親はどんな姿だろうと親なんだ (11/31)





今日も人を殺した。というか最近こればっかりだなぁ、かすがも凄く辛そうだ。
朝起きて、簡単な修行をして、丁度いい時間になったら近場で起きている戦を見せられ、そこから何人か連れてきたりして、俺等に殺させる。
連れてくる人間は様々、死にかけの武士だったりただの町人だったり老人だったり女性だったり小さな子供だったり。赤ん坊は場合によって持って帰ったりするんだって。忍にするらしい。ご愁傷様。

さて、そんな状況でかすがはとうとう嫌がってしまった。嫌がったら、ご飯抜きなのに。まぁ人を殺した後ご飯を渡されても食欲などわかないのだが。


「かすが、」

「嫌だ!もう肉を切る感触も血の臭いも全部嫌だ!」

「ご飯食べれないよ?」

「有無は平気なのか?ご飯のためなら、なんでもできるのか…?」

「ご飯食べないと死んじゃうし、餓死はきつい」

「……でも、私は、もう、嫌だ。」

「………」

「有無は、嫌じゃないのか?」

「…さぁ?まぁ、とりあえずかすがはここにいていいよ。今日は体調が悪いって言っておくから。」

「っ……行く、のか…?」

「ああ、まぁ。ご飯欲しいし。」

「……………」

「…今日はゆっくり休みな、修行終わったら戻ってくるから。」

「……………」


かすがからの返事はない。まぁ、しょうがないだろう。さて、今の会話は全部聞かれているだろうから何を言っても無駄だろうが、一応言っておこうと思う。たぶんご飯俺の分しかもらえないだろうけど、かすがにまわせばいいし。俺は何食おうかなぁ…、木の実取りに行きたいけど里から出られないし、諦めるか。

頭の隅で悲鳴が聞こえた気がしたけど、無視をして修行場所に行った。



△▽



「有無」


夜寝付けなくて、外に出て星を見ていれば父ちゃんがやってきた。また急にやってきたなぁと思いながらも寝っ転がっていた姿勢から上半身だけを起こし、父ちゃんの方を向いた


「どうしたのさ、この間きたばっかじゃん。よくこれたね?」

「仕事帰りだ。会いたくて寄り道してきた。」


おいおい忍がそれでいいのか。俺がそう思っているのに気づいたのか「こんなときじゃないと会えないだろ?」と呆気からんとした様子でいいよった。こんの親ばかめ!


「会いにきただけ?」

「まぁなー、一応近辺報告は聞いたし。」

「あっそ」

「かすがに飯まわしたことも知ってるぞ」

「きゃー!ストーカー!えっち!」

「お前気持ち悪いぞ」

「深夜テンションなんでスルーしてください。」


あと、ここのところ息抜きなんてできなかったんで今くらいハメ外させてください。お前にしか英語で会話できんのよ。ただでさえ鬼の子なのにこれ以上酷い噂増やしてどうするのさ。一応俺が転生者とか知ってるのお前だけなんよ?つーか第一お前以外に話す気もないんだけれど。

過去は過去、現在は現在。
割り切らないとやってらんないね、戦国時代なんざ。

俺がきっと凄く冷めた表情でそういえば、父ちゃんはいきなり抱っこしてくる。なんだろうと思ったけど、おとなしくしておいた。


「なぁ、父ちゃんにひとつ聞きたいんだけど」

「んー?」

「父ちゃんは、なんで逃げようと思わなかったんだ?」


逃げようと思わなかった、なんていってみたけどこいつはきっと逃げたかっただろう。平成人じゃ100人中99人は絶対逃げたいと思うはずだ。戦国時代にもともとすんでいる子達でも辛いのに、あの平和な世界を知っている平成人に限ってこの状況が辛くないだなんていえないだろう。

俺が空を見上げたまま言えば、父ちゃんはぽつりぽつりと話始めた


「俺だって、最初は怖くて逃げたくてしかたなかったさ」

「でも、しょうがないって割り切ったんだよ」

「結局俺も拾われた身でさ、先代にはお世話になったもんだ」

「怖くて何度も泣いた。何度も先代を困らせた」

「でも、それでいいんだって。」

「心を殺せだなんて言ってるけど、殺さなくていいんだって」

「なにも自分から壊れなくても、もう周りは壊れているんだから自分だけ正常でいればいいって」

「情けとかは捨てなきゃならないけど、とっておけるもんはとっておけ。」

「そう、先代は言ってた。」

「だから俺は逃げなかったし、壊れなかったし狂わなかった」

「先代がいたから今の俺が有るんだ」


淡々と語る父ちゃんの表情は見れなかった。見たくなかった、だけかもしれない。そうか、やっぱこいつもそうだったんだよな。なら別に総合年齢が成人している俺だって、そうなっていいわけだよな。先代に全てを吐き出しても、いいわけだよな?


「そうか、そうだよな。うん、なんか俺整理ついたかも」

「そうか」

「今子供だし、そうだよな、なにしてもいいんだよな」

「そうだな」

「過去と現在は割り切らなくてもいいんだよな」

「そうだな」

「俺は、『俺』でいていいんだよな」

「そうだな」

「…うん、OK。大丈夫。もう、大丈夫」

「そうか」

「さて、落ち着いたら眠くなってきた俺様から父ちゃんに質問です」

「なんだ?」

「父ちゃんの、本名――前世での名前はなんですか。」

「………お前が一人前になったら、教えてやるよ」

「もう俺一人前だろ、分身できるし」

「変化の術はできてねぇだろ」

「あれ前例ねぇじゃん!?どうしろっつーんだよ!?」

「俺が教える」

「父ちゃん、本職は?」

「事情話て休暇もぎ取ってきてんだ」

「給料いいん?」

「いい、いい。お前等と一緒にいる方が断然いい。」

「…照れるじゃねーか」

「第一かすがと一緒にいたいしな」

「照れた俺が馬鹿だった」


このやろー、感動返せ!と襲い掛かればうわぁとか言いながら相手をしてくれる父ちゃん。明日、朝きついかもな。と小さく笑いながら俺は父ちゃんと夜な夜な遊びまくった。



親はどんな姿だろうと親なんだ
(たとえ血がつながっていなかろうと)
(俺は息子でかすがは娘で)
(父ちゃんは、父ちゃんなんだ)
(ここでの、たった一つの家族なんだ)
(…なにこれはずい)