かおあわせ (14/31)





真田昌幸様。それがこれから会う人の名だと父ちゃんは言った。
「無礼がないようにしろよ」そう言ったのも父ちゃんなのだが、その真田昌幸の部屋についたとたん襖を力の限り開けて「昌幸ー!息子連れてきたぜー!」と叫んだときはぶん殴ろうかと思ったが寸でのところでとどまった。俺様偉い。

そしてただいま、真田昌幸様にご挨拶中である。


「はじめまして猿飛佐助が息子、有無です」

「ふむ…ぬしが。表をあげよ。」


言葉に従い頭を上げる。どうやら挨拶はまじめにやるようだ。ちなみに父ちゃんは後ろで沈んでいる。目の前の人に沈められた。おい父ちゃんそれ父ちゃんとしてどうなんだと思ったのはしかたないと思う。


「…どうやらあの馬鹿が育てたわりには優秀なようだ」

「ちょっと昌幸!?馬鹿ってねーんじゃねぇの馬鹿ってさぁ!」

「お前なんぞ馬鹿で十分だろう馬鹿」


酷い!と嘆いてる父ちゃんを尻目に目の前の真田昌幸はけらけらと笑っていた。なんか同級生同士が休み時間雑談しているみたいだ、きっとそれくらい仲が良いんだろう。

もしかして彼は、父ちゃんのことを知っているのかもしれないなぁ。
そんなことを考えながらボーッとしていれば目の前の彼に声をかけられた


「聞いてはおるだろうが、御主には弁丸の忍になってもらいたい。」

「はい」

「だが、某が御主に任務を与えることもある。いいか?」

「御意」

「…質問等はあるか?」

「……ひとつだけ。」

「申してみよ」

「今日からでしょうか、それは。」


聞かされてなかった。いつから弁丸の忍としてここですごすのか。今日今すぐだったら適当な理由をつけまくって1回里に戻る気だった。じゃないとかすがに怒られる。

俺が答えをまっていれば、昌幸様は少し固まった後父ちゃんをにらみ、そしてまた俺に向き合った


「すまぬ、こやつに言っておいたのにどうやら伝わってなかったようだな」

「いえ、私もその可能性に気づき忘れていたので。不躾な質問すいませんでした。」

「いや、いい。…今日は一応顔あわせだけで、正式に雇うのは十日後だ。」


十日後。そうか十日後、なのか。かすがに怒られるかな。泣かれるかな。それともなんとも思われないかな。まぁどうでもいいかもな。でも、そうか。十日後か。うん、うん。よし。大丈夫。覚えた。

後ろでごめん!とか酷い!とか叫んでる父ちゃんは、始終無視した。



かおあわせ
(では、また十日後)
(はい。父がご迷惑おかけして誠すいません)
(有無酷い!)