小ネタ 2 | ナノ

迷宮/『マギ』と呼ばれた女
2016/04/02 21:53(0)

「マギ」
 少女の見た目をした子。無表情気味。「マギ」と呼ばれ、シンドリア国に所属しているがまぁまぁ不穏気味。
 本人曰くただの魔導士、王曰くマギ、実際のところはマギではないとみんなわかっているのだが、魔導士を超越したなにかであることに変わりはない。

シンドバッド
 病んでない。別に病んでない。頑なに否定する言葉をガン無視して「いいや、君はマギだ」と笑顔で言ってのけるなにを考えているのかさっぱりわからない男。

八人将
 ようわからんが王がマギつってるから右に倣えじゃ。


 杖を持ち、ルフの声に耳を貸す。きらきらと光るルフが謡う言葉を声に乗せ、光またたく魔力を杖に乗せ、一筋の圧縮された力を空へと放つ。

「―――白い雷槍(ラムズ・アルサーロス)」

 降り注ぐ白い雷槍。遠い空を伝って聞こえる悲鳴と狂気をなんの感情も持たない瞳で見つめたあと、歓喜に打ち震える自国民の声に背を向けた。
 わずか数時間にも満たない、つまらない戦争だった。なにをとち狂ったのか、うちに戦争をふっかけてきた矮小な国家は瞬く間のうちに潰され、あとは幸せを願う亡国の民を、心優しいといわれるうちの王が引き入れ幕引きだ。

 ああ、なんて、つまらない話だ。

「そう暗い顔をするな、『マギ』」

 ぼうっと彷徨わせていた思考をかき戻す。バッと振り返った声の先の人物につい杖を向けたが、ふとその姿を視界に捉えたらもうすべてが馬鹿らしくなった。はぁ、とひとつため息をついて、杖を下す。

「なにゆえ、ここにいらっしゃいますか、『王』よ」

 私よりも長い髪をなびかせ、いつからそこにいたのだろうか、白い衣装が汚れるのもいとわず彼はそこに座っていた。
 煮え切らない気持ちを振り払うように頭をバリバリと意味もなくかき乱し、重い足を王の元へと進ませる。

「ははは、なぁに。俺も近くにいたから、ついでにな」
「執務の方はお済になられましたか」
「うっ…ほら、今は休憩だって、詰め込んでやったところで終わるもんも終わらないだろう」
「終わらせられるものを、先延ばしにして終わらせないから、こうして言い募っているのです」
「そう硬いこというなって、なぁ『マギ』」

 軽く続けられるその名に、吐き気がする。
 隠すこともせず一度大きくチッ、と舌を打ってから、笑顔を浮かべ続ける『王』を睨み付けるように見つめた。

「再三度申し上げますが、私は『マギ』ではございません」

 幾度となく吐いた言葉、幾度となく伝えてきた言葉。
 ゆるゆると笑みを浮かべていた王は一瞬きょとん、とした顔を浮かべたあと、先ほどのゆるい笑みではなく、口角だけあげたような、目の奥をどろりと溶かしたような、底の知れない笑みを浮かべた。
 そうしてまた、いつも通り、私の頭を撫でながら彼は言うのだ。

「いいや、君は『マギ』だ。俺の国、シンドリアに仕える、立派な『マギ』だよ」

 どろどろと溶かしたような声は、目は、いったいなにを見据えた上でこの言葉を選び吐き出すのだろうか。

 彼も、わかっているだろうに。私はただの魔導士であり、『マギ』などという大それたものではないことなんて、彼ほどの王であれば、わかりきったことだというのに。
 いったい、なぜ、彼は私ごとき一介の魔導士を『マギ』などと呼び、手元から離さないのだろうか。

 彼と出会って、私が『マギ』と呼ばれるようになってから、何万、何億と続いたこの答えは、今日も見つけられそうにない。

「…わたしは、『マギ』じゃない」
「いいや、君は『マギ』なんだよ」

 それでも、何万、何億と否定する私を、世界は馬鹿だと罵るだろうか。


***
 友人一同に進められ、とりあえず27巻まで一機読みした上でネタを思いついたのでとりあえず形にしてみました。続きはない。
 シンドバッドが好きです。底の知れなさとよく出る蔑みの顔に胸が締め付けられる想いを抱えています。とりあえず4巻と12巻は買おう。

 ストーリー作りにくそうなので連載する気は特にないんですが、まぁ、この設定個人的に楽しそうだったので一話だけ。
 シンドバッドさんは別に病んでません(いまのところ)
 オチもストーリーもなにも見えないけど厨二心くすぐられているのでもしかしたら軽くは続くかもしれないですが、連載にはしません。


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