信じてくれないだろうけどさあ、俺の話聞いて。

俺たちのアジトの一室。3人しかいないその部屋でそう喋り出したのはナマエだった。読んでいた雑誌から顔を上げれば、ぼーっと珈琲を飲んでいた仁王もナマエをみていた。

順を追って話していくね。

まず少し前にナマエは任務に必要な情報を集めるためにいくつもの図書館に何度も足を運んでいたらしい。二週間くらいそうしていたある日に少し休もうとして入ったカフェは混んでいて、所々で相席しているのが伺えたと。そこで折角入ったし、短時間だから自分も相席をしようと見渡せば本を読んでいる男性が目に入り、そいつに相席をお願いすることに。その男性に快く了承してもらい珈琲を飲んでいると本が好きなのか?と尋ねられたという。不審に思いつつもなんでですか?と返せば、よく図書館で見かける。目立っていたからね、覚えているよ。そう言って笑いかけられた。それが暗にお前みたいな金髪野郎には図書館が似合わないと言われたようで腹が立ったらしい。ちょっと調べ物がしたくて。お兄さんは今も読書してるし、知的な雰囲気だから図書館が似合いますね。嫌味のつもりで返したそれにも笑っていたというから、俺たちが知る限りは沸点の高いナマエをイラッとさせたそいつは凄い。

そこまでなら変なやつに相席頼んじゃった、で済むのだがそこから二人はぽつぽつと会話を続けたらしい。慣れてないやつには平坦な声で淡々と喋るナマエと芝居掛かったように喋るというそいつとの話は何気に楽しく、そこでお互いの名を名乗りなんと連絡先まで交換したと。

いやそいつお前のこと狙ってる輩だったらどうすんだよ…。

そう言いたくていつもより饒舌なナマエをみれば、わかってるしまだ話はまだ続くから丸井黙って。と冷たい声が返ってくる。いやお前の話聞いてやってんのはこっちな?

一応自分から相席を頼んだとはいえ、俺のこと狙ってる奴だったらやばいなってちゃんと名乗られた名前を調べたんだよ。もう一発でわかった。蜘蛛の団長だった。

はぁぁあ!?

俺の叫び声に仁王とナマエが嫌そうな顔をするがそんなのは関係ない。蜘蛛って、あの蜘蛛?

それは…と思うが俺たちの中にはいくつかの決まりがあることを思い出す。俺らのボスである幸村くんと幻影旅団の団長は停戦協定を結んでいる。俺たちと蜘蛛が闘ったら全員死んだっておかしくないから、命を懸けてまで闘うべきと判断される時まで誰とも闘ってはいけないと通達されているのだ。特に何も起こってない今、蜘蛛の団長がナマエを狙う心理がわからない。

特に自分を殺してやるといった類のオーラは感じないから、とりあえず誘われるがままにご飯を一緒に食べてたまに連絡を取り合う友達関係を続けているという。

此処までが蜘蛛の団長と仲良くなった話ね。

え、まだあるのか?と疑問を口にすれば、ここからの話は俺の推測でしか無いし二人の意見も聞きたい、との事。少し話に興味の出てきたらしい仁王が続き話しんしゃい、とナマエを急かす。

まずナマエには特定の彼女はいないがセフレは何人かいるし、適当に引っ掛けて遊んだりしているのを俺たちは知ってる。そして両性愛者であるということも。タチなナマエは綺麗な顔に突っ込めればいいという、顔がめちゃくちゃ綺麗であるということを差し引いてもクズなのだ。まあ、ヤったあと殺すまでがセックスという赤也もやばいし、顔見られたら殺すしかないじゃろとワンナイトワンキルの仁王もいるから殺さないでいるだけ少しまともなのかもしれない。

けれど最近どの子に連絡しても電話が繋がらず、折り返しもないまま。しかも新しい子を見つけても、次に会うことが出来なくなってるらしい。おかしいと思ってそれぞれのセフレを探れば、全員無惨にも殺害されていることが分かった。この街で殺しがあることはそれこそ可笑しい事じゃないが、自分の関係ある男女が次々と殺されるのは気味が悪い。そう思ったナマエは金で雇った情報屋を使って調べてみた。

分かったのは全て、蜘蛛の団長自らが殺害しているということ。あの団長がわざわざ自分が殺ったという痕跡を残すような事があるのか、と不思議がったナマエはある仮説に辿り着く。

わざと自分がやったとどこかで俺に解らせるためではないか。

ずっと立ったまま喋っていたナマエが仁王の横に座り、置いてあった珈琲を一口飲む。多分だけど、俺。言いにくそうに顔を歪めるナマエ。きっと俺も同じこと考えているし、あの聡い仁王ならもう気付いている。


俺、蜘蛛の団長にケツ狙われてない?


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