。…貴様だと知っていれば私だって引き止めなかったむしろ来なかった」


嫌悪感丸出しでそう言い切れば、相手も嫌悪感丸出しで相対してくる。

石田三成君。
幼い頃の私の大嫌いな宿敵である。

これでも小学校ぶりなんだけれど、どうやら月日が経とうと人はかわらないらしい。あとその前衛的で特徴的すぎる前髪も。


「悪かったですね、この学校広すぎるんだよ」

「だから泣きながら助けを待っていたと?ハッ馬鹿が」

「泣いてねーよしかもちゃんと自分の足で歩いてたよ。お前の目は節穴か」

「なんだと…?貴様、助けてやったのに礼もなしか!残滅するぞ!」

「残滅残滅ってそれしかねーのかばーかばーか!ありがとうございましたねさぁさっさと保健委員の集まる教室に行ってくださいー!」

「教室…?そんなもの知るか!潰れろ!」

「ちょっと待てぇぇええええ!」


なぜか持ち歩いてる竹刀を恐ろしい速度で振りかざしてきたので即座にそれを避けながらツッコミを入れる。
おいちょっとまてこいつ、今「知・る・か☆」とか抜かしてきやがったぞ!むしろこいつも迷子じゃねーか!なにしにきたこいつ!助けどころか同じ迷子じゃねーか!

人の話も聞かずに次々と、昔にも増してまた早くなっているその太刀筋を死ぬ気で避ける。死ぬこの速度は。本気で死ぬ。
私は何度死亡フラグを立てれば気が済むんだろうと思いながら、ふと気になったことを聞いてみることにした。


「あれっ、っと、そういや家康君は?」


ふたりはいつもセットで、片時も離れないぐらいの仲の良さだったのに。
あの頃では考えられないような(…そうでもなかった気がするけど)一人行動をしている三成君に対し、聞いてみれば途端に止まる竹刀。
本当、一時停止をしたみたいに止まるからこっちも思わずそのままのポーズで立ち止まる。

…あ、なんだろう。墓穴掘ったかもしれない。


「家康、だぁ…?」

「…うん、ほら、いつも一緒にいたじゃな」

「いえやす…家康…いぃぃえぇええぇやぁぁあああすぅぅううううううなどぉぉおおおお!」

「う、うるさっ!?」


どこから出してるんだその声!と言わんばかりに雄叫びを上げる三成君。
思いっきりひと振りした竹刀からはなぜか突風が吹いた。

…こいつ、いつの間に人間やめてんだ。むしろこの学校に何人規格外の人間が存在すれば気が済むんだ。

そのまま、フシュー、と煙でも出しそうな勢いの(むしろ出してるように見える。なんだろうこの禍々しい気は。なぜ見える。怖い。)三成君に対し、完全に地雷だったことを知る。
事情は知らないけれど、きっと仲違いでもしたんだろう。
もともと家康君のことを信頼はしていてもうざいと思ってた三成君だ。きっかけはいくらでもあったんだろう。

とりあえず早く殺気をしまってください足が生まれたての小鹿ちゃん状態です。


「家康……家康など…血潮の海に溺れてしまえ…いや、私が血潮の海にしてやる…」

「あ、あぁ…うん…頑張って…なにがあったのか知らないけど…つかちしおってなに…?海…?」

「家康ぅ…家康…いぃぃえぇええやぁああああすぅぅうううううう!残滅してくれるぅぅうううううう!!」

「だからうるせーっつってんだろこの馬鹿野郎!」

「いやはや、うるせーのはぬしらよ。ぬしら。」


急に聞こえてきた第三者の声に振り向けば、そこにはなぜか中を浮いている人がいた。
…だから、ここには何人規格外が…マジック?マジックだよね?そうだよね??

三成君も気づいたのか、先ほどまでの禍々しい気がピタッと止まり浮いてる人にぎょうぶ!と声をかけている。
…ぎょうぶ?ぎょうぶさん?………?

ぎょうぶなんて友達は三成君にいたんだろうか…?
そう一人疑問に思っていても、ぎょうぶさんという人は特に気にかけず、やれやれと言わんばかりに話しかけてきた。


「三成…ぬしの声が学校中に響き渡っておる。それに、迷子を見つけたら早々に戻るように、という話であったろう…」

「刑部…すまない。私もこんな馬鹿が迷子だと知っていたら来る気などなかったのだが…」

「おいテメー失礼にも程があんだろうが」

「ヒッヒ、口調が崩れておるぞ、憐よ」

「やばっ……ってなんで私の名前…」

「…ふむ。やはり気づいておらなんだか…我は悲しいカナシイ」

「貴様ァ…刑部を忘れるとは何事だァ!残滅してやるぅ!!」


ぶおんぶおんとまた竹刀を振り回す三成君に理不尽しか感じない。
いや、だって誰よぎょうぶって。記憶にないよそんな人。私の友達は人間だけだったはずだ。こんな超人的な超能力を扱える友達はいなかったはずだ…。

でも相手が言うには、私と彼は知り合いな様子。
今の口調も昔の口調も知っているらしい彼を頑張って全ての記憶から引っ張り出すが、残念なことにどこにもヒットする検索結果が見つからなかった。


「…んー…失礼ながらちゃんとお名前を伺っても?生憎ぎょうぶさんという名前じゃ検索結果にヒットしなくて…」

「…そうよなァ、大谷吉継。そう言えば、ぬしにも伝わろう…?」

「………吉継…、え、え?…マジで?」

「ヒッヒッヒ、マジよマジ。久しぶりよなァ」

「えぇぇ…ちょっと三成君私悪くないよこれ!ぎょうぶって何さ!」

「刑部は刑部だ。それ以上でもそれ以下でもない!」

「そうじゃなくて…!もういいやこの馬鹿は放っておこう。それにしても吉継君…いつのまにそんな空中浮遊ができるようになったんだい…乗っていい?」

「それは秘密故、それと重量オーバーになるから乗せられぬ。三成ならば乗るのだがなァ」

「…それは私が重いとそう言いたいのか。OKわかったその喧嘩買った。潰す」

「刑部に手出しはさせん!」

「うっせうっせなんだこのひょろなりが!胸なら私のが勝ってんだかんな!!」

「私はまず男だ!」

「ヒィッヒィ!」


爆笑する吉継君と、喧嘩し始める私と三成君。

私たちのこの騒動は、保険医の先生がやってくるまで続いた…。




壮絶たる規格外
(私は迷子を見つけて、帰ってこいと言ったんですがねぇ…?)
(…すいませんこの馬鹿が)(申し訳ありませんこの馬鹿が)
(やめい二人共…なに、すまなんだ。)
(フフフフ…いいですよ別に。ただ、すこぉし仕置きが必要らしいですけどねぇ…?)
(…えちょっとなにあの大きいフォークとナイフちょっとなにこれねぇ三成く…っていねぇ!?)
(ぬしもはよ逃げるがよかろ。綺麗なままでいたいなら、なァ…)
(馬鹿はそのまま残滅されてしまえ!)
(なんなんだあいつら…!こーろーべ!こーろーべ!!)
(…どうやら本格的に仕置きが必要なようですねぇ…!いいでしょう!さぁ、遊びましょう!!)

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