「にょおん」


ブシャッと飛び散る血飛沫の中、一つの“生”が消えたと同時に現れた“生”。

あまりにも急すぎて思わずそれに一太刀入れて殺してしまったが、よくよく見ればただの猫。
よくもこんな人だらけ死体だらけの戦場へと赴く気になったものだ、と思いながらもう一度その猫に刃を突き立てる。ああ、やはりただの猫だ。


「…刑部が、黒猫は不吉の証と…そう、言っていた」


敵に不幸を降らせるのはいいが、秀吉様に不幸など降らせてはいけない。
秀吉様に不幸を降り注ぐ無礼者など殺せばいいだけなのだ。


ずるりと猫から刃を引き抜くのと、空が光ったのは同時だった。




ひとなきねこ
(、アァ…)
(殺しては、いけなかったのですね)
(申し訳ありません、秀吉、さま…!)