ユメモノガタリ




重たくて熱があるみたいに気怠い身体を無理やり起こして、最中に脱ぎ捨て(剥ぎ取られ?)散らばった服を集める。生まれて初めての行為はよくわからないし痛かったけど、あのクロロの甘く蕩けた顔も快楽に耐える顔もわたしに初めて見せてくれたと思えば、不思議と嫌ではなかった。むしろ、というとなんだか気恥ずかしい。

「ナマエ、もう起きるのか…」
「うん、朝ごはんたべよ。お腹空いちゃった」
「わかった。…その前に一回こっち来て」

隣にあるはずの体温がなくて少しむっとした様子のクロロが片手をこちらに伸ばす。その手を取ると引き寄せられ、鼻と鼻が触れ合うくらいの距離の寝起きの頬に一つキスを落とす。こっちも、と強請られるがままに唇にも一つ。満足そうに目を細めて優しい表情を浮かべるクロロに、服を手渡せばもぞもぞ起き出した。

「今日は二人のこれからの話をしたいな」

いつものように二人で朝ごはんを食べているなか、そう切り出したのはわたしだ。昨日の夜は出来ずにいた話の続きを。クロロもそうだな、と一つため息を零す。

どう切り出そうか迷っているのはきっとお互い様で。いつもの場所へ行こう、と誘った分わたしが先手を打てたに違いない。それでも家を出るとき、負けじと当たり前に繋いだ手を引っ張ってキスをしたクロロ。

負けず嫌いなところ、似てるんじゃない?わたしたち。

そんな可愛い顔しないでと摘まれた手に手を重ねて、クロロのこと考えてたのと告げれば一瞬固まったのを見逃さなかった。たまに見る可愛いきょとんとした顔にほら行こうと声をかけて、わたしたちはお気に入りの場所へ向けて歩き出した。

家からそう離れていないその場所。ゴミを避けて軽く砂や埃を払って、隣同士で瓦礫の上へとそっと腰掛ける。初めてクロロと出逢った時の事、呆れるくらい本を一緒に読んだこと、思い出たちが浮かんでは消える。

もう、ここにはきっと。

顔を見たら伝えたい事が言えない気がして。ただ真っ直ぐ前を見据えた。

「わたしがクロロのこと好きで、ずっと一緒にいたいって思ってるっていうことを大前提に聞いてほしい」
「…わかった」

不服そうながらも聞く体勢に入ってくれたクロロ。ぎゅっと握りしめた拳が少しだけ震えるのが伝わってくる。

「……マリアさんが迎えに来てくれたら一緒に行こうと思う。これからの事を考えた時にハンターライセンスが必要不可欠だなって。」
「俺と一緒にいたらそんなもの無くても、」
「そんなことない。わたしはクロロの言う盗賊団には入らない。仲間でも無いのにわたしの為にクロロが危険な目に遭うのはお門違いだし、他の仲間も良い顔しないよ」
「それならば昨日の言葉を訂正する。ナマエも仲間になろう」
「足手まといになるだけだよ。十分な戦力もないわたしがいたんじゃ。だからこそ少しでも強くなる為にマリアさんの元で修行がしたいの」
「ナマエの言いたい事はわかった。わかってて敢えて聞いてもいいか?」
「……うん、もちろん。」
「俺と一緒に強くなるんじゃ駄目なのか?」
「この環境だと、わたしは強くなれないよ」

水見式を行って具現化系だとわかっても、念での戦い方もわからなければ能力さえ決められずにいる。仲間内だけでの修行はもうきっと限界だった。

「……それでね…。これはわたしの我儘だから、その…。修行終わって、ライセンス取れたら…またクロロと一緒に過ごせたら良いな、って…。」
「そのつもりだったのは俺だけなのか?残念だな」
「えっ!?待っててくれるの!?」
「なんで待ってて貰えないと思うんだよ、ナマエの馬鹿」
「だって…クロロから自分勝手に離れるのに待っててもらえるなんて、そんなの都合が良すぎるから…。」
「ナマエはもっと俺に愛されてるって自覚を持って。ハンターライセンスを取れたら迎えに行く。そこからは俺の我儘に付き合ってくれるか?」
「う、うん!」

「もう二度と俺の元から離れないって誓ってくれ」

いつかの本で読んだプロポーズみたいだと、心臓が大きく跳ねる。手の甲に口付けて、その手を握って。溢れでた涙をそっと掬って。

「…もちろんっ」

留まらない涙と鼻声混じりの返事にクロロがふっと笑う。そしてそのまま耳元に感じる違和感を受け入れてたら、擦れ合う金属の音。カチ、と控えめに届いた音と重くなった耳朶。飾り気のなかった小さいピアスから重量のある青く光る丸いものに変わったのがわかった。

「よく似合う。お揃いだから失くさないようにな」
「可愛い…!でも、良いの…?」
「婚約指輪が手に入らなかったから、その代用だよ」
「ふふっ、懐かしい」
「有り得ないと思うけど浮気したらその時点で修行もライセンス取得もなしで連れ戻すから覚えておけよ」
「心配性だね、クロロは」
「ナマエの事になると冷静じゃいられないんだよ。…そんな俺は嫌い?」
「まさか。…後にも先にも大好きなのはクロロだけだよ」
「俺もだよ、ナマエ」

クロロから貰ったピアスを意味もないのに嬉しくてつい触ってしまう。お揃いなら他にもあるのに?って肩を撫でられるけれど、普段人に露出しない場所だから見える箇所でのお揃いが嬉しい事を伝えたら、やっぱり無理矢理にでも指輪を用意するべきだったって残念そうに項垂れるその姿。一度渇いた筈の涙がまた顔を出す。

「俺以外の前で泣くなよ」
「クロロもわたしの前以外で泣かないで」

クロロは欲張りで執着心が誰よりも強いのに、自分に対しては無頓着で欲がないから。クロロが大切に出来ないあなたの命をわたしが大切にするから。その為にわたしは強くなるから。

だからどうかその日が来るまで、死なないで。







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