とりあえず、あちらが何かアクションをおこしてこない限りは知らないふりを続けることにした。
こっちばかり考えても意味ないしね、本当に忘れてたとしたら万々歳。一から交友関係を作り出せばいい。

満足げに拳を握り、家を出たのが午前7時。
学校につくには、十分な時間であった。



▽△



そして、今、7時50分過ぎ。

私は、絶賛迷子だった。


「…遅刻ルートだわ、こりゃ」


携帯を開き時間を確認しながら、もう一度自分の居場所を頭の中で確認する。
道は間違っていない。…はずだ。はずだった。

いや、間違っているから今こんなことになってんだろ。っていうツッコミはしないでほしい。わかってる、わかってるんだからそんなことは…。

昔からそうなんだけど、これだから場所が変わるというのはいただけない。
幼稚園から小学校に変わったときは、ちゃんと自分で歩いて行かないといけなかったから戸惑った思い出がある。
でも、そのときは兄さんと一緒にいったし、近所に住んでたお姉さんとも一緒に行ったから迷いはしなかった。
兄さんが卒業しちゃう頃には、一緒に行く友達だっていたし。
中学校に上がる頃は、近所だった友達と行ったからどうにかいけた。
それでも、ギリギリだったけれど。
で、今は高校なわけなんだけど、近所の友達とは違う高校だから一緒にはいけない。
というか友達にこの高校を受ける子はいなかった。悲しいことにね。

…うん、だからなんだ、って話しだけど、つまりは私はある意味はじめての一人登校なわけでして…。


「…せめて兄さんについてきてもらうべきだったか…いや、そんな恥ずかしい…登校一日目で遅刻よりは恥ずかしくなかった気がするけど…」


あー…どうしよう。
ちょっと滲んできた視界でもう一度携帯を確認する。
時間は、7時55分。
HRが始まる時間は、8時10分。

間に合うわけがない。


「せめて同じ制服の子見つけないと…この際先輩とか…ってこんな時間に登校してる人なんているわけな」

「うおぉぉおおお急がんか佐助ぇえ!」


突然聞こえてきた、叫び声にも近い声を背に受ける。
は?と思いながら振り向けば、まるで猪のように走ってくる赤いハチマキが特徴的な男子生徒だった。

…あれ、どっかで見覚えがあるような…。


「あーもー!だから行ったでしょ遅刻するって!!」

「仕方あるまい!お館様との日課を欠かすわけには…!」

「こっち向かなくていいから前見る前!すっ転ぶよ!?」

「うおぉぉぉおおおおお館様ぁぁああああ!!!」


なぜか塀の上を全力疾走している、バンダナをつけたオレンジ色の髪の男子生徒と、真っ赤なハチマキをつけて猪のように…けれど叫びながら両の手を空高くあげ、なぜか真上を見ながら走ってくる男子生徒。

ただの学ランだから全くわからないけれど、たぶん方向的に婆裟羅高校の人だと…思う。違くても、道を聞くくらいできるだろうか?…無理そうだけど。
でもそこは私も死活問題の真っ只中。当たって砕けろ精神で声をかけるさ!

走ってくる男子生徒にこちらも腰を低くし、戦闘態勢に入る。
いや、殴りかかるわけじゃないんだけれど、一瞬でも反応が遅れれば彼はさっさと走り去ってしまうに違いない。


今まで使っていなかった全運動神経と反射神経を集中させ(本当にできてるかは不明だけど)彼を止める勢いで声をかけた。


「あの!道を教え…って、え、ちょっ、」

「お館さばあああああああああ!!」


腕を掴んで止めた、つもり、だった。
すっ転ぶ勢いでこちらに引き止めるように力を入れたはずの足が、浮く。
叫んでいて気づいていない彼の腕を掴む手のひらに力が入る。

…いやいやまさか、ただの人間が走るだけの力に、そんな力が、ある、わけが…!


「時間ギリギリそうだね…って旦那ァ!?何つれてんの!?」

「うぬ?何をつれてると?いや、某は何も動物は連れてきていないが…」

「ち、ちがくて!」


バンダナのお兄さんが気づいたのか、慌てた声が聞こえる。
生憎表情を見る余裕はない。正直、そちらに耳を傾ける余裕さえもない。

こんな会話をしていても、浮きっぱなしの足が地面に近づくことはない。
思いっきり回されたカイセントウに片手でくっついてる状態みたいだ…!手を放したら死ぬ!絶対死ぬこれ!
手汗ですべりそうになる片手にさらに力をいれ、恐怖で固まるもう片方の腕を遠心力から逆らい、本当に無理矢理男子生徒の肩に乗せる。

やっとここで気づいたらしいハチマキをつけた男子生徒は、振り向き私を見たらしいあとに、止まる…


「う、うおぉぉおおおおああああ破廉恥いぃいぃいいぃいいいい!!!!」

「だ、旦那ァァアアアア!?」


…どころか更に速度を増しやがったですこんちきしょおおおおおお!!

本当に手を放したらこれ完全に死ぬだろうと思い、涙がこぼれてきそうになったけれど風でむしろ瞳は乾いていた。
バンダナオレンジ髪男子が止めようと必死になっておってくるけれど、ハチマキ野郎は聞く耳を持たずに、私を振り払うかのように全力疾走で走り続ける。

これが、登校時間でもなんでもなくてよかった。

もし登校時間であって、目撃者がいたならば、車並に早い速度で走る男子生徒にくっついてる、表すならばカイセントウで吹っ飛ばされそうになっている女子生徒として噂になっていたであろう未来を予想して寒気がした。
嫌だ高校生活の幕開けがそんなのなんて。
いや、噂にならずとも現実でなってるこんな幕開けも本当望んでいなかったけれど。



それから学校につくまで私は死の恐怖に晒されつつ、破廉恥だなんだと叫んでいた男子生徒は学校で先回りされていたバンダナ男子生徒に無理矢理止められ怒られていた。
もう恐怖やら驚愕やらでごっちゃになった私にバンダナ君は謝ってくれたけれど、もう、笑う意外の反応ができなかったのはしょうがないと思った。





高校生活幕開けは死亡フラグから
(本っっっ当にごめんね…あーあ髪もボサボサになっちゃって…)
(いえもうなんだかもうあはははあはごめんなさいこちらこそあはは…)
(申し訳ござらぬうぅぅうう!某、慌てていたとは言え、おなごをこのように扱うなど…!)
(あはははははははは大丈夫だったからいいのよあははは)
(だ、大丈夫!?本当、本当ごめんね!?保健室行く!?)
(大丈夫でっす大丈夫、そう、私は大丈夫新世界の神になる!)
(ちょ、戻ってきてええええごめんね本当おおお!!)



‐‐‐‐‐
今の子って、カイセントウ知ってるんですかね…?
撤去されてしまったから、知らなそうですよね…あと四人乗りブランコとか…。

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