小ネタ 2 | ナノ

弾論/絶望的な世界を見届けるB
2013/11/22 01:21(1)

※無印・2の両方の絶望的なネタバレです。未クリアの人はご注意ください。
※書きたいところだけ書き綴ったのを軽く手直しして付け足しただけのものですので、クオリティ・構成共にひどい出来ですがご了承ください。
※急に終わり急にはじまる
※話がよく飛ぶ

再度注意しますが、これは絶望的にネタバレのオンパレードです。本当にご注意ください。







江ノ島循子の世界にいながら、江ノ島循子の世界に染まらなかった、たった1人の人間。

それが、私。

「…普通だと、思うんだけどなぁ」

死なないために狂人の真似をして、狂人の巣窟に居座った。世界平和だとか、世界征服だとか、全然興味もなかったけれど、生きるためには欺き演じたさ。例え、どれほど気持ち悪い光景を目にしようと、自分が死ぬことよりは耐えられた。ブラウン管越しの映像と処理すれば、案外すぐに順応できるものだった。彼らは、それを知らないだけではないか。江ノ島循子の思惑と希望で、彼らは殺されずに生かされた。クラス全員が欠けることなく、の時点でおかしいのだ。運が良かった、わけじゃない。最初から全部、計算されていた。だから彼等は何も知らない。最初から最後まで安心安全の場所に立たされて居た彼等は、何も知らない。聖者は綺麗事しか言わないのだ。いくら私の話をしたところで、いくら感情的にぶつけてみたところで、所詮は絶望者の戯言だ。同情する余地もない。だから、私は喋らないし、動かない。だってどうせ、誰も解ってなど、くれないのだから。

「とりあえず、我らが希望様は最高に超いい人だったから私が死ぬこともなさそうだし…ま、暫くはゆっくりさせてもらいますか」

希望更生プログラムの始動まで、ゆっくりと。


(安定剤はくれないの)


***


「…よく、頑張るなぁ」

何度も繰り返される世界を見て、そんな感想をこぼす。自分なら三回やって諦めるだろう。いや、正直三回もやるのかも疑わしい。彼だから、できるのだろうか?いいや、彼等だからできるのか。仲間を救いたいという思いが、本能的に植えられている、彼等なら。
きっとこのまま彼等に任せっぱなしにしておいても、みんな起きるだろう。むしろ自分なんかは介入しないほうがいい。全ての記憶を所持している、自分というイレギュラーの介入は余計なバグをもたらすかもしれない。盛大な建前ではあるけれど、2割くらいは正直まじめにそう思っている。なんにしろ、根拠はないのだ。死んだと理解した脳に、それは夢だよ。本当は生きているんだよ。と、認識を変えさせるだけの機能だ。脳というのは未だに解明できないから、どうしてそれで起きるのかとも、どうしてそれで起きる時間にばらつきがあるのかもわからない。上書きだとか別名保存だとか、まったくもって科学的に証明されていない。けれど、奇跡が起こり、とりあえず目覚めて一緒にケアリングしていって、壊した世界を直せれば、それでいいのだろう。別にその機械を完全に理解しなくても、使えればいいのだから。

ほうら、そうこうしている間にもまた、キセキが起こったようだ。


(壊れた世界の欠片)


***


「………お前さ、なんだか冷たくね?」
「………え?」

思わず問い返せば、怪訝そうな顔で、まるで理解できないものを見るかのような目で見返される。なんで、そんな目で見るの。冷たいって、なに。普通、普通のことを、してるだけじゃないか。

「嫌われてんのかと思ったけど、別に誰に対しても対応の仕方変わらねえしよ。じゃあやっぱ俺が悪いんじゃなくて、お前が薄情なんだなって」
「…そんなに、冷たかったかな」
「フツーは、よ。フツーは、そんな風に、笑えねえぞ。」

そんな場所で。
続けられた言葉に、少しだけ目を見開いた。自分はただデータをまとめて、そのまとめたデータを確認しているだけだというのに。普通じゃないか。まじめに仕事もしているし、薄情でもサボりでもなんでもない。それなのに、何を言っているんだろう彼は。

「普通じゃん、薄情でも、なんでもないよ」

そう告げると彼は嫌そうな顔をして、去っていった。なんとなく、もう彼は好んで自分から私へと関わってこないだろうと思った。きっとこれは、予想じゃなくて確信だ。言い切ってもいい。なんでそんなに自信があるかって?ええと、そうだなあ。

これが初めてじゃないから、とだけ言っておこうか。

「…記憶消してもらった方が良かったかなぁ」

まあどうせ、変わらないんだろうけれど。


(絶望ごっこの様変わり)


***


目覚めたあとに、自分が起こしたことや、この世界の状況やら、全てを聞かされた。奇跡的にプログラム内の記憶も所持できていて、いいんだか悪いんだかはよくわからなかった。ただそのとき、俺は確かにひとつだけ、注意をされた。

「主人公には、気をつけて」

暗い瞳でそう言われたときに、俺は一体主人公がどんなに恐ろしい人物なのかと想像して怖がった。実際目にして、自分よりも非力そうな女に警告を疑問に思ったほどだ。

基本的に主人公とふたりっきりになる、というシチュエーションは少ない。俺だけに限らず、それは日向達やソニアさん達も一緒らしい。必ず三人以上、そして、大抵未来機関のやつらか、苗木達の誰かがついている。話したことはあるけれど、普通のやつだった。むしろ機械系に強いと聞いて、思わず少しだけ専門知識的な話題で盛り上がりそうになってしまったくらいだ。そんな彼女が、何故、危険だと苗木達は言うのか。俺には全くわからなかった。

「まぁ、私だけだからなぁ。正気で狂人やってたの。」

苗木達に聞いてもはぐらかされるから、直球で聞いたのだ。



話によると、主人公は、ずっとずっと正気のまま、絶望堕ちをしでかした俺らの中で笑っていたらしい。生きるために、死なないために、世界を切り捨て俺らに取り入った。ずっと騙り続けて、必死に演じて、そして手に入れられたのが、ひとりぼっちの記憶という、なんともまぁ虚しいものだった。
全員が捕まって、自分も捕まって、死にたくなくて今度は俺らを売って、自分だけは生きれるように、生きれるようにと立ち回って。笑いながら言うんだろう。「慣れるもんだよ」と。

「どうあろうと、人間という生き物は何にでも順応できるようになっているんだ。だからこそ、私は今こうして生きてるんじゃないか。」

へらりへらりと笑いながら、そいつは言う。孤独も恐怖も悲哀も狂気も希望も絶望も、全てを騙し込むように切り捨てて。たったひとりで、適当に感情から目を背けて、自分をも騙しながら立ち回る。そして、そんなそいつの頑張りに、同意も好意も、こないのだ。

「…可哀想なヤツ」

きっかけは俺らだったらしいが、謝れるものじゃない。謝ったところで、何も戻りやしない。世界は壊れたままだし、絶望は消えないし、あいつはあのままだし。何も起こらない。ただただ、自分の中の罪悪感を解消する手段にしか過ぎない。そう、そうだ。俺らが悪くて、あいつは悪くなかったんだ。けれど最終的には、あいつだけが悪いかのような、そんな世界にしてしまったのは、

「…やっぱり、俺らなんだ、ろうなぁ」

自分がしでかしたことは、覚えてない。削り取られた記憶と共に体の奥底へと眠ってしまったのその記憶は、今の俺に確認する術はない。けれど、けれど。できれば取り戻したくはないけれど。でも、その記憶を、取り戻せたら、もしかしたら、ああなる前のあいつを、知ることが、できるのかもしれない。できたのかも、しれない。こうして嫌悪せず、ただただ笑い合いながら、趣味の話をして、楽しむ。そんなことが、できたのかもしれない。

まぁ、そんなこと、もうできないのだろうけれど。


(忘却は悪ではない)



***



誰も来ない。誰も来なくなった。何もない部屋で、何も起こらない日々を過ごす。まるで病人のようだと思った。ベッドの上から動けなくなった、見舞い人の来ない病人のようだ。寂しいやつだな、と自分のことながら鼻で笑えてしまう。みんな目覚めた。キセキは巻き起こった。悲しみもバッドエンドも起こらずに、全員にハッピーエンドをもたらした。ああなんて美しい物語。その物語の隅で、燻り捨てられたゴミがあるのに、誰もそれに気づかない。ゴミだらけの世界で、気づけという方が無駄というもの。人を隠すならば人の中。ゴミを捨てるのも、ゴミの中だ。もう用済みとしか表現できない私は、誰に思い出されることもなく、いずれこの場で果てるのだろう。退屈は人を殺すと言う。まさに、そのとおり、私は退屈に殺されるのだ。何も与えられない部屋で、ただただ存命する為だけに飲食を口に運ぶ簡単な作業をしながら、少しずつ、着実に、殺されるのだ。

「…部屋の場所、移動しようかなぁ」

どうせ日常生活を送るのに問題のない設備は全て整っている部屋にしか移されない。けれど、ここの機関は広いのだ。いっそ別地域に設置されている機関に行ってもいいのだけれど、さすがにそれは許可が降りないだろう。上は、着々と、私を殺す気なのだから。目を離さずに、だからといって目をかけることもせず、自分の領域に放置して、殺すのだ。殺されるのだ。生にすがった結果がこれとは、我ながら笑うしかない。けれど生憎、何度も何度も言ったけれど、私は、強くないんだ。正直、こんなところで見張っている必要もないくらいには、強くない。外に放り出しておいた方が簡単に死んでしまうくらいには、脆い。

みんなが、人が言うほど、私は強くなんてなかった。凄くなんてなかった。

ただただ、弱者にはできることを、淡々と繰り返しただけなのだから。

「………だから、私は、弱いから、もう顔も見なくて済むように移動しようと思う」

ころっと思い出したときに来られても、困るのだ。放っておいてくれればいいのだ。自堕落な毎日を送りながら、孤独に死んでいくから。表沙汰にならずに、記憶から消えていくかのように、死んでいくから。誰の記憶にも残らずに、そっと死んで、そっと葬られて。やっと虫がいなくなったと胸を撫で下ろす人間を見ることもなく、死んでいくのだから。だから、だから。それが常であったと錯覚するためにも、忽然と、消えてしまおう。

だってそれが、最善で、最高なのだから。


(忘れられる神様)



***



「…あれ?」

ふと視界に映った扉が、なにやらおかしい気がして足を止めた。なにがどうおかしいのかはわからないけれど、なにかがおかしい。最後見たときは、もっとこう、なにかがあった気がしたような…。

「おい、狛枝!どうしたんだ?」
「あ、いや、ごめん。なんかこの扉、前見たときは、もっとこう…なにかなかったっけ?」
「扉…?こんなところに扉なんてあったのか?」
「あったみたいだね。なんの部屋か忘れちゃったけど…」
「うーん…扉、扉かぁ……んん、思い出せそうで思い出せない」
「だよねぇ…」

無機質に置かれた扉にもう一度視線を向ける。なにか、あったような気がする。大事な何かが、あった気がする。けれどいくら考えても検討もつかなくて、ボクは、そっと考えることをやめた。思い出せないことは、無理に思い出さない方がいいはずだ。それに、ここは広くて、わけのわからない部屋が多い。無闇に入るわけにもいかない部屋が沢山あるのも知っているから、ボクはその場から離れ、仕事に戻ることにした。

もうその扉のことは、忘れてしまった。


(キーポイント・ターンエンド)



***


感想(1)