わたしは、元親君が好きです。

唐突でもなんでもなくこれはわたしが元親君に恋をしたときから、ずっとずっとずっと持っている言葉。
なんどもなんども彼に告げるため手紙を書いた。そしてなんどもなんどもその手紙はゴミ箱へ没シュートされていった。

わたしは、元親君が好きです。

呼び出して告白とか、むしろ廊下で呼び止めて告白とか、したいと思う。この気持ちを伝えたい伝えたい伝えたい。
でもさすがに廊下で告白する勇気も、呼び出して告白してOKがもらえるほどの友情も、持ち合わせていないからしないんだけれど。

わたしは、元親君が、好きです。

なんで元親君に惚れたかって、あれは確か、高校に入ってすぐのこと。
わたしが道に迷ってしまったところを、見つけて、助けてくれた。
うん。ただこれだけ。
単純でもなんでもいい。あのときの優しさと、あのときの元親君の暖かさやら明るさやら、言葉に表せられないものにも凄く凄く愛おしくなった。

わたし、は、元親君、が、好きです。

まずはクラスを知って名前を知って出席番号を知って席を知って授業態度を知って友達を知って部活を知って嫌いな人を知って好きなものを知って嫌いなことも知って。
本人とはあれから、少しだけ、ほんとうに少しだけ、挨拶程度はすれ違うと交わしたりする程度の仲になっていたの。
それじゃ、足りない。もっと。もっと。もっと、お願いだから、仲良くしてわたしと関わって。
…なんて、なんて傲慢なんでしょう。でも仕方ないわ、恋をしちゃったんだから。思うだけで言ってもいなければ、それに向けて努力なんてものもしてない。
元親君のことはとにかく知りたくて知りたくて知りたくてたまらなかったから、調べるだけ調べ上げちゃったけれど。
でも、ただ、それだけ。

わたし。は、もと親君。が、好きです。

仲に入りたい、だなんて思わない。
みんなと一緒のその仲に、入りたいとは思わない。
けれど、元親君。あなたの仲には、わたしは、入りたいんです。
みんなと、はいらないから。
だから、元親君との仲に入れて、ください。

わた、しは、元、ちかくん、が、好き。です。

すき、なんです。

わたしは、もとちかくんが。

すごく、すきなんです。


「…すき、です。」


夕日の照らす窓ガラスに向かって、仲間と一緒に帰っていく背に向けて。
とどけ、とどけと思いながら届ける気なんてない自分の行動に呆れが出てくる。


「すき。すきです。もとちかくん。だいすき。すき。すき、」


この言葉を貴方に届ければ受け取ってくれますか受け取ってはくれないでしょうねモテたぜやったね程度で優越感を味わいつつ罪悪感も味わいすまなそうに断るんですよね知ってますよあなたがわたしのことなんか恋慕の意味では気にかけていないこともわたしが恋慕の意味でしたっていることに気づいていながら気づいていないふりをするのも貴方は今この時間が大切なことも友達と過ごす今が好きなこともそこに異物はいらないことも仲間以外実は拒絶していることもぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ。

なぜって、だって、すきだから。


「もとちかくん、」


ひとをころせば、わたしもそこにはいれますか?




人喰い鬼に恋をした
(知ったからこそ、泣きたくなった)
(彼の宝物に、わたしは、入ってなんかいない)