世界の中心で二人ぼっち




クロロに手を引かれて歩きだしてからもう結構な時間が経った気がする。ゴミの上を歩くから体力よりも足の痛みが先に来てしまって、まだクロロの言う目的地にすら辿り着いていないのに帰りのことが心配になってきた。

「まだかかるの?」
「いや、此処まで来ればもうすぐだよ。少し休憩しようか?」

ううん、もう少しなら頑張れそうと歩みは止めない。むしろここで止まってしまったら再度歩き出すのが億劫になってしまうだろう。

「帰りは俺が背負ってくよ」
「それは絶対嫌」
「ははっ、冗談だよ」

クロロにおんぶされる帰り道を想像したら、かなり間抜けな絵面でそんな恥ずかしいことは絶対したくなかった。気合いを入れようと持ってきたペットボトルの水を飲めば俺も、とせがむので渡したら普通にごくごく飲まれた。いや、それわたしがここまで持ってきたやつなのに。

「あ、間接キス」
「…クロロのそういう知識はどこからなの?」
「主に本だな。それをナマエと体感していくのがすごく楽しい」
「う、うん…」
「理解できないって顔してるな」
「でもクロロが楽しいなら嬉しいって思うよ」
「……急に可愛いこと言われるのは俺だって恥ずかしい」
「言ったわたしだって恥ずかしい!」

そのままクロロとの会話は途切れることなく、着いたと言われたその場所にあったのは小さなお店だった。何の躊躇もせず黒い重たそうな扉を開けて中へと入る後ろにわたしも続く。

「……よく来たな」

奥からぬっと出てきた人影、そして何よりその人の風貌に息を呑む。顔や耳は穴だらけでその穴を埋めるたくさんのピアスに人間の肌ってそこまで黒く見えるのかってくらいにタトゥーで埋められた身体。ピアスもタトゥーも見たことがないわけではない。ただ、いかんせん数が多すぎて脳内の処理能力はパニックだ。

「この前頼んだのを挿れにきた」
「あぁ、あれくらいならすぐ終わる。…連れにもか?」
「俺と同じものをね。」
「まって、クロロ。なに、なにするの?」
「ピアスホール開けるのととタトゥーを彫る」
「……クロロが?」
「俺とナマエが」
「いやいやまって、理解が追いつかない」
「言っただろ。ナマエが欲しいかはわからないけど、俺から貰ったら嬉しいって」
「たしかに言ったけど!」
「俺は前から決めてたんだ。だけどナマエとお揃いならもっと良いだろうと思ったから」
「お揃いのタトゥーいれるってこと?」
「…ナマエの綺麗な肌に傷付けるなんて、ましてやそれを他の男にやってもらうなんて癪だけど。」
「………うん」
「それでもナマエと同じ物が欲しい。同じ傷が欲しい。……ナマエの身体を傷付ける罪を一生かけて償っていくから。だから、俺のお願いを聞いて欲しい」
「……そんなの、ずるいよ」
「ずるくたって構わないよ。ナマエが頷いてくれるなら何だってするさ」
「本当、クロロって馬鹿」
「パクから聞いただろ。必死なんだ」

おい、どうするんだ、と店主に声を掛けられてはっとする。もう此処で素直に頷くしか道はないことくらい、馬鹿なクロロが好きな大馬鹿のわたしにだって分かっている。痛くないやつにしてよ、とせめてもの抵抗をすれば最初からそのつもりだから此処にしたんだ、とあっけらかんとクロロは言った。



数時間後にはクロロの額とわたしの左肩に、一つの間違いもない同じ十字が浮かんでいた。自分と同じ形をした出来たばかりの傷を愛おしそうに触る彼が至極幸せそうに呟く。

「ずっと一緒にいよう、ナマエ」

頷くわたしにみるからに安堵した表情を浮かべるクロロを横目に、店主に包帯を巻いてもらう。彫って終わりというわけでも無く、アフターケアをしっかりしないと安定しねえからなちゃんとしろよと必要な薬や包帯を受け取りながら説明を聞く。運動も駄目なので、明日から修行は抑えなければいけないようだ。お礼をいって店を後にする。

「帰ろう」

当然のように繋がれる手を握り返す。

クロロはいつだってわたしの心変わりを気にしているし、好きだと強引に決めつけたわりに常に不安を飼い慣らしている。どこか不安定な彼に、わたしは目が離せない。

「……クロロ、好きだよ」

好きだよ。人を好きになるなんて、はじめてでよくわからないけど、きっと好き。

いつか選ばないといけないその日のために、正解を求めて浮かんだ二人を何度も何度も天秤にかけた。その度に何度もクロロが空へと近づくのだ。しかし、今日は違う。わたしの世界の中心が今日、変わってしまった。ゆらゆらとクロロより高い位置にあるマリアさんの顔にはっとする。

正解が正しいとは限らないとわたしに教えたのは果たして誰だったのだろう。






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