どっちが子供かわかりません (16/31)





結局かすがの説得は無理で、俺が里と城を行き来する形でことが収まってしまった。なんてこったい。方向音痴なめんなよばかやろーめが。

さて、まぁこれはちょっと置いといて。
今日で十日目なもんで、俺様はただいま息子さんを待ってる最中でありますれば。


「へい父ちゃん。遅いねぃ」

「楽しみで夜眠れなかったんだとか」

「どこの遠足前の小学生だ」


昌幸様(こう呼べって言われた)じゃないと起きないらしく、ただいま俺と父ちゃんは放置プレイされておりまする。やべぇこの口調ちょっと楽しくなってきたぞ!

俺が若干テンション上がり気味で(あくまで内心だけである。表向きはちゃんとポーカーフェイスだぜい!)正座して待ってると、やっと来たのかパタパタと子供特有の走り方…ではなく。まるで猪が森の中で走り回っているような、効果音にするとズドドドドドドドドド!!って絶対背後についているような音が聞こえてくる。あれ?昌幸様が走ってるのか?いや、確実に息子さんだろうな。そうかぁこの時から猪突猛進だったんだな。もう俺様のおばかちん☆

と、軽く現実逃避に走っていると開いている襖の向こう側で何かが走り去っていった。きっと、いや絶対息子さんなんだろうなぁと思いつつ襖をガン見していると、バタバタと目の前を昌幸様が走っていった。バタバタなんて言ったけどもっと早かった。ズダダダッ!って感じだった。真田家ぱねぇぞおい。

軽く引いてるとパタパタと音をたて、あの2人が戻ってきた。


「すまぬな、少し手間取ってしまった」

「ちちうえ!おろしてくだされ!みえぬでござる!!」


昌幸様が子供を肩に担いでくる。子供はドタバタと肩の上で暴れているが慣れているようで、昌幸様は微動だにしなかった。

そんな2人を内心苦笑気味で見ていれば、昌幸様がこちらを向く。正確に言えば俺の隣に座る父ちゃんの方を見たのだが、


「おい佐助、お前弁丸にお八つ時以外でお八つをやるなと申しただろう」

「え、なんのこと?俺やってないよ?」

「寝具の中に串が落ちていた。お前ではないのか?」

「知らない知らない、だって俺昨日は弁丸様に会ってないし」

「ふむ…なら一体誰が……」

「いや、つか無実の罪を着せられそうになった俺に謝ろうか!?」

「普段の行いが悪い」


それからお前ら本当に大人か、偉い人間なのかと思われるほど幼稚な口喧嘩がぼっぱつした。俺はどうしたらいいかわからず放り投げられた子供を見れば、その子供は俺のことを超ガン見していた。大人達に視線を向ければ取っ組み合いの喧嘩をしていた。俺は大人を放っておいて息子さんとの挨拶をさっさと済ませる方針にでることにした。いやだってあんなのに付き合ってらんない。


「お初にお目にかかります、『さすけ』と申します。」


ここでは、『さすけ』と名乗ることになっていた。というか最初は有無のまんまの予定だったのだが俺が拒否ったのだ。いやだって男の子にも女の子にもいそうな名前だし、しかもそれ平成の名前だから結構あれだぜ?時代的に変な名前って言われても全然おかしくないんだぜ?やだよそんな変な注目浴びるの。そんなわけで次期猿飛佐助な俺様は佐助と呼ばれるのにも慣れておかなくてはならないとかそんな一著前に聞こえる屁理屈のようなものを最後に無理矢理括りつけ『さすけ』と名乗ることにしていた。あの時の父ちゃんのしょぼくれた顔は今でも覚えておりまする。


「弁は弁丸ともうすでござる!そなたが弁のしのびでござらるか?」


他に一体誰の忍なんだ


「はい、そうですよ若様」

「おおお…!」


目の前の子供の顔がとたんにキラキラしていく。というかキラキラしすぎじゃないだろうかこれ?あれちょっとまって目の中に宇宙が見える気がするこれ!
軽くてんぱりながら父ちゃん達に視線を移せば、なぜか2人共武器を持って喧嘩というか殺し合いみたいなことをしていた。よく見たら父ちゃんは若干涙目だ!昌幸様は笑っているが真っ黒な笑みだ!俺は危険だとすぐにわかり若様を抱っこし、庭の木に飛び移った。飛び移った瞬間俺のいた場所に苦無と剣で斬ったような痕がついていた。やべぇよ超危ねえ…!


「うわあああお前の母ちゃんでーべーそー!」

「母上はでべそではない!お前の母ちゃんのがでべそだろう!」

「お前俺の母ちゃん見たことあんのかああ!なんでわかったし!」


まるでコントのような口喧嘩をしている2人を尻目に、俺は木の上ではしゃぐ若様を止めるのに精一杯だった。



どっちが子供かわかりません
(つか父ちゃんの母ちゃんでべそなんだ…)
(でべそってなんでござるか?)
(へそがでてることですよー、覚えなくていいですからねー)