取り返したらまた、笑えるかな? (20/31)





かすがが抜け忍となった報告を父ちゃんから聞いて3日。とくにかすがに会うこともなく、何も変わらない日常だった。俺様も別にかすがに会いに行こうなんて思わなかった。実のところ、どうでもいいと思い始めていたからだ。こんな俺様を人は薄情な人間だというだろうがなんてことはない、その通りのことなのだ。俺の世界は今まで父ちゃんとかすがでできていた。それが父ちゃんだけになった話なのだから。あ、でもまぁ父ちゃんの次くらいに真田家の皆様だ。言っちゃ悪いが若様より昌幸様のが優先している。まぁ、父ちゃんが守らなきゃいけない人だし立場的にも大事な人だから、という仕事観念も入ってるのだが。

少しだけ小さくなった俺の世界。
だけど別に、困りはしない。
もとより小さかったのだから。


「さすけー!さすけどこだー!!」

「はいはいさすけはここでございますよー若様。」


どうせ、時間とともにまた世界は広がるのだから。



▽△



昌幸様から任せられた任務のため木の上を飛ぶ飛ぶ飛ぶ。確か今日の任務は偵察だっけ。そんなことを考えながら飛ぶ飛ぶ飛ぶと…


「あ」


足を踏み外して、下に落ちるのがわかる。わかる、というかわかった。思いっきり尻餅ついた。うわぁ木から落ちるとか懐かしい。久しぶりすぎて痛い。

ケツを撫でながら立ち上がる。いてて…、足踏み外すとか俺様なんてヘマしてるんだろ…誰もいなかったからよかったものの何これ恥ずかしい。
いてー、と言いながら体に異常がないか確認していく。うん。どうやら大丈夫なようだ。知らぬうちに受身をとったんだろう。確認が終わると同時に小さく溜息をつく。嫌なことに気づいてしまった。俺は以外にも、へこんでいるらしい。


「あーもー本当、疲れたー」

「…」

「誰にも見られてなかったからよかったけどさー、なにあれ普通に恥ずかしいよね」

「…」

「も、本当帰ろうかな…なんか今日だめだ。俺本当にだめだ。」

「…」

「………ごめん、さすがに無理。スルーできない。
 …さい君、もしかして今の、見てた?」

「(こくり)」

「…まじでかー、超まじでかー。本当なにまた恥ずかしくなってきた。見られただけじゃなくさい君がいるのに気づかないで独り言とか超恥ずかしい。さい君もさい君でせめて心配してくれれば…いや、やっぱ羞恥心がはんぱなくなるよ。うん。」


俺様が恥ずかしさで塞ぎ込めば、さい君は近くにきて頭を撫でてくれる。何この子超いい子…!と俺様が思ったのは仕方ないことだと思った。


「もうなにさい君癒し?癒しなの?癒しの精霊?末っ子心が疼くんだけど」

「(なでなで…)」

「なにさい君俺様を癒しで殺す気?殺す気なんでしょ。もうでも俺様癒しで死ねるなら本望よ!!」


もう自分が何を言っているかもわからないままさい君に頭を撫でられる。そういや今更なんだがさい君背高いなー、俺様も結構高い方なんだけど俺様より頭一つ分くらい大きいや。かすがもいたら大中小全部揃ったのに。

そこでまた気づく。ああもうかすがは他人なのに、まだ思考に出てくるのか。それほどかすがは大きな存在だったのか。わかりきっていた結果なのにやはり心のどこかでは落胆していて、それを解決するには代わりか時間が必要なこともわかっていた。だって、こっちの世界にきたとき、当たり前だが親友がいないことに落ち込んでいたのだ。理解と納得は違うんだと改めて思い知らされたような、そんな心情。俺は親友に依存していた。認める。今は親友とはまた違う依存をかすがにしていた。それだけ。そう、それだけだったのだ。簡単なことだ。また代わりを見つければいいのだから。逆に言えば、代わりとなる人がいるということだ。親友じゃなきゃ嫌だとかいう精神だったらどうしようと思ったがそれはかすがで証明されている通り大丈夫らしい。

ああ、ちなみに父ちゃんは父ちゃんでかすが以上の依存をしているからな?結構前世じゃ家族仲は良好だったんだぜ?父ちゃんは本当の家族としてもう見てるんで。つまり父ちゃんに一番依存してるかな、みたいな?


いまだ俺様の頭を撫でてるさい君を見てみる。彼は俺様が誰だか気づいているだろうに、何も言わず無言で頭を撫でてる。ねぇさい君、俺前と違って村人っぽくしてないよ?木の上だって移動してたよ?ねぇさい君さい君。

なんできみ、前会ったときと違ってぼろぼろなのさ。

言いたいことはたくさんあった。けど、とりあえず今は、今だけは、俺と、さい君の心を落ち着けるため、2人で無言で、されるがまま、するがままに、なっていた。



取り返したらまた、笑えるかな?
(笑えるわけがない)
(そんなの)
(とっくにわかってるんだ)