小ネタ 2 | ナノ

黒子/天才の端くれ
2014/01/11 00:13(0)

これの男主設定の子
あれとかそれとか、続いてるわけじゃないけど、関連してる
※急にはじまり急に終わる



「…そう、だな。認めるのは癪だが、確かにそうだよ。」


緩やかに弧を描きながら、不安定にもゴールに吸い込まれていくボールを操っていたのは誰か。めんどくさいと吐き出しながらも、うまくならない壁にぶち当たり諦めながらも、それでもボールを投げ続けるほかの人間との決定的な違いに気づいたのは、いつだったか。

自分のことは、自分がよく知ってる。
まさにその言葉通りの運命だったと、幾度投げても落ちないボールを見て、俺は直感していた。


「俺は、所詮天才だよ。」


自惚れじゃない。夢でもない。口癖でもない。ただただその二文字に込められた意味を、理解した。そして嫌悪した。どうして俺が。何度も何度も吐いては捨てたその言葉を、誰かに拾わせることは一度としてなかった。気づかせる前に俺はそれを捨てたからだ。大きな大きな壁が存在すると思っていた。実際に、確かにそれはあったのだろう。凡人がどう頑張ろうとも届かないその壁は、確かにそこにあったのだろう。ちゃんと、その壁に俺は届いていない。登り始めても、いない。けれど俺は、見逃していたんだ。その大きな大きな壁の前にあった、小さな壁。普通の人間には、そこを超えることさえ難しいことを、俺は大きな壁に視界を捕らわれてて、気がつきやしなかった。ただ無我夢中で、あの壁すげえなと言いながら、小さな壁を越えていたことに気づいていなかったんだ。そうだな、と返してきた友人たちはみな、その小さな壁を見て言っていたことに俺は気づきやしなかったんだ。だって、それがあるとも気づかないほど小さな壁で、けれども、みんなからしたらそれが大きかっただなんて。知らなかったんだ。


「年齢で分けるのが嫌い―――とは、言わない。だから言う。自分よりも年下のやつが、自分よりも未熟で人生を知らねえやつらが、そのでっけえ壁を簡単に登ってた。それがなによりも凄くて、強くて、羨ましくて、そして、ムカついたんだよ。絶対に手が届くことがないと知っていながら手を伸ばすのは、ムカつくからだ。年下なんかに負ける自分が許せねえからだ。俺の方がバスケやってるのに、俺の方がバスケを好きなのに、俺の、俺の方が、俺が!俺がバスケを好きなのに!!

 ―――と、これが一般ロン。凡人が、アンタら天才に向ける意識を総統したごく一部。年上になると、憧れになる。年下になるとプライドが邪魔する。じゃあ、同い年になると? まぁわかってんだろ、そうだよ。『プレッシャー』になるんだよ。お前は飛べるのに、俺が飛べないわけにはいかない。お前が外さないのに俺が外すわけにはいかない。お前が、俺が。そのエンドレスループさ。」


まあ、俺はそのどちらにも当てはまらない、クソ野郎ですケドね。緩い笑みを浮かべ、もう一度ボールを投げ飛ばす。ゆるり弧を描いて、凄く危なっかしいそのボールは、ギリギリのところでゴールへと落ちていくのだ。時には、ゴールに届くのかと危ぶまれるあやうさで。時には、ゴールを円をぐるぐると周り、外側に落ちてしまうのではないかというあやうさで。時には、ゴールに弾かれ空高く飛んだあやうさで。けれどもその危うさを得て、ボールは必ずといっていいほどゴールへと吸い込まれる。ラスト一点だとか、そういうシーンでやれば、感動的なのだろう。入ったら勝ちで、落ちたら負けで。そういうシーンでこそ、この危うさはスパイスとなり、そして精神的負担をかけるのだろう。投げた本人にも、周りの人間にも、だ。
けれども、残念なことに彼にその感動はわからない。危ういボールが堕ちることがないと知っているからだ。だから彼は緊張もせず、祈りもせず、唱えもしない。ただただ無感動に、いつもどおりの危うさで落ちていくボールを視界にとどめるだけ。呆然とした振りをしながら、周りのノリの合わせるための作業に入るだけ。なんて失礼なやつなのだろう。ボールが入っていないから、まだ結果はわからないのに。もうどうやって仲間に合わせるかを考えている。けれどしょうがない。なんてったって、入ってしまうのだから。彼が望まなくても、そのボールは入ってしまうから。

だから彼は、そのボールを捨てたのだ。


「『無冠の五将』も『キセキの世代』も、他のこぼれた天才達も、知りゃあしねえけどよ。だって俺はあのレベルの天才じゃねーし。けれどまぁ、天才の端くれから言わせてもらえばよ、才能ってのは、それが好きな奴のところには行くべきじゃねーと思う。純粋にそれが好きなやつは、純粋に壁にぶち当たって、純粋に乗り越えるために頑張った方が、純粋に最後まで楽しめると思う。天才になってみろよ、望まなくてもボールは入るし、相手はいねーし、嫉妬は買うわ恨みは貰うわでいいことなんてねえんだ。天才になんか、なるもんじゃねぇね。いやまぁ、成りたいと思って成れるなら苦労しねぇケド」


ま、あくまでも俺個人の意見だし、捨てた人間からの言葉だから気にしなくていいけどな。ぽん、と転がっていたボールをついて空へ上げる。その技術を見ていても思うけれど、彼は、本当に『捨てた人間』だというのだろうか。人は思う。けれど彼が『捨てた』と言っているのだから、捨てたのだろう。捨てた、ということにしておいてやろうではないか。何度もこうして彼はボールをとっているけれど、彼は、捨てているのだ。コートに立つことを、拒否したのだ。選手として選ばれることを、彼は、良しとしなかったのだ。その真意は誰にもわからない。彼程度の天才ならば、上はまだまだあったはずだ。鍛えれば、まだまだ彼は一本槍になれたはずだ。けれどその全てを彼は理解した上で、『捨てた』のだ。それだけが事実で、それだけが、現状でしかなかった。


「…え?なに、才能が恐くて捨てたフリしてるって?あー…いやまぁ、少なからずそら、あるよ。天才としての輝かしくも苦しい未来よりも、俺は楽な方をとっただけ。バスケは、嫌いじゃない。けれど吐くほど練習してまで、本気になってスポーツなんてしたくないね。汗はくせーし、疲れるし、それに、ダセエ。本気がダセエお年頃、ってあんじゃん。それだよそれ。本気とか、ダサくてやってらんねーの。勝利の気持ちよさも、敗北の苦しさも、そんなの求めてねーの。楽しくできて楽しく終われればそれでいいんだって。だから、俺は遊びのバスケを求めてたんだって。けど天才になったら、バスケは遊びでいちゃいけねーんだろ?だったら俺はバスケを捨てる。『チーム』を捨てる。俺が求めてるのは、お遊びなんだよ。本気の遊びじゃねーんだわ、文字どおり『お遊戯』でいいんだわ………だから、知ってる。ちゃんと、考えた。全部考えた。怖いって、そら怖いよ。バレたら、友達が友達じゃなくなるかもしれない。苦しい、やめたいって言い合ったやつらが他人になるかもしれない。勝負の駒として使われて、負けたら責任を負わされんだ。考えただけで恐ろしくて、前に進めやしない。俺は、臆病者なんだよ。被害妄想が激しい臆病者なんだ。だから俺は、臆病者らしく、『捨てた』んだよ。…ま、最近は新入生のせいでよくボールとってるけどな…、」


小さく最後に呟きつつも、気を取り直し、で、あとは?そう聞く彼の声色も、表情も、何も変わりはしなかった。きっと本心であり、そして、やはり今の言葉も建前でしかないのかもしれない。図星をつかれると人間とは焦るものだけれど、彼は、なんてことのないように答えてしまう。まぁ、彼はそういう人間だ、と言ってしまえばそれまでなのだが。


「…え?最後に、元後輩にって?…あー、俺、一軍じゃねーから学校の後輩に値するってだけで、知り合いでもなんでもねーんだけど…、そうだな。可哀想なやつらだよな。同情するよ。好きなことも純粋に好きだといえない天才だもんな、可哀想で見てらんねーわ。え、棒読みすぎる?文句言うなよ、大丈夫大丈夫、本心だからよ。すっごい哀れで、すっごい可哀想なやつら。けれどまぁ、いいんじゃねーの?あんな天才サマにゃ、俺ごとき端くれの言葉なんて群衆の戯言の一つだろ。だから言わせてもらうと、キセキならざるキセキ、だとか出てきてんじゃん。いえまぁ、うちの新入生のことですけど。あいついるし、全部丸く収まんだろ。なっがい喧嘩だよ。ただの喧嘩。いい年した高校生が、くだらねーことで喧嘩してるだけ。喧嘩したらあとは仲直りしかねーじゃん。そゆこと。いいチームメイトにも恵まれたようだし?いや、知らねーけど。見たこともねえけどね俺は。だから、ま、」


最後にもう一度、軽くボールをついて、放り投げる。相変わらずゆるゆると飛ぶそのボールは、また危うく弧を描きながら、ゴールの淵へとぶち当たる。空へ投げ出されたそのボールは、それでもゴールを目指しながら、ひゅるひゅると落ちていった。その一連の動きを、彼は相変わらず無感情な目で見届けながら、口を開く。


「あと二年、純粋に楽しめる日々が続いて、羨ましい限りですわ」


へらり、と微糖もそう思っていなさそうな笑顔で彼は告げる。所詮彼からすれば、他人事、なのだろう。事実彼はバスケ界にいるわけでもないから、他人事でしかなかった。知らないところの知らないやつらの知らない喧騒など、彼にはどうでもいいのだ。大きな大きな壁の上で、彼らが何をやっているかなど、道を外れた彼には見えないのだから。もちろん、壁の上からも、遥か下の群衆など目に入らない。だから、壁の上の住人は知らない。下にいるものの言葉など、聞こえない。知らない人間の知らない言葉など、授与しない。それで、いいのだろう。それでいいと彼も彼等も、決めたのだろう。どうせ数ある人間の、たったひとり。拘らなくても、この先の物語も、何も変わらない。

何も、変わらないのだ。
だってこれは、捨てた天才の、端くれの言葉なのだから。


「…さーて、次はなんの特技、探しましょっかねぇ」


ボールを転がしたまま、彼は去っていく。もともとあれは、彼のボールじゃない。ただ置いてあった、誰かのボール。彼はもうボールを持っていない。スパイクも、雑誌も、何も持っていない。

だって彼は、『捨てた』人間なのだから。




***

思うがままに書いてたらこんなことに。
正直、深い意味はまるでありません。ただ一言添えますと、実はこの主人公結構気に入ってます。名もありませんけど。

天才でありながら、その才能に畏怖し捨てる人間がいた。人は彼を、愚か者というだろうか。意気地なしというだろうか。きっと、誰も、言わないだろう。だって彼は、誰よりも先に開花に気づき、そして捨てた人間なのだから。誰も、知らないのだから。だから、彼は何も言われない。落ちこぼれの皮をかぶった天才だなんて、誰も、知らないから。

とかなんとかいいつつ黒子くんは知ってるんですけどね。キセキだとか、無冠だとか、相対すれば、わかりはするでしょう。彼は天才だと。相対しないので、する気もないので、わかりませんが。ただ木吉くんは、なんとなく感じとってるかもしれないなぁ。でも木吉くんと彼はそういう仲じゃなさそう。アホな会話繰り広げるだけ。まじめに花札やるだけ。二人とも、本心、触れなさそうですから。

彼をいろんな人と絡ませるのがとても楽しいんですけれど、毎度書くと彼がひとりでしゃべり続けています。何故でしょうか。わかりません。
彼の小ネタ結構あげるかもしれません。気が向いたときにでも。


感想(0)