怖いか、と、問われたら、そうでもないと思う。

ぐしゃりぐちゅり。粘っこいような水分を含んだ肉の音を響かせながら、ぼたぼたと滴り落ちる液体に視線を動かす。液体。液体。血液。液体。
ぼたぼたぼとぼとよ堕ちゆくその赤く鉄臭い血液を目で追いながら、今この状況をもう一度思い出してみる。

学校帰り、ちょっと暗くなった、それでもまだ明るい夕方の時間。
時間のせいでちょっとばかり人気が少ない、それでも一般的に普通に使われる道路のど真ん中で、自体は起きていた。

がつがつと、決して上品とは言えない喰らい方で辺りに血を撒き散らしながら食べるこの男は本当に人間か。いや、一応人間であろう。足はある。幽霊ではない、と、思う。ではこの男はなにか。別に、そういった行為に否定感があるわけではない。喰えるものを喰って、なにが悪いのか。でも実際こうやってみると、あまり美味しそうには見えない。というか、血液とやらをある程度飲むと人間は死に至るのだけれど、あの男は大丈夫なのだろうか?血抜きをするどころか、生のままかじりついているではないか。むしろ生肉は危険だと思うんだけどな。
そんな、この現場に似合わないような感想を抱いていると、がぶり、とその先程まで鼓動を打っていた、人間として一番大事な場所を喰らいつくした男がやっと『喰らう』以外の反応を示した。
ゆったりと、ゆっくりと、咀嚼しながら、それを喉を通し胃へ送り込みながら、こちらを向く。

あら、イケメンだこと。

思わずそう口に出せば、男は、その整った表情を綺麗に歪めながら、への字に曲がっていた口角をスッと、流れる動作で上げて、嬉しそうに、楽しそうに、笑いながら


こちらに、飛んできた。




そうしてぼくらは咀嚼を繰り返す
(ざくり)
(私の腹に刺さった腕と、私の持っていたハサミが男の腹に刺さるのと。)
(果たして、どちらの音だったのか)
(まぁ、そんなことは、どうでもいい)

(さて―――――いただきます)