他人事だけど自分事 (9/31)





しばらくいなかったはずの父ちゃんが、急にやってきた。
どうやら俺が新しいステップに進むのを聞いて心配でやってきたらしい。あ、ちなみにかすがも一緒だ。

でも俺その新しい修行知らない。と言ったらなんか悲しい顔で嫌にでもすぐわかるよ。と言ってきた。なにその言い方、酷く嫌な予感しかしないんだけど。




で、その次のステップとやらがこれまた酷い。遠いところから戦を見せられるってやつでしてね?
いやいやいやなにこれ鉄の匂いが酷い!モロ死体見たの二度目だけど血と泥の臭い混じって酷いどころの話じゃない!ぶっちゃけ前世の母の趣味で惨殺死体とかは液晶越しに何度か見たことあるけど、それでも臭いまではしないわけだからこんな胃の中を全部吐き出したくなるような気持ち悪さに襲われることなんて今まで一度もなかった。当たり前なんだけどね。案の定かすがはすぐ吐いてたし。俺は現実を受け入れられない、っていうかいろいろ情報が処理しきれてないキャパ超えた頭でとにかくこみ上げる異物感を押さえつつ現実を否定していた。怖いなんてもんじゃない、恐怖というたった二文字で収まるようなものでもない。ああもうわけわかんない。なんか凄く液晶越しの何かにしか見えない。ああもう液晶越しの何かでいいじゃないか、ここはゲームの世界なんだし。全部偽者、リセットボタンが効くんだ。何度でも何度でも何度でも、セーブした地点に戻れるし、間違っても「最初から」のボタンがある。そうだ、そうだよこれは本物じゃないんだ!

だからもし戦が終わった後、適当な人間を渡されて「殺せ」と命令されて、この手で殺したとしても。

これは人間なんかじゃなく、NPCだからいくらでも変えが効くんだよ。


心の中で勝手に論理付けていたら、気づいたのか父ちゃんに頭殴られて「現実だ」って言われたけど、理解できても納得がいかないように、わかっていても受け入れられなかった。



他人事だけど自分事
(もう少しだけ待ってくれよ)
(もう少し、余裕ができたら)
(きっと受け入れられるから)