彼が少年であった日




あぁ、今日もまた朝が来た。朝日に掠れた声でおはよう、と小さく告げる。誰から返事が無くても、朝はおはようというもの。いつから始めたか分からないそれを毎朝言うのだ。生きている、声がでる、それを実感する為に。

昨日の昼に見つけた賞味期限の切れたパンのカビた部分を最小限取って、食べられそうな部分を口に運ぶ。パンは喉が乾くから、見様見真似で作った濾過装置に泥水を流し込む。ぽとり、垂れてくる少しだけ綺麗になったそれが一口溜まったところで口に含んだ。美味しくはない。

食事が終われば何か良いものがないかとそこらへんを歩くのが毎日の日課だ。わたしの中の良いものは食べ物、服、あとは本。ここら辺に住むのはろくでもない人が多いから、本は意外とすぐに見つかる。今日見つけたのは童話だった。それでも読めるのならば構わない。

見つけたそれを少しだけ高い瓦礫の上に座ってひらけば、汚れてはいるけどここに落ちているものにしてはとても良い状態だった。これは持ち帰って大切にしよう。嬉しく思いながら読んでいれば、ふと誰かの気配を感じた。周りを見渡せば黒い目が二つ、こちらをじっと見ている。負けじとじっと見れば、ごみをぐしゃり踏みつけながら黒い目の持ち主はわたしの目の前にくる。

「こんにちは?」
「…何読んでるんだ」
「さっきそこで拾った童話」
「童話か」
「読めるならなんでも良いの。要らない知識なんてないから」
「俺はクロロ。君は?」
「私はナマエ」
「そうか、よろしく」

よろしく。それは果たしてどういう意味なのか。わからないまま同じように返せば、彼は隣へとひょいと座る。随分近くなった彼の顔を見れば、同い年くらいのようだ。

「前からここで本をいたから気になっていたんだ」
「本読むくらいしかする事ないの」
「本なんて楽しいのか」
「……知らないことは怖いことだって、前にここをでて行ったお姉さんに言われたから。」
「知らないことは怖いことなのか?」
「その人に言われるまで、ここが異常だってことも他にもたくさんの事を知らないんだって気付いたの。」
「…なるほどな。俺にも読めるか」
「もちろん。私の家に他にもあるから。良かったら貸そうか。」
「あぁ、頼む」

普段と変わらないはずの今日、わたしは友達が出来た。








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