小ネタ 2 | ナノ

BSR/果たしてその存在は本物であるか
2016/07/05 21:32(0)

※昔書いてたものをサルベージしてまとめただけ
※未完
※名前固定=真田信之



(設定)
!真田幸村兄主
!成り代わり
!オリキャラ
!腐向け表現
!獣化
!幼児化
!嫌われ
!其他もろもろなんでも有り



名前:真田 信之
(変換前:さなだ のぶゆき)

性別:男
容姿:幸村に似ている
性格:礼儀正しく義に熱い。だか冷酷で非情な面もある。少々楽観的。静かに燃えるタイプ。
属性:炎
武器:槍
補足:智に長ける者。結構好戦的。ちょっとギャップ激しいときがある。

→真田幸村
我武者羅ではあるが、真っ直ぐで真面目なため文武共に怠ることはない。案外常識人でツッコミ役に廻ることもしばしば。


(1)
 しろい世界で、そのやり取りは行われていた―

「…ほんとうに、連れていってくれるの?」
 ―嗚呼。連れて行くに値して、三つほど願いを叶えよう。
「みっつ…」
 ―願いを増やす、などは認めない。きっかり三つだけだ。
「………なんでも、って言ったわよね…?本当に、なんでもいいの?」
 ―嗚呼。
「…!じゃあ、それじゃあ!お願いがあるの!わたし、愛されたい!」
 ―いいだろう。あと、二つは?
「もう一つは、彼に…    に成りたい!」
 ―? その姿で、みんなに愛されたいのか?
「そう!わたし、好きなの!」
 ―そうか。いいだろう。では、最後は?
「さいご…そう、だなぁ…ううん…思いつかないなぁ…」
 ―…ふうむ。では、こういうのはどうかな…?
「え…?………へぇ、いいじゃない。決めた、それにする」
 ―そうか。では、全て決まったな…。
「…行く、の?」
 ―嗚呼。…楽しんでくるといい。
「…! うん!」

 しろい世界は、瞬くような光を放ち、とても目を開いていられるような状況ではなかった。
 キラキラと光ったあと、ゆっくりと、眠るように消えていった光の中には――もう誰も、存在しなかった。


渦巻いた夢遊へ
(―好きなだけ、楽しんでくるといい)


(2)
 チュンチュンと、鳥の鳴き声がした。
 朝日も上り、絶好の鍛錬日と言えるだろう。雲一つない空は、晴天と言うに相応しい青空だった。

「…それにしても、珍しい。このように日が昇っても幸村の雄叫び一つ聞こえてこぬなど…」

 普段ならば朝日が顔を出した瞬間には雄叫びが聞こえてくるというのに、今日はそのような声は一切聞こえてはこなかった。慣れた為に聞き逃したのかもしれないが、それはさすがにないだろう。大体私が聞き流したとて、他の者が起きるから気配で私も起きるはずだ。いや、日の出と共に目覚めている故に寝ているわけではないが。
 それでも幸村の朝は早い。そして煩いのが常日頃だ。
 それがないとむしろ心配で致し方ないという女中や兵士までもいる始末である。
 まさか体調でも崩しているというのだろうか?否、それはないであろう。そのようなことが起これば迅速に幸村に使えている忍が報告に来るはず…では、何故?
 まぁ考えるよりも、こればかりは見に行った方が早い故今幸村の自室へと向かっている最中なのだが。
 女中からかけられる声に軽く返事を返しながら廊下を歩く。
 私が行かなくても女中が先に行っていると思ったものだが、幸村の部屋に近づくにつれ人気がなくなることから否と答えられるであろう。

「…これはこれで、誠におかしな話――」
「―うわっ!」
「っ!?」

 物思いにふけりながら突き当たりを曲がったせいか、反対側から来ていた人にぶつかってしまった。
 ばたり、と尻餅をついてしまった相手方を見てしまったと一瞬眉を寄せる。だが、よくよくその人物を確認すれば、すぐに杞憂だと言うことがわかった。…それと同時に、呆れもこみ上げてきてしまったが。

「いっつ…」
「…幸村、その程度でこけてどうする。ぶつかった相手はお館様でもなく、私であるぞ」
「っちょっと、そっちがぶつかってきたのになに―を…!」
「…ちょっと?」

 普段の口調と随分違った口調で話してしまったのであろう幸村は、途中で無理矢理取り繕いながら私を見上げる。
 必然的に目があってしまったら、なぜか驚愕で顔を染め上げながら固まっていた。
 …はて、私の顔になにかついておるのだろうか?

「…幸村、どうした?私に何かついているか」
「…………村?は、……でしょ………に………ぱい…た…け………」
「…?」

 俯いて急にブツブツと何かを言い始めた幸村に、疑惑を覚える。
 挙動不審、と言うわりには結構しっかりした自我があるように見える。普段の言動とは似ても似つかぬが、足取りもしっかりとしているし、病や気を揉んでいるわけでもないようであった。
 ならば、一体どうしたというのか。
 とりあえず未だにブツブツと何かを言っている幸村の意識をこちらへ向けるため、幸村の肩へと手をかけた。

「おい、ゆきむ――」
「っ今考え事してんの!邪魔すんな!」

 パンッと、いつもの馬鹿力とは似ても似つかぬような力で弾かれた我が手。
 思わず呆気にとられれば、幸村はハッと、やってしまったと言わんばかりの表情を浮かべこちらを心配してきた。

「ご――す、すみませぬ!」
「いや…大丈夫だ。それにしても幸村、一体どうしたというのだ?今日のお主は何やらおかしい」
「き、気のせいでござるよ!某は今日も元気にござりまする!」
「……そう、か。お前が元気と言うならば私もそれを信ずることにしよう。だが幸村、調子が悪い等があるならば私に遠慮なく言え。父に遠慮することはない。」
「ハッ…でも某は大丈夫でございます故、安心してくだされ父上!今朝は少々夢見が悪かっただけですので」

 にっこりと笑いながら、それでも隠しきれていない戸惑いと歓喜を浮かべる幸村へと私も笑みを浮かべる。
 私の笑みを見ても、未だにこにこと笑っている幸村は…それは、幸村ではないことを示していることに、気づいてはいなかった。

「…そうか。それは大事なんだ。それよりも幸村、ひとつよろしいか?」
「? どうか致しましたか父上、某これより佐助の元へと――」
「貴様は、間者か?」
「―――は?」

 かんじゃ?と少し音の違う言葉を、問い返すように言ってきた幸村―否、間者に私は笑顔のまま身構える。
 それにしても幸村に化けるとは、見た目の違和感は全くなく気づかないところであった。まぁ、だからといってこの中身は残念極まりなしとしか言い切れぬが。幸村を語るどころか、幸村の身内の事情さえも知らぬとは一体どのような了見であるのか。果たして忍というものはそのような軽い者達であっただろうか?少なくとも、武田軍と上杉軍、それから北条軍にそのような忍は居ぬであろう。では、一体どこの間者か。
 未だに言葉を理解できていぬらしい間者の間抜けさに、嘲笑どころか呆れさえも浮かんでくる。
 言い当てられたことに気づいていないのか。このような間抜け、よくぞ今の今まで生きてこられたものだ…いや、それ故にもしかしたら里から囮として出されたのかもしれぬがな。

「外見だけは幸村にうまいこと化けておるが、せめてもう少し身内の情報を手中に収めておくべきであったな。父上は幼き頃に死している。今この世にいなき人物だ。」
「なっ――嘘ついたの!?」
「まさかここまでの腑抜けとか思わなんだが…手間が省け楽で良いのもまた事実。間者…死にたくなければ吐くがいい。幸村は、どこだ」
「っっ…!」
「自害するか?丸腰の拙者相手に自害とは、とんと間抜けな死に様…それもまた一興ではあるがな」
「ッ死ね!私と幸村のハーレムを邪魔すんな!!」

 軽く挑発してやれば、形相を変え持っていた二槍で突っ込んでくる間者。
 まさかこのようにノってくるとは、馬鹿は愛くるしいと言うが、拙者には理解できようもない。馬鹿も愚直も、扱い安いから嫌いではないが自軍には欲しくないものだ。
 懐から小刀を出し、我武者羅に突っ込んできただけのその二槍を軽くいなす。
 さすがに小刀一本では、二つの槍を同時に受け止めることなど無理難題。できなくはないのだが力だけは幸村並に持っているその間者は、振り回した槍を壁や床に突き刺し、そしてそのまま抉っていた。一体誰が修理すると思っているのか…そろそろ特別手当を出してやらぬと本当にあやつは転職してしまいそうだ。
 はぁ、と溜息をこぼしながら向かってくる槍をいなすいなすいなす。正直、隙だらけなのだが。馬鹿力は認めるがそれ以外が成ってなさすぎる。本当に誰だこのような者を送ってきたのは。

「死ね!死ね!死ねぇえ!!邪魔すんな!!」
「それに言葉も底辺…貴様は誇れるところが何一つないのか!」
「っ!?」

 隙を狙い小刀で一本の槍を庭へと弾き飛ばせば、途端にそちらに気を奪われる間者…本当に、この者は戦場を駆ける者なのか?
 槍を拾いに行こうとするその体を押さえつけ、床に叩きつければ蛙が潰れたようなうめき声をあげる間者。ここまで騒いでいるのに人っこ1人来ぬというのも、おかしなものだ。嗚呼、今日はおかしなことしかないのか。どれもこれもこの間者のせいということなのか。
 胸ぐらにぶら下がっている六千紋の紐に手をかけ、引っ張ればまたも苦しそうに呻く間者。
そのまま殺気をぶつけ、首に小刀を手向けながらもう一度問いかける。

「…死にたくなければ答えよ、幸村を何処へとやった」
「うっ…ぐ………」
「答えよ」
「っ…幸村、なら…ここにいんでしょうがァァアアア!!」
「!」

 焼けるような熱を感じ、反射的に飛びのけば先程まで拙者が居た場所には燃え盛る一本の槍があった。
 …婆裟羅者、だったのか。それも幸村と同じ炎の。中身まで完璧であったら、完璧に見逃すところであった。
 槍をボウボウと燃やしながら立ち上がる間者に、私も小刀に炎を纏わせ応戦する構えに入る。
 できれば槍が欲しいところだが、まぁ無理は言えぬ故にこれでどうにか持たせるしかないであろう。生憎敵は戦に慣れていない馬鹿力の持ち主。馬鹿力と、あの炎の大きさにさえ注意しておけば小刀がなくてもどうにかなりそうな相手ではある。

「邪魔なのよアンタ…私は幸村だって言っても聞かないし…!」
「…幸村を語るのであればもう少し勉強するのであったな…言葉からしてくのいちか?」
「邪魔…邪魔…大体最初は主要キャラに会うのが王道でしょ?それなのに、モブの癖に出張ってさ…顔がいいからってなんでも許されると思うんじゃねぇよ!!」
「…南蛮語?否…聞いたことがないな……きゃら、とは?」
「ちょっとやめてくれる?そのキャラはゆっきーのでしょ?モブが言ってんじゃねーよ。顔が幸村と似てるだけで本当ムカつく…なんで効果が効かな…………あ、わかったぁ。あんた、同族でしょ?転生ってやつ?」
「……………?」
「転生トリップ?それともモブに成り代わったの?アハハ、そんな弱っ弱しい炎なんかまとったって所詮モブはモブなのよ!主要キャラに勝てるわけがないんだから! …でも、そうね。確かにその通りだけど…あんた、本当、邪魔なのよね………」
「……っ!」
「ね……………お願い」

 来る。理解して、身構えた。まではよかった。
 相変わらず太刀筋などなく、ただ我武者羅に振っただけのその槍が纏う婆裟羅…その炎が、白き炎になるまでは。
 避けたはずの炎が目に入り脳に周り体をすり抜ける。
 あつい、とは思わない。さむいとも思わない。
 けれど、確実に何かが吸い取られるような、そんな感触に思わず身震いした―――

「―――消えて」

 歪な間者の…物ノ怪の笑みを最後に
 私は、しろにつつまれていた。


喰い殺した奇跡のねがいごと
(わたしは?否。)
(城は、白に包まれていた)


(3)
「うみゃー」
「う…んん………ねこ?」
「みゃぁ!」

 ぺしん。尾で顔を叩かれた。地味に痛い。
 叩かれたところを撫でながら、尾が届かぬ位置で宙吊りにしておく。暴れているけど拙者の知るところではない故に放置である。
 さてはて、散々な目覚め方ではあったが拙者は一体なぜこんな少し人気から離れた場所にいるのだろうか。白に包まれたところまでは記憶にあるのだが、それ以降は全くもって思い出せない。ううむ…敵の前で死せず失神してしまうとは。武士として情けなく思う。

「…それにしても、あの白き炎…新たな婆裟羅というわけでもなさそうであったな…才はある、間者だったのか…?」
「みー…?」
「あやつが言っていたことも不可解な…。ううむ、こればかりは考えても理解できまい…」
「みゃぁー」
「あの間者…中身があれならば信ずることはなさそうだからな…不審な言動が些か気になるが、まぁ佐助が居ればどうにかなるであろう。今は幸村を探すことが先決、か。」
「み!」

 幸村、と言ったときに一際大きく子猫が反応した気がした。
 いやまぁ、気のせいではあろうが。先程の間者の攻撃のせいで疲れでもしているのか私は。
 思わず子猫を地面に放し、額に手を当てれば子猫は逃げることなくにゃあにゃあと鳴きながら私の膝の上に乗ってくる。私の疲れに感づいて欲しい。今は構っていられるほど元気ではないのだ。
 ぺいっと子猫を膝から地面に、半分投げるように放すがどうにもこの子猫は落ち着きがないのかなんなのか、鳴き止むことなくまた私にすがってくるではないか。一体どういうことだ。私は動物に好かれやすい体質ではなかったはずだ。なのに何故この猫はやってくる。

「みゃぁ、みー!」
「煩わしい」
「みぃいい!!」

 本当に煩わしい。パタパタと尾を振り上げ、ピョンピョンと拙者の周りを飛び跳ねる姿に愛くるしさ等感じることはできぬ。ああ、煩わしい。
 はぁ、と大きく溜息をつくと、一瞬だけ固まる子猫。だが、すぐに…今度は声の音量を抑え気味ではあるが、鳴きついてくる。
 この子猫の姿に、実は見覚えがあった。
 拙者が執務に励んでいるときに、拙者に休息をとってもらおうとしているか、鍛錬につきあって欲しいときの幸村だ。
 いやまさかそんなことがあってたまるかと思いたい。忍ならばまだしも、武士である幸村にそんな芸当ができるとは全くもって思っていない。では、それならば、この子猫が先ほど拙者の零した「幸村」という名前に過剰に反応をしたように見えたのも、そのあとずっと拙者にすがりついてくるのはなんなのか。
 ……いや、考えよ。この子猫の名前が幸村という名前で、飼い猫だという説はどうだろうか?先ほど脳裏に過ぎった拙者の憶測よりも、相当その説が高いであろう。否、この説以外にはありえぬ話だということだ。拙者は自分が思うより、余程阿呆だったらしい。

「みー…?」

 黙り込んだ拙者に気づいたのか、子猫が拙者を心配するかのように顔を覗き込んでくる。
 致し方あるまい。そう思い、その子猫に向き合った。

「幸村」
「!」
「貴様の名は、幸村か?」

 確かめるように、もう一度。
 一度目の反応で察せることはできるが、急に声をかけられたから反応したのやもしれぬ。はて、拙者はこの子猫の名前を知って、果たしてどうするつもりなのだろうか?そんなこと、拙者が聞きたい。何をしているのだ。

「はい!」

 一瞬の合間で思想に走っていると、元気な幸村の声が聞こえた。
 …はて。幻聴か。確かに、今この子猫が口を開いたと思ったのだが。拙者はそこまで疲れているのだろうか。
 思わず凝視していれば、子猫は嬉しそうに燃え盛る炎を体内から出し一瞬でその小さき体を炎に包ませる。正直に言えば全くもってこの状況についていけぬ拙者は、段々大きくなっていくその炎をただただ見ていることしかできず、武士としては随分と情けぬ姿を晒していた。
 めらりめらりと燃え盛る炎は、ずっと燃えているのではないかという予想を裏切り、早々に風へと囚われ消え去ってしまう。

 ――全て炎が消えたその場には、子猫などいなく、代わりに幸村がいた。


(……………先ほどの炎は、幸村の婆裟羅と似ていたな。)


(4)
「兄上ぇぇえええぶへぇっ!」
「しばし待たれよ、理解したい」

 両腕を広げ感極まったと言わんばかりに抱きついてこようとした幸村を片手で押さえつける。と、いっても止めただけだが。正直こちらの手の方が痛いとはどういうことなのだろうか。
 さて、現状を説明するとなれば簡単だ。子猫が幸村に成った。これだけで説明は終わる。終わる、が、一体どういうことなんだと聞かれれば説明しようがない。本当にこの言葉通りの出来事なのだから。
 一見してその姿形は幸村そのもの。ただ、その頭には人間にはないであろうケモノの耳がついていた。あと尾も。ヒトではなく、物ノ怪か。今日はヒト成らざるものに出会うことの多き日だ。

「兄上…申し上げておきますが某は真田源次郎幸村そのヒトであり、物ノ怪の類ではございませぬ」
「物ノ怪が自分から『自分は物ノ怪です』と公言する方がおかしくはないか幸村?」
「確かに…!」

 成る程と言わんばかりに手に拳を当て、瞳を輝かせている姿は正に幸村そのものと言っても過言ではないだろう。先程の間者とは大違いだ。まぁ、こちらのは先程の間者と違い姿は中途半端にヒトの形はしていないが。

「…思わず関心してしまいましたが…兄上、某は本当に真田源次郎幸村でござる!」
「では何故子猫の姿等していたのだ」
「それは…起きたらもう既にあの姿だった故、某にも原因はわかってはいませぬが…」


(10)
「……………………」

 目があった。そう思いきや、彼は今までの柔らかな微笑みをどこかに忘れさってきたかのようにビシリと、それはもう完璧に時が止まったかのように表情が固まってしまった。
 さてはて、一体どうしたのだろうか。目があったと思いきや、どうやら彼は拙者ではなく拙者より少し下を見ているような気がする。彼の目線の先を追うように拙者も視線を下げていくが、そこには拙者に抱かれている幸村しかいない。幸村、と言っても猫耳と尾をつけた姿ではなく、今は完全に猫の姿なのだ。気づかれるはずがない。
 幸村も状況をよく理解していないようで、猫の姿のまま首を横に傾げている。その姿は愛らしいが、中身が幸村だと考えるとそこまで愛らしくもない。というか子供らしいものだ。
 わからないせいかはわからないが、段々と思考が片倉殿からずれていくと、やっと正気に戻ったらしい片倉殿は、幸村の姿をした物ノ怪と、そんな物ノ怪を囲んで楽しそうに騒いでいる軍団に目をやった。かと思いきや、またこちらを向いてきた。凄い勢いだ。そして正直顔が怖いものだ。
 ガッツリとガン見されている幸村は拙者の腕の中で怯え縮まりかけていた。幸村、お主はそれでも武人か。いや今は猫であるが。
 片倉殿の異変にやっと気がついたらしい伊達殿が、片倉殿の視線の先を辿り拙者達を確認することは、なく。そのまま片倉殿に話しかけた。

「小十郎、どうした?挙動不審だぜ?」
「えっ!あ、は、はぁ…」
「…本当にどうした小十郎?せっかく真田とこうして茶屋に行く最中だっつーのによ」
「あぁ…いえ。…いえ。なんでもございませぬ。ですがこの小十郎、重要な用事を思い出させて頂いたのでお先に行っていてくださいませそれでは!!」
「な…ッ、小十郎!?」

 普段の冷静さや落ち着きをどこかへ落としてきてしまったらしい片倉殿は、普段では考えつかないような間違った言葉を使い、そして主である伊達殿の静止も聞かずにこちらへ走り出してきた。
 え、と思うのも束の間。拙者は生憎戦場でもない今気を張っていたわけではないので、戦時よりも恐ろしい形相をした片倉殿にガッと掴まれそのままどこか人のいない場所へと抱きかかえられ運ばれてしまった。
 …これでも鍛えているし背は高いから持ち運びにくいはずなんだがな…そう楽々と運ばれてしまえるのか、拙者は…。

「…………テメェ、何者だ」
「…信之と申します」
「いや手前じゃねえ、そっちだ」

 そっち、と指をさした方を向けばそこは拙者の腕の中で怯えている幸村が。本能も動物と化しているのか、それともこの姿になって拙者が甘やかしすぎたのか…どちらにせよ、武人としては恥じるべき姿であった。

「…猫がどうかしなさいましたか?」
「………手前が…見えてるかどうかは知らねえが………おい真田幸村、手前、んな姿でなにしてやがんだ」
「み!?」
「………わかる、のでござりますか片倉殿」

 これは驚いた。腕の中で幸村も驚愕しているが、こればかりは拙者も驚いた。
 聞き間違いでなければ片倉殿は『見えているかどうかは知らねぇが』と言っていた。ということはひっくり返せば片倉殿には『見えて』いるということ。何が、はわからぬ。だが、そういえば片倉殿のご家系は神職を継いでいたはず。つまりそういうことなのだろうか?拙者には見えぬソレが、片倉殿には見えている、ということなのだろうか。
 否、それにしても不可解なり。今の今まで片倉殿はあの物ノ怪を真田幸村と認め、そして物ノ怪の妖術にでもかかったかのように真田幸村という存在に対して微笑み、そしてなんだかんだと甘い節があった。では、そんな片倉殿がこの猫の姿をした幸村を見て、なぜそんなにも慌てることがあったのであろうか?明らかに片倉殿は今確信を持って、この猫の姿をした幸村を真田幸村として認めていた。ならば、あの物ノ怪を真田幸村として認めている彼からすれば、2人の真田幸村が存在することとなる。故に、例えこちらが本物の幸村だとしても、本来ならば人と獣。信ずるべきは人の方だと思うのだが、それいかに…。

「視えんだよ…なんでそんな姿になってるかは知らねえがな。…それに、じゃあ、さっきの真田幸村は…一体…」
「片倉殿。貴殿は…何故こちらの幸村を、真田幸村と確信して?見えたところで、本来ならば人の形を象った方を信ずるのではありませぬか?」
「……あぁ、俺もまさかとは思った。が。…そこまでハッキリと視えちゃァ疑いようもねぇだろ…」
「み、みぃ…?」

 げんなり、といった様子で…こんな疲れている片倉殿を見るのも珍しいが、それほどまでにハッキリと幸村はその形を象っているのだろう。
 まぁ生憎、拙者には見えぬし幸村本人にもその自覚はないらしいから、その感覚は拙者共には解らぬままだろうがな。
 呆れた様子の片倉殿に、さて一体どう話を持ちかけるか、と思っていると思い出したかのように片倉殿は拙者の方を向いて問うてきた。

「そういやぁ…手前は誰だ?その猫が真田幸村だって理解してる割には…視えてねぇみてぇだしな…」
「………片倉殿?」
「それになんで手前は俺の名を知ってやがる。真田幸村の家臣…って割には見覚えがねぇが…」

 訝しげにする彼に、本日第二の驚愕を覚えた。腕の中に居た幸村は、拙者の腕を飛び出して人型を象り、そして片倉殿に問い詰める。だが、拙者はそんなことよりもどこか、納得した節があった。
 あの時、あの物ノ怪には「消えて」と言われた。そのあとに白き炎が襲ってきて、気づいたら外へと居た。死したと思いきや外傷は一切あらず。なぜか拙者の愛用の武器も近くに転がっており、金子もあったから苦労はしなかった。だが、確かに苦労はしなかったが一つだけ引っかかっていた点はある。拙者がいくら氏を名乗っていないといえど、それでも名は変えておらぬのだから1人くらい、1人くらい気づくものがいても良いはずなのだ拙者の正体に。だが、そのような者は誰1人として現れず、先ほどだってあの物ノ怪も、佐助も、ましてや幸村に比べれば数は少ないがそれなりに出会い、話もしてきた伊達殿さえも拙者を目視しておきながら誰1人として拙者に反応を示す者はいなかったのだ。真田幸村をアレと認識しているからといっても、其他の人間は変わらない。ならば、真田幸村の兄として存在していた拙者を知っているのが筋と言うもの…。
 だがそれは今こうして、確信と共に打ち付けられた。
 あの時消えて、と言われ白い炎に包まれた。死んだかと思っていた。だが、死んではいなかった。

 当たり前だ。なぜなら拙者は、『拙者』と言う存在自体が消されていたのだから。

「…ふ、ククク…」
「あ、兄上…?」
「…」
「いやなに、すまなんだ。拙者は今やっと理解できた…。片倉殿、拙者は信之と申す。…本当に、見覚えや聞き覚えは、ありませぬか?」
「…ねぇな。大体、真田幸村に兄が居たなんてことは聞いたこともねぇ」


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