小ネタ 2 | ナノ

ETC/SS詰め合わせ
2015/06/10 03:32(0)

※深い意味のないSS詰め合わせ



ごぽり、と泡を吐き出す。割れずに上へ上へと上り詰めていく泡を見つめながら、ああ、と声を漏らした。その漏らした声も、結局は、泡となってきえていくんだけれど、

 ――おぼれてるなぁ、

ごぽごぽと泡ばかりが上り詰めるこの深海で、そんな自分をちゃんと客観的に自覚しながら、また、眼を閉じて落ちていくことにした。





じゃあねと片手を上げて笑う少女に、俺もじゃあなと手を上げる。
夕闇を背にして笑う彼女に、夕闇を背にして俺は歩き出す。ああ今日も、楽しかった。また明日も、その次も、きっともっと楽しいんだろう。

うっそりと笑う背後で聞こえた、大きなブレーキの音に酔いしれながら。
俺はぐるりと視界が回る感覚を、また今日も、許容するのだ。


「おはよう」





殺そうと思った。突然だと人は言うかもしれない。けれど思い至ってしまったものはどうしようもない。
雨が降ってるから、風が吹いてるから、空が青いから、子供が笑ったから、犬がしょんべんをしたから、虫が飛んでたから。
理由なんていくらでもある。いくらでもある理由を盾に、私は今日、彼を殺そうと思った。

「鋏じゃあ、殺せないよ」

振り上げる前に、構える前に、むしろ鋏を掴む前に、見破られてしまった。

ああ残念、これじゃあ殺せないや!

彼は困ったもんだと言わんばかりに、苦笑を私へと手向けた。





ぼろり。涙がこぼれた。ぼたぼたと、大玉の雫が頬を伝って地面へと割れていく。大きな瞳から、大きな雫を、ぼろりぼろり。ぼたりぼたり。なんだかもったいなく思えてきて手を伸ばしたところで、ぱちんと叩かれてしまう。けれどその手を使って涙を拭うようなことはせず、流しっぱなし。ぼろりぼろり。ぼたりぼたり。

ああせめて、舐めさせて。なんて。
そんなこと言ったら変態と言われて頬を叩かれそうだから、やめておくことにした。





食事とは、誠意を払うものであると考える。この世に感謝し、食材に感謝し、生にありつける歓びに感謝するべきだと思う。幼い頃は誰だってやっていた行為。もう、大人になるにつれ、やらなくなっていく行為。どんなに馬鹿にされようと、ずっと、続けてきた行為。
両手のひらを、ゆっくりと合わせる。少しだけ頭を下げて、目を閉じる。待ちきれないとばかりに溢れ出た唾を、ごくりと飲み込んで。さあ、ご一緒に。

「いただきます」





「ねーわ」

男が、冷めた目でこちらを見てくる。いつものことだ。気にせずに咀嚼し続けると、男はもう一度「ねーわ」と言ってくる。ねーわと思うのなら、放っておいてほしいのだが。そう言ったところで聞かないのは知っているから、またこれも黙って咀嚼し続けながら流すことにする。男はまた、もう一度、ねーわ、と漏らした。ごくん。飲み込んだ。

「さあ、ご一緒に」
「俺は食ってねえから、言わねえよ」
「なんてやつだ」

感謝は大事な行為だというのに、ああ、なんてやつだ。空っぽになった皿を見つめながら、両手のひらを合わせる。頭を少し下げ、目を瞑る。拒否られたから、今日はひとりで。さあ。

「ごちそうさま」

男はまた、そんな自分の姿に一言。「ねーわ、」とこぼしつづけた。


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