さようならはかなしいから



ザッ、ザッ、ザッ。真っ赤なピンヒールが、砂に埋まっては歩いた軌跡を作りながら、穴を増やす。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。急に足取りが重くなったのは、海水の浸る砂浜まで到達したからだろう。ぐしょりと嫌な感覚が右足、次いで左足を襲った。じゅぷ、と水気に冷やされた足が歩みを止める。まだ進みたかった、もっと進みたい、まだ、行けた。そうは思ってもそれを、許さないクロロがいた。
「帰りたくない」
お家に帰ったら、寝てしまったら、何日、何週間、何ヶ月貴方と会えなくなるの?
子供みたいに嘆いたら、次の約束も無くなってしまう。それは嫌だった。しかし、ショッピングをしてカフェで他愛も無い話をして、美味しいディナーを食べた今日が終わることも耐えられない。我儘で悲観的な思考も、本当は駄目だと分かっているのに。
「だから死ぬのか」
「…そんなつもりはないよ」
「困らせないでくれ。この時間、無駄だと思わないか?」
「酷いよ、そんな言い方」
ろくでなし!ばか!ばーか!バッグは可哀想だから、持っていない方の手でクロロの肩を軽く押す。この戯れも、暫く出来ないのに!と不満を溢そうとしたとき、叩いた手を引き寄せられ、勢いに任せてクロロのシャツにぶつかってしまう。ボタンが当たった鼻が痛くて、怯んだ私に構いもせず口付けられる。
「次の約束だけで良いのか?次の次に会っても、お前のやりたい事は終わらないんだろう?」
「……次の次も会ってくれるの?」
「その約束を決めたら、もう一度キスがしたい」
嘆くよりしなきゃいけないことはまだあるぞ、とクロロが悪戯な笑みを浮かべた。
二人で幸せなまたねを探すための時間はいつだって優しくて、ちょっぴり切ない。

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