「おはよ、新一!」
「はよ!名前!」
いつもの様に彼の頬にキスをする朝。
「今日の朝ごはんは何がいい?」
「ん〜…今日はオメーが食べ」
「あ・さ・ご・は・ん!なにがいいっ!?」
「……パン」
「オッケー」
「ちぇっ…」
いつもの様に彼を交わしつつ、朝食を食べ…
「う〜、寒いぃ…」
「ほら、これなら寒くねぇだろ?」
「…うん!」
いつものように、大好きな人と手を繋ぎながら歩く。
「おはよー!」
「蘭!おはよう!」
「あーあ、ウルセぇのが来た…」
「新一!何か言った!?」
「…」
『あはは…』
これもいつもの朝の光景。
でも、今日は違うの。
何故なら…
「もう…ほら、今年も作ってあげたよ?」
「お、サンキュー!」
『あーっ!新一ずるい!私もチョコ食べたいよぉ!』
「もちろん名前のもあるよ!はい!」
『きゃー!蘭ありがとう!』
今日は2月14日、バレンタインデー!
世の中の男女が一斉にそわそわする日。
「ねぇ、名前は新一にもうあげたの?」
『ううん?帰ったら一緒に作るの!』
「一緒に?」
『うん!女がどの様に怨念を込めるのか見せてあげようと思って!』
「あ、そう…(怖いよ名前…)」
「ははは…」
私達3人は、いつものように並んで校舎へ入る……はずだった。
「「「「工藤くん!」」」」
『え?』
「「「「工藤先輩っ!」」」」
『えぇっ!?』
あっという間に私の彼氏は取り囲まれたワケで…。
『らーんー!!』
「え?」
『何よあれっ!!何でヨーコちゃんが渋谷のど真ん中に現れたみたいになってんのよ!!』
「あ、そっか。名前知らないもんね?」
『へ!?』
「新一、中学の時からあんな状態だよ?」
『は……?』
「アイツ、顔だけは無駄に良いもんね〜」
『…』
「フフッ!イケメンな彼氏を持つと大変ね?」
『…む〜〜!』
次から次へと膨らんでいく新一の通学鞄。
下校する頃には、哀れに思った先生から貰った大きな紙袋3つがパンパンに。
「あ〜重てぇ…」
『…じゃあ貰わなきゃいいじゃん』
「貰った覚えはねぇよ!アイツら、勝手に押し付けていきやがって!」
「でも新一、今年はすごく少ないね?去年までは10袋はあったのに…」
『はぁ!?』
「あぁ、まぁな。多分俺が名前と付き合ってるからだろ?」
『…ふん!あー嫌だ嫌だ!!』
「「え?」」
『何よ何よ何よっ!大体、日本のバレンタインデーはおかしすぎるのよっ!女性から男性への一方通行的贈答だし、女性の愛情表明の機会って認識されてるし!』
「…名前がそんなに妬くなんて珍しいな?」
『べっ、別に妬いてなんか…』
「え〜?本当〜?」
『ほっ、本当だってばぁ!焼きもちなんか妬いてないよっ!』
「じゃあ何で焦ってるの〜?」
『っ!!…さ、先に帰るっ!!』
何よ新一ったら!!
私という彼女がいるんだから捨てればいーじゃないっ!!
チョコ作っても新一になんて絶対にあげないんだからっ!
イライラしながらキッチンでチョコを湯煎にかけていると、玄関を開ける音が聞こえた。
「ただいまー…あれ?オメー何で先に作ってんだよ?」
『…ふんっ!新一にはあげないもん!』
「はぁ?まだ機嫌わりぃのか?」
『別に機嫌悪くなんかないもんっ!新一には食べなきゃいけないチョコがいっぱいあるでしょ?』
「あぁ、あれ捨ててきた」
『…はっ!?何で!?』
「何でって…今までもそうしてたし」
『えっ…そうなの?』
「おー」
『……』
何よ、嬉しい事言っちゃって…
───ペトッ…
『わっ!なにす…』
「それじゃ、美味しく頂くとするか…」
『ひゃっ…ちょっ…!』
生暖かいチョコが塗られた私の顔を、彼は本当に美味しそうに堪能しました。
『(何だか負けた気分…)』