小ネタ 2 | ナノ

黒子/宮地清志と別れ話未完
2015/05/28 15:39(0)

※五話くらいで終わる話を書こうとしたけれど飽きた残骸
※途中で終わります
※名前:主人公/ひいろ



「別れよう」

神妙な面持ちで、ひどくつらそうな顔をしながら告げられた。シン、とあたりの空気が静まったような気がする。まぁ元からここには私と彼、2人しかいないのだから、そりゃあ私が口を開かなければ静かになるのは当たり前なんだけれど。
遠い場所から、空気にのって笑い声が聞こえてくる。ガサリと音をたてたのは持っていた菓子パンの袋で、ああ、そういえば今は昼時だったことを唐突に思い出した。

「いいよ」

未だうつむいている彼にそう返事をすれば、彼はバッと勢いよくこちらを振り向いた。大きく見開く瞳は、元々男子にしては大きめな瞳をさらに大きくさせていて、柄にもなくこぼれおちるんじゃないかと思った。ガサリ。食 べかけの菓子パンが入った袋の口を閉じて、目を大きく見開く彼に、相反するように目を細めて笑いかける。

「じゃあ、さようなら。宮地くん」

元々昼食を食べるためだけにきていたのだから、荷物はさして多くない。食べかけの菓子パンの袋と、飲みかけのジュースパックを手に持って、さっさと立ち上がる。
伸ばされた手と、かけられた声は、見えていたし聞こえていたけれど、無視をした。



「…そんなわけで、私振られたわけだから、あいつが死にそうだとか言われても困るんだよね」

ズズ、と音をたてた空っぽの紙パックをゴミ箱めがけて放り投げる。ガコンと音をたててゴミ箱へと落ちていった紙パックを見届け、内心でガッツポーズをきめる。

「…そりゃ、俺もわかってる。今回は全面的にあいつが悪い。けど、何度もお前と話そうとしても肝心のお前が全部切ってるじゃねーか。お陰で部活中でも通夜全開で困ってんだよ」

ぼりぼりと頭をかきながら、あきれたように告げる彼は、件の彼と同じクラスで同じ部活に所属している木村だ。
なんでも彼の話によると、私を振ったのは自分にもかかわらず、未練たらったらで今にも死にそうな元彼をどうにかしてほしい、ということらしい。正直いえばしったこっちゃない話だ。私は振られた身で、彼は振った身。どうして振られておきながら私が彼に歩み寄らなければいけないのか。まったくどうして理解が及ばない。

「そんなこと私に言われても困るって、だって私もう彼とはただの同級生だし? っていうか振られて気まずいのは私なのに、どうして話題を続けなきゃいけないのかがわからない。さっさと新しい彼女なりなんなり見つければいいじゃない」
「…お前それ絶対宮地の前で言うなよ、ガチ泣きすっからなあいつ」
「どうして振った女の言葉ひとつで泣いちゃうのか、私にはさっぱりわからないなー」

ほぼ棒読みで言えば、大きくため息をつかれる。大変失礼なやつである。私の言っていることはなにひとつ間違っていないというのに。
ちらりと時計へと目を向ければ、あともう少しで昼時間も終わる時間。私はそれを素直に木村へと教え、もう一度大きくため息をつきながら立ち上がる木村へ手を振った。

「部活頑張ってねー」
「俺に言わないで、宮地にかけてやらねぇ ?」
「なんでただの同級生にかけなきゃいけないの?」
「お前わかってやってんのわかってっけどよ、何度でも言うわ。それ絶対に宮地に言うなよ?フリじゃねぇからな?」
「安心してよ、ただの同級生と話す内容なんて特にないから」

にっこりと告げてやれば、これ以上は無駄だと思ったのかやれやれと言わんばかりに首を振って教室を去っていく。その後ろ姿が人混みで見えなくなるまで見つめたあと、私は素直に自分の席へと戻った。

(まぁ、泣かせるのは泣かせるので楽しそうだけど?)





「せーんぱいっ」

ああ、今日は彼なのか。そんなことをちょっとだけ思いながら笑顔で振り返ってやる私はなんていいやつなのだろ う。

「高尾くん、こんにちは」
「こんにちはッス!」
「なんだか久々だね、調子どう?」
「チョー元気っすよ!今日も真ちゃんをバリバリリアカーで迎えに行きました!」
「相変わらずジャンケン勝てないんだねぇ」

けらけらと笑う後輩に合わせて、私も当たり障りない程度にけらけらと返してやる。三年生の教室が蔓延る廊下まできてくれたことに関してはほめてあげるレベルだけど、私個人としてはさっさと帰ってくれないかなぁというのが本音だったりする。

「あ、そういや先輩、俺聞きたいことがあって来たんすよ!」

にっこりと笑いながらも、細められた瞳が逃がさないぞとばかりに光を放っている。
やっぱり帰ってくれやしないか、と観念するようにため息 をついて移動を提案してやった。いい加減、奇異の目が鬱陶しい。高尾くんはおとなしくうなずいてくれた。



「で、聞きたいことって?」
「またまたぁ、とぼけないでくださいよ!どうせ俺が聞きたいことだってわかってっから、移動なんて提案したんでしょ?」

人気の少ない校舎裏へと来てみたけれど、彼はけらけらと笑うばかり。まぁなにが聞きたいのかはなんとなく察しているのは確かだけれど、一応私もスタンスを崩すわけにはいかない。

「全然わからないや、あ。勉強でどっか困ったところでもあった?」
「一応真ちゃんっていう超絶偏屈エース様がいるんで、勉強は大丈夫ッス。まぁ引き延ばすのもめんどくさいんで直球でいかせてもらうんすけど、宮地さんと 別れたってマジっすか?」

別れた、っていうか振られたの間違いなんだけど。なんかその言い方だと私が振ったみたいじゃないか。まぁ彼の現状と私の現状から、正直そっちの噂のほうが大きく流れているみたいだけど。

「まぁ、そうだね。私振られただけだけど」
「あり?先輩が振ったんじゃないんですか?」
「やっぱりそう思う?これでも、振られたのは私なんだけどね」

今の彼をさっぱりみていないから全然現状を知らないけれど、だいたい噂になっているのはやっぱり私が彼を振ったという噂。毎度訂正を入れているけれど、正直面倒になってきている節は否めない。でも私が一方的に悪いと言われたくもないから、幾度となく聞かれるたびに訂正を入れているのだ。振ったの はむこうのくせに、私への負担がかかっている現状はかなり解せない。

「マジですか、ちょっと高尾ちゃん把握ミス。あ、でもなんで宮地さんが別れ話なんか?先輩たちってめっちゃラブラブだったじゃないですか」
「さぁ、普通にいつもどおりご飯食べてたら突然切り出されたから理由まではわからないかな。…あとラブラブだった記憶はないんだけど」

思い返しても、確かにカレカノらしいことはしたけれど、だからといってイチャイチャしまくってた記憶はない。外では普通に友情の延長にしか見えない程度の振る舞いをしていたような気がする。そりゃまぁお昼は一緒に食べてたけど、別に毎日2人きりってわけじゃない。大坪も木村も一緒だったり、私のほうの友人が一緒だったりもして た。
私が首をひねっているのがおかしかったのか、高尾くんは少し吹き出して肩をふるわせながら言葉をつなぐ。

「自覚なし、とか!宮地さんでれっでれだったじゃないっすか!どっからどう見ても先輩のこと大好きなの見て取れるくらいに!俺、何度か先輩に抱きつきましたけど、そんときすげーガンつけられてたんですよ?え、まさか全然気づいてなかったりします?」
「あー、まぁ正直そこらへんはもうずっとだから気にしてなかったなぁ。本当こいつ私のこと大好きだなってずっと思ってた」
「ブッフォ!」

耐えきれなかったのか今度は少しどころか思いっきり吹き出しよったよこの子。ゲラゲラと笑い続ける後輩にかける言葉は残念なことに思いつかない。いい加減教室戻っていいかな、って思いはじめるときにようやく落ち着きを取り戻しはじめ、それでもこぼれ落ちる笑いを堪えながら、高尾くんは続けた。

「そんなにわかりきってんなら、別れ話もどうせ唆されたってわかってるじゃないですか。寄り戻してもよかったんじゃないですか?」

きたきた。だいたいみんな私の話を聞くとこう言ってくる。正直うんざりだぜ、って言いたい気分だ。思春期だし、しょうがないよなぁって思うことは結構あった。今回もきっとその部類か、もしくは罰ゲームかなんかだったんだろうなってこともなんとなく察してる。察してる、けれど、だからといってどうして私がそれをくみ取ってすくい上げてやらなきゃいけないのか。私だって思春期だ。私だって子供だ。私だって、くみ取っ てばっかじゃなくて、遊んだっていいじゃないか。

世の中、顔がよくて頭がよくて運動もできる彼に優しい世界ばっかり作り上げるが、私がその世界にあてはまらなきゃいけないという話は、ないじゃあないか。

私の思いを、この聡い子供は悟ってしまったのか、少しだけ目を見開いた。いつもしているにこにことした顔より、よっぽどおもしろい。彼に免じてヒントを与えるわけじゃないけれど、肯定するように笑みを返す。

「あのね、私、根性のない男って嫌いなんだよね」
「は?」
「顔がよくても、頭がよくても、性格がよくても、なんでも。なんでもできても、根性がない人間だったら、好きになれないんだよね」

突然脈拍もなく語り出したせいか、高尾くんは頭にクエ スチョンを浮かべながらも必死に処理していく。私はといえば笑顔を崩さずに、最後の置き土産と言わんばかりに声を発した。

「あんまり根性ないことやってたら、本当に、嫌いになっちゃうかもね」

青ざめる少年の顔に、響きだしたチャイム音。タイミングのよろしいこと、と思いながら片手をあげる。授業はじまっちゃうから、じゃあね。きみも、早く戻るんだよ。先輩らしくちゃんと注意をしてその場を去る。彼は動けないのか、私が見えなくなるまで足音ひとつたてやしなかった。

(伸ばされた手を、どうして必ず受け取ってあげなくちゃあならないのか)





忠告してやったせいか、しばらくは人が訪れてはこなかった。私が彼と別れたと いうのはなかなかに噂になり、野次馬がわいていたけれど、それもだいぶ収まってきた。人の噂も七十五日。ま、まだそんなに経ってないけれど。

「主人公は新しい彼氏作らないの?」
「こら、ここで新しい彼氏なんて作ったら宮地くんたぶん不登校なっちゃうわよ」
「そこまではないでしょ、だって私振られてるし?」
「あんた全然宮地くんのこと見てないでしょ、見てきなさいよ。明日にでも死にそうよ彼」

そんな馬鹿な、とは言えなかった。友達の目がマジだった。最近見てないけど、思ったよりも全然重傷らしい。

「でもさぁ、自分勝手だよねぇ。振っておきながらあんな落ち込まれたらこっちが悪役じゃん」
「実際こいつ全部わかっててやってんだから悪役だと思うわよ 」
「ちょっちそれ酷くないかな?私振られてる身なのに」
「いや、あんた宮地くんだから見てきなさいって。本当振った人間と振られた人間どう見ても逆だから」
「そんなこと言われてもなぁ」
「行かなくていいって、今行って許したら絶対懲りないって」
「正直見てて鬱陶しいからさっさと寄り戻してほしい」
「それが本音か」

むしろほかになにが?といった態度をとる友達に、苦笑がこぼれる。あんた私のこと振っておいて、周りにこれだけ迷惑かけるってどういうことだ。いや一番迷惑被ってるの私だけどさ。もう少しくらいなら許容できるけど、正直これ以上になったら、いくら大人びてると言われる私だって許せなくなるぞ。ていうかまず、自分の発言に覚悟を持たないあたり本 当に根性なくてちょっと株下がってるっていうのに。
自分勝手だと怒る友達と、そんなんどうでもいいからさっさと寄り戻せと怒る友人と。適当に笑い流している私。ちょっと飽きてきたなぁ、なんて思っていると唐突にクラスメイトに肩をたたかれた。

「主人公、お客さん」

噂をすればなんとやらか、なんて思いながら目を向けた先に立っていたのは予想とは違った人物。軽く手を振られたので振り替えし、友達には謝って席を立ち上がり、訪ねてきた彼と教室を離れた。



「次くるなら、大坪だろうなっては思ってた」
「読まれてたか」
「一応聞くけど、宮地くんの差し金かなにか?」

私の『宮地くん』呼びに少しだけ眉をハの字に歪めた大坪だけれど、その困った笑顔のまま首を振り否定を示す。「俺の勝手だ、」と言う彼にまぁやっぱりと思いつつ、そろそろお前は周りの人間にかなり恵まれていることを思い出せと心の中で罵った。

「寄り戻せ、って話なら聞かないよ?振られた私がもう一回告白とか、惨めじゃない」
「どうせ言ってもまず聞かないだろう。いやなに、一応、確認にきたんだ」
「確認?」
「お前が何を思って行動してるのか、と思ってな」

そういって強く笑う彼に、変わらないなと思う。きっともう私の思いはお見通しだろうから口には出さないでおくと、彼は肯定するようにひとつ頷いた。

「まぁ、今回悪いのはあいつだからな。俺はなにも手出しする気はないさ」
「ありがとう。部活でもなんか迷惑かけてるらし いし、なんかごめんね?」
「いや、部活のほうはむしろ全力で打ち込んでいるさ。八つ当たりも含まれていつもより怒声が飛ぶけど、部活事態にはもうなにも支障をきたしてない」

ま、振った当日はボロボロだったけどなと笑い飛ばす大坪はいい性格していると思う。手助けする木村、集める高尾、見守る大坪。そして待ってる私。こんなにいい人間に囲まれているというのに、あいつはいつまでぐずぐずしてるんだろうか。これで部活もずたぼろのままだった、なんて言われたらたぶんもう残りの高校生活一切合切会わないようにしていただろう。根性のないやつは、嫌いだからね。

「大坪は根性あって好きだよ本当に」
「ありがとう。俺の嫁はまみりんだけだから迎えられないが、気持ちだけ受け取っておく」
「本当それがなかったらたぶんめっちゃモテてたと思うんだ私。まぁだから好きなんだけど」

はは、と笑う彼に躊躇はない。彼の中のヒエラルキーは彼女よりもマミリンだ。全部受け入れてくれるような彼女が現れてあげますように、とちょっと心の中で祈っておきつつ、話し合いは終わったからいい加減に教室に戻ろうと足を進める。

「ああ、そうだ。ひとつだけ聞いておきたいが、なにか欲しいものはあるか?」

背後から突然かけられた声に、思わずきょとんとした顔をしてしまったのか彼は笑う。ああ、やっぱりいい性格している。きっとなんでと聞いたところで、もうすぐ訪れる私の誕生日でも引き合いに出されるのだろう。いいやつかよ。心の中でつばを吐いて、しょうがないから素直に答えてやることにした。

「強いて言うなら、指輪かな」

にっこりと笑って告げれば、彼も、そうかと笑った。

(ここまで譲歩してやったんだから、さっさと迎えに来てよって!)


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