小ネタ 2 | ナノ

黒子/天才の葛藤
2015/02/03 01:43(0)

これの男主設定の子
あれとかそれとかほれとか、続いてるわけじゃないけど、関連してる
※名前:主人公/ひいろ
※急にはじまり急に終わる



何度も言うが、バスケ自体は、嫌いじゃなかった。その先の才能を手にすることに怖がっただけで、バスケ自体は嫌いじゃあなかったんだ。そりゃあ練習は大嫌いだし、マジになってやるほど馬鹿にはなれていなかった。あほみたいに流れる汗は気持ち悪いし、どんなにがんばって得点をいれたところで、将来的になんの価値にもなりゃしない。ただの好きの延長でやっていくには難しい世界だったし、ただの好きの延長でその才能を目覚めさせるのは、きっと、ひどく、居場所が、悪かった。

『おい、主人公!』

呼ばれた声に反応すれば、力強くボールが飛んでくる。軽くいなしながらそれを受け取って、ぐるりと視界を一周させる。その瞬間だけ、世界がスローモーションのように見える。ゆっくりと伸ばされる腕を掻い潜りながら、手を滑らせるようにボールを空へと放つのだ。歪に弧を描いていくボールは、きっと、落ちると確信を得させるような動きで、ゴールへと吸い込まれていく。それを見て湧き上がる歓声に、俺は無感動のまま合わせて笑うのだ。
くだらない、公式戦でも練習試合でもなんでもない、たかだかミニゲーム。
けれど、それがよかった。そこで、よかったんだ、俺は。

遊びが、よかったんだって、ずっと、

「おい、主人公」
「…ああ。日向か。」

ぶつりと思考が途切れる。ゆっくりと視線を声のした方に向ければ、そこにはむっすりと仏頂面をした日向が立っていた。

「ああ、じゃねーよ。今何時だと思ってやがんだ、帰宅部が」
「え、うそ今何時?てか日向部活は?」
「もう終わったわダァホ!体育館の鍵返しに職員室行ったついでに、忘れもん取りに来たらテメーが居たんだよッ!」
「えー…うっそお前が鍵返しにくるとか時間よっぽどじゃん。全然気付かなかった。」
「お前なぁ…」

呆れたようにがっくりと肩から力を抜いた日向を、ぼーっと見つめていると、いつの間にか手を掴まれていた。いつのまに、と思ったけれど、きっと口に出したらまた怒られる気がして押し黙る。

「おい、どこ行くんだよ」

そのまま、俺の手を掴んだまま、づかづかと歩いて教室から出ようとする日向に思わず声をかける。教室から日向が出たあたりでピタリと止まり、ひどくめんどくさそうな顔をしながら振り向いた。

「帰んだよ」
「帰りなよ」
「お前もだ」

ぱちり、と思わず瞬きをひとつ。はて、と首を傾げれば、日向は俺から手を離すことなく言葉を続けた。

「放っといたら明日まで学校にいそうだからな」
「さすがにそんなことないよ、見回りの先生に見つかる」
「だァからなんで見回りの人が来るまで居る前提なんだダァホ!オラ、さっさと帰ぇんぞ!」

ぐん、と腕を引っ張られて、つんのめりながらもこけないように後を追う。ぱたぱたと上履きを鳴らしながら歩いていると、下駄箱のところになにやらたむろしている人間が数人。よくよく見れば全員エナメルのスポーツバックをしょっていて、よくよく見なくてもそれは、全員バスケ部のやつらで。

「あれ、日向遅いと思ったら主人公じゃん!なんでこんな時間までいんの!?」
「おー主人公、昼寝でもしてたのか?」
「誰も起こしてくれなかったのか…?」
「……………」
「大丈夫、寝癖はついてないってよ!」
「いや、寝過ごした前提で話進めるなよお前ら…ハッ、寝過ごした日はねえ過ごそうか!キタコレ!」
「全然キてねーよ伊月ィッ!」

スパン!といい音がした。一気に騒がしくなった空間を甘んじて受け入れつつ、ボーッとスポーツバックを見つめる。そういえば、俺のくたくたになったスポーツバックは、どこにいったんだったっけ。捨てたんだったか。それとも、あげたんだったっけか。いくら頭をひねっても思い出せないそれは早々に思考から排除して、喧騒をそっちのけにさっさと上靴から外靴へと履き替える。トントン、と靴を地面で鳴らしていると、今の今まで気づきはしなかったが、よくよく見れば黒子がいた。下駄箱のすぐ近くにいなかっただけで、よく見れば一年が固まっているではないか。後輩と仲良しだとは聞いていたけれど、一緒に帰るまでとは。
すげーな、と柄にもなく関心していると、また手を掴まれる。

「おい、手」
「今日のお前はダメだ、手離したらどこ行くかわからん」
「子供じゃねーから」
「ははは、いいじゃないかたまには!俺も繋ごう!伊月はこっちな」
「いや、横一列は邪魔になるよ木吉」
「そうだな…!すまん主人公、3列はダメだった…また今度な!」
「まって、まるで俺が頼んだみたいな言い方やめて」
「さっさと帰るぞー」
「その前に手を離して男二人で手繋いで帰るとかキモい」
「うるっせーな!俺だってできればしたくねーわ!」

じゃあ手を離せ。ダメだ今のお前はダメだ。無限ループすぎて俺は悲しいぞ日向。小金井とか木吉はからからと笑っているだけだし、伊月はダジャレを言っているだけ。土田や水戸部は何も助言してくれない。どういうことだお前ら。俺がホモだと思われてもいいのか。主に一年生がわけのわからない視線を送ってきてるけどいいのか、いいのか…。
俺のことなんてほっといて、さっさと帰っちまえばいいのに。さすがの俺だって一晩学校で過ごすなんてことはしないと、こいつらだってわかっているだろうに。まったく、やんになっちまうぜ。

「なぁ、主人公」
「手離す気になったか」
「聞けダァホ」
「なんだよ」

聞きたくないなぁ、なんて思っても、こいつはなんてことのないことを、なんてことなく言うだけだから。

「今度、練習来いよ。バスケしようぜ。」

ああ、やんになっちまうなあと。放っときゃいいのに、怖がりな俺なんて、捨て置いちまえばいいというのに。その言葉にそれ以上の深い意味なんて込められてないって、誰よりも俺が一番理解しているというのに。勘ぐっちまう。それはどういう意味なのか、勘ぐっちまう。バスケ、そうか、バスケか。バスケは、嫌いじゃない。練習は嫌い。疲れるから、嫌い。汗をかくから嫌い。けど、バスケは嫌いじゃない。公式戦でもなくて、練習試合でもなくて、記録にもなんにも残らない。そんな、くだらない、時間潰しのようなミニゲーム。そんなバスケは、嫌いじゃあ、ないんだと。なによりも俺が知っていて。

「………今度、暇なとき、な。」

たっぷり三秒ほど空間を置いて出した答えに、みんなは、笑っていたのかもしれないな、なんて。

あーあ。なんになっちまうぜ。バスケ馬鹿ばっかりだ。



本物はどれだっただろう
(ぐるぐるとした思考は、シャットダウン)

***
実際のところは誰にもわからない。ぐるぐると堂々巡りを続けるだけ。答えをだしても、本当に、それが答えだったのか。たぶん本人じゃあ、区別なんてつかない。そうであるといい、と、願った結果かもしれない。本物は、わからない。わからなかった。わかっちゃ、いけないのかもしれない。実際は、誰にも、わからない。まぁ、とりあえず、今が楽しければ、いいかもしれないな。なんて。ちょっと楽観的に、ボールを持つかも、しれない。な。

どうでもいいけどほもじゃない。


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